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僕の好きなアジア映画54: 三姉妹

『三姉妹』
2020年/韓国/原題:세자매/115分
監督:イ ・スンウォン(이순원)
出演:ムン・ソリ(문 소리)、キム・ソニョン(김선영)、チャン・ユンジュ(장윤주)、チョ・ハンチョル(조한철)、ヒョン・ボンシク(현봉식)


日本では家父長制度が強く残っている家庭など、今やほとんど絶滅危惧種に近いものになっていると思う(違いますか?)。しかし日本より儒教的道徳観が広く浸透している韓国においては、未だにそれは社会を歪める大きな問題なのだと思う。物語は暴力で子供達を抑圧してきた家父長の下で育った三姉妹(プラス弟1名)を描いたもの。

長女は離婚をして、小さな花屋を営んでいるが、前夫からは金をむしり取られていて娘は反抗的、常に怯えているようで誤魔化すような作り笑いをしてしまう。自分が癌であることもなかなか家族に言えない。

『愛の不時着』などでの素晴らしい演技で売れっ子バイプレーヤー、キム・ソニョン

三女はドラマの脚本家だが、スランプで酒に溺れ、だらしない生活を送っている。アルコール中毒でまともに家事も仕事もしないが。幸い夫は優しい。しかし反抗的な夫の連れ子とはうまくいっていない。

チャン・ユンジュは元ファッション・モデル

次女は教会で讃美歌を指導する教会関係者で、一見すると唯一まともなように見える。が、実は口うるさく自己中心的で、押し付けがましい。夫はそんな偽善的な妻にうんざりしていて、若い女性と浮気をしている。そんな浮気相手に彼女は極めて卑劣な暴力を振るう。

やはりムン・ソリはめちゃくちゃ芝居がうまいのである。本作のプロデューサーでもある。

つまりこの三姉妹、一人としてまともな人間がいないのだ。3人とも明らかに性格が歪んでいる。長女と最後まで登場しない末っ子の長男は、父から明らかな物理的暴力を受けて育った。次女と三女にしても精神的暴力は無論受けていたのだろう。幸い成人した三姉妹はベタベタした間柄ではないが、仲は悪くない。

次女が自分の娘に食事前の祈りを半ば強要する場面や、合宿のように信者が集団で泊まり込みする場面。カルト宗教(この映画の宗教は真っ当なキリスト教のようだが)問題、その二世信者問題が深刻なのは現在の日本においても同様である。

その三姉妹が父の誕生日の集まりで大爆発する。絶対的権力者である「父」を糾弾するのだ。彼女達(長男を含む)の必死の抗議に権力者であったはずの父親はなす術もない。この後彼女達がどうなったかは描かれていない。しかし少なくともこの時点での彼女達が「解放」されたことは間違い無いのだと思う。これは解放の映画だ。


百想芸術大賞助演女優賞、青龍映画祭主演女優賞、同助演女優賞


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