僕の好きなアジア映画27:小公女
『小公女』
2017年/韓国/原題:소공녀(英:Microhabitat)/106min.
監督:チョン・ゴウン(전고운)
出演:イ・ソム(이솜)、アン・ジェホン(안재홍)
韓国、特にソウルの若者たちの住宅事情は、日本では想像できないほど厳しいらしいです。若者たちがほとんどの場合お金がないのは日本と同じなのだけれど、入居時に支払う保証金が異常に高く、なかなかまともな部屋を借りることは難しいようです。もちろんこれも日本と同様に、若い女性たちにとってはさらに厳しい現状だろうと思われます。
本作の主人公は、ウイスキーと煙草と彼氏さえいれば幸せ、という女性。家事の代行業で生業を得ていますが、もちろん経済的に困窮しています。しかし様々な値上げの中でも、ウイスキーと煙草と彼氏を守り抜くための彼女の決断は、家賃をなくすること(アパートを解約すること)、つまり住む場所をなくして、その分で自分が愛することに使うお金を捻出するというものでした。
彼の住むところに転がり込むこともできず、さらに彼氏は海外勤務に。昔組んでいたバンドのメンバーの家に転がり込む作戦に出るのですが、もちろんかつての友人たちは、定職についていて昔のままの彼等ではあり得ないわけです。転々と泊めてもらいつつも辛い思いをすることも避けられないのですが、それでも彼女は自由に生きることを諦めず、彼女にとって大切なものを守ろうとします。
主役を演じたのはイ・ソム。モデル出身の女優さんです。目つきが悪いんじゃないか、ってくらい目力の強い方で、美人というよりは個性的。独特の雰囲気があります。しかしさすがモデル出身ということで、全体的な有り様がカッコいいんですねよ。辛さをほとんど見せず飄々として生きる孤高の主人公のイメージにほぼ理想的にマッチしています。タバコもウイスキーもとても似合います。本作の演技で野花映画賞主演女優賞、釜山映画批評家協会賞女性演技賞を受賞。
監督はチョン・ゴウン。本作は俳優(『フィッシュマンの涙』など)でもあり脚本家でもある彼女の長編デビュー作。この作品は女性の視点から、自分らしく生きることの難しさを描いた映画でもあり、何も変わらない彼女と変わっていく周囲との対比を描いてもいます。そして何より小公女というタイトルが示唆するように、変わらない、変えようとしない主人公の淡々として毅然とした生き様に、一種の気高さを見出しているように思います。
青龍映画賞新人監督賞、大鐘賞新人監督賞・脚本賞などを受賞した映画ですが、日本では公開されず、JAIHOで観ました。
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