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僕の好きなアジア映画14:理大囲城

『理大囲城/Inside the Red Brick Wall』
2020/香港/原題:理大圍城
監督:香港ドキュメンタリー映画工作者


コロナ禍において、今回初めてオンラインでの開催となった山形国際ドキュメンタリー映画祭のインターナショナル・コンペティションで、大賞を受賞した作品。

2019年11月、逃亡犯条例改正反対運動のデモ隊と香港当局との衝突が激化。デモ隊は香港理工大学のキャンパス内に逃れ、というか追い込まれ、重装備の警察に包囲される。デモに参加した人々は、大学から脱出しようとすると逮捕されるため、大学キャンパス内に11日間も閉じ込められ、籠城を余儀なくされたのだ。

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警察側からの催涙弾やゴム弾、そしてや放水などでデモ隊を威嚇襲撃し、その場にいなければ決して撮影しようがない生々しく切羽詰まった状況が映し出されている。

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デモ隊もバリケードをめぐらせたり、炎瓶や投石などで反撃をする、まるで戦場のような大学構内。食料も不足し始め、満足に睡眠も休息も取れない状況が続く。脱出や突破を幾度ともなく試み、大学の外にいる仲間の助けに希望を託す。しかし疲労や焦燥が蓄積されていく。

警察は強硬であり、かつ狡猾である。武装のレベルも元々デモ隊とはまったく比べようがない。その上しっかりとした作戦をたてて、籠城しているデモ参加者を追い詰めていく。暴力による抑圧のみならず、高校教師を構内に入れて自首の説得に当たらせるなど硬軟取り混ぜて、デモ隊を混乱させていく。

それに比べてデモ隊の方は行動を計画し指令する確固たるリーダーもおらず、場当たり的な突破行動は自ずとうまくいくわけもなく、徐々に仲間同士での意見の対立が生じ始める。疲労は人の理性を鈍らせてしまう。もちろん武装をしているわけでもないし、行動に統一された方向性がなくなっていく。争う術も、その意思も徐々に失われていく。

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しかし誰がそれを責めることができるだろうか。偶発的に籠城を余儀なくされた彼らに対して、相手は武装し人権をなんの砦とも思わない絶対的な国家権力なのであるから。そして末端の警察官達も単に国家権力の指示のもと職務を全うしているに過ぎないのだ。

生々しい映像は、単に一つのデモに対する抑圧の映像ではない。香港の民主主義が強大な独裁国家中国に飲み込まれていく過程そのものである。自由というものが強大な権力のもとではで如何に脆弱で、簡単に蹂躙されてしまうものであるかを我々は目前にするのだ。

山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)


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