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【第31回】やまがた楽器店 代表取締役山形正明 さん、専務取締役 山形真由美さん

この記事は、2024.2.5に公開したものです。

https://www.city.mishima.shizuoka.jp/media/05095060_pdf_2024215_rad87930.pdf

音楽で「ご縁」をつなぐプラットフォームに


 長きに亘り三島で音楽に関わる人たちのよりどころとなってきた、本町の「やまがた楽器店」。2023年6月にリニューアルオープンし、より地域に開かれたお店を目指しているそうです。社長の正明さん、演奏家やイベント企画者としても活躍する真由美さんご夫妻にお話を伺いました。

ー やまがた楽器店の始まりと、業務内容について教えてください。


どんな楽器も扱える「楽器のデパート」


 音楽と釣りが趣味の曾祖父が、1913年に土間にオルガンを置いて始めました。私(真由美さん)が子供の頃は釣具と楽器が半分ずつのお店でした。
 祖父の代の1952年に会社設立、父の代でヤマハ特約店になり、地域の皆様に楽器販売を行ってきました。どんな楽器でも扱える「楽器のデパート」として、ピアノをはじめ、管楽器、弦楽器、邦楽器、しゃぎりの楽器も扱っています。祖父が足で探した時代から続くおつきあいで、メーカーを問わず全国から良いものを取り寄せています。また、指導者に使いやすいお店を目指して、楽譜の品揃えを充実しています。
 売って終わりではなく、修理や演奏会への楽器運搬、音楽教室の運営など、楽器販売をご縁に音楽を楽しむ地域文化のお手伝いをしています。三島市民芸術祭をはじめ、市内の音楽関係の催しには専門店として積極的に関わっています。社員スタッフみんな音楽が好きで、それぞれに得意分野があり、研鑽を積んでいます。

ー ご夫妻がお店に関わるようになった頃の三島の音楽環境はどうでしたか?

(真由美さん)音大を卒業して三島に戻りました。当時の沼津・三島クラシックサロンや三島ピアノ音楽研究会などで、諸先輩方に支えられ地域で演奏活動を続けることができました。
 私たちの出会いは、今年(2023年)創立50周年を迎えた三島グロリア合唱団でした。当時から、三島をはじめ東部地域の演奏家を育てようという土壌があったんですね。若い頃に三島でNHK交響楽団メンバーと五重奏のピアノ演奏をする機会を得たことは、地域の仲間との演奏活動を超え、大変勉強になりました。そのような経験の恩返しとして、主宰する「ピアノ音楽研究会」をはじめ、演奏会の企画や演奏家の紹介など、地域の若いアーティストを応援する活動も行っています。

ー リニューアルに込めた想いを教えてください。


この場所が、ご縁を繋ぐ場所になるように


 このお店がさまざまな人や情報が集まり、ご縁を繋ぐ場所となることを願っています。リニューアルオープンでは、より地域に開いたお店になるような工夫をしています。店舗前でストリートライブやミニイベントを行ったり、キッチンカーに来てもらえるようにスペースを設けました。今後、街行く人が自由に弾けるストリートピアノも設置したいですね。
 2階のレッスン室は、ピクチャーレールがあって展示も可能です。楽器練習の場としてもこだわっていて、2台のグランドピアノが向かい合わせになった練習室は静岡県東部地域では珍しく、コンサートのための練習やレッスンがしやすいようにレイアウトも工夫しています。
 楽器の練習だけでなく、ミーティングやパーティーなど、地域の皆様にさまざまな用途で使っていただけるレンタルスペースとなっています。今後は定期的に小さな演奏会をできたらと考えています。
 (2024年)春と秋には三島のフレンチ「おんふらんす」さんに協力いただき、美術作品を飾り、それに合わせた曲を演奏するアフターヌーンティーの会や、本格フレンチと三島のヴァイオリニスト・牧野順也さんの演奏のマリアージュを楽しむランチコンサートを計画中です。

ー 真由美さんは演奏家としてもさまざまな活動をされていますね。

 地元企業と音楽家、他ジャンルのアートを交えた楽しい企画をたくさんやっていきたいと以前から考えていて、その実践のひとつがピアノ音楽研究会の「リーフコンサート」です。子供たちが良い音楽に触れる機会を作るとともに、ピアノ演奏にソロ以外の可能性を追求しています。声楽家とのコラボや、ピアノ以外の地域の演奏家もたくさんゲスト出演するコンサートで、2023年で7回目を迎えました。
 近年のものでは、三島のアート支援団体「アルテ・プラーサ」の企画で、子供たちがショパン「華麗なる大円舞曲」のピアノ演奏を目の前で聴いて、同時代のヨーロッパ絵画を見て、音楽を絵にしてみたワークショップは印象深いです。また、SPAC俳優の奥野晃士さん主演で、ショパンの人生をピアノ演奏と関連映像とともに追う、演劇仕立てのコンサート「ショパン物語」も高く評価されました。三島市民文化会館の照明技師さんの技術が素晴らしく、演技、音楽、映像、舞台照明が一体となった姿が心に強く残っています。


奥野晃士氏と作った「ショパン物語」(2021年)



ー どのような考えから活動を続けているのでしょうか。

 普段クラシック音楽に触れる機会が少ない子供たちに質の高い音楽を届ける試みとして、生涯学習センターで無料のロビーコンサートも行っています。


質の高い音楽を多くの人に届けたい


 感性が開いている幼い子が初めに聴く音楽は、一番良いものであることが望まれます。三島では、地元の演奏家が学校に演奏に行く巡回音楽会が続けられていますが、質の良い音楽に子供たちが出会う機会が今以上に増えて欲しいです。
 また、プロの演奏家に正当な演奏料が支払われる環境づくりが、日本ではまだまだ十分ではありません。ヨーロッパではアーティストを支援する組織があり、企業のバックアップにより、有料のコンサートも学生や子供は無料や安価であったり、リハーサルに招待するなど、良い音楽に出会うための仕組みがあります。また、教える、演奏する方の人材育成も重要です。

ーこれからのやまがた楽器店と三島について展望をお聞かせください。

 新しい店舗のロゴマーク・キャラクターは、三島のアーティスト・岡部稔さんの作品です。この店に来た方に希望となる何かを得てもらえたらという想いを伝えてオーダーしました。何度もお店に足を運んでいただけるようにという願いを込めて、音楽のリピート記号がアルファベットにあしらわれた「YAMAGATA」のロゴタイプは、デザイナーの橋本明花さんによるものです。シンプルなデザインの店舗に、アートの力をお借りしました。

新店舗外観

 幅広い世代が音楽に触れる機会づくりを作るための新しい試みとして、これまでの音楽教室に加え、高齢者向けのゆうゆう塾脳トレピアノ®も始めます。楽譜を見て指を動かすのは脳に良い! と、グループで楽しく好きな曲を歌ったり、指1本からピアノを弾いたりする教室です。小さなお子さんからご高齢の方まで、音楽を楽しむ人はみんな元気です。街中に音楽があふれる三島になったらいいですね。そのためのお手伝いを続けていきます。



やまがた楽器店
三島市本町11-5
TEL 055-975-0207


やまがた楽器店
1988年三島グロリア合唱団で団員と地元ピアニストとして知り合い1991年結婚。2001年に父の後を継ぎ「やまがた楽器店」3代目社長(正明氏)・専務(真由美氏)に就任し現在に至る。2021年店舗が全焼するが、2023年に新築復活。楽器店の営業を通じ、三島の文化芸術・教育の発展に邁進している。

2024.2.5 text Yuka Nimura, Maki Sumi & photo: Akiko Matsui


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