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【読み切りショートドラマ】花火大会の夜、サービスエリアで

●夜の高速道路

高速道路を走る車。
ヘッドライト。

●週末のサービスエリア

季節は秋。
売店の前には、秋らしい商品名が書かれたノボリが何本も立っている。

一台の車がサービスエリアに入ってくる。

運転しているのは、渡辺さやか(28歳)。

車を停車する。

さやかの疲れた表情。

さやか、車から降りて、売店の方へ歩き出す。

●売店前の自動販売機

さやか、缶コーヒーを買う。

●売店前のベンチ

さやか、ベンチに座り、夜空を見上げる。
遠くで花火の音がしている。(花火大会がやっている)

トラックが走り出す音。

コーヒーをひとくち。

スマホを見る。

その画面。(「個展準備」というタイトルでメモが書かれている)

年配の女性が隣に座る。

女性:花火の音がこんなところまで聞こえるのねぇ。

さやか:そうですね。どこですかね?

女性:諏訪湖の花火大会よ。

さやか:あ、そうなんですね(興味なさそうに)

女性:どこまで行くの?

さやか:東京に戻ります。

女性:東京かぁ。わたしも若い頃は東京でデザインの仕事なんかしてたのよ。

さやか:(興味深げに)あ、そうなんですか? わたしも広告の仕事してるんですけど・・・最近、あまり楽しくなくて・・・。

さやか、初対面の人に本音を呟いた自分に驚いてハッとする。

女性:楽しくないことを続けるのも大変だわね。わたしも結婚を機に田舎に引っ込んじゃったのよ。ま、結婚は言い訳だったかもしれないわね。

さやか:(少し考え込んで)実は、個展を開こうと思ってたんですけど、でも、怖くて・・・誰も興味を持ってくれないんじゃないかって。

女性:(優しく微笑んで)大事なのは、あなたがそれをやりたいかどうかよ。誰かのためじゃなくて、自分がどう感じるのかが一番重要よ。

さやか:自分がどう感じるか・・・。そうですね、ありがとうございます。

女性:ちょっと偉そうだったかしら?(笑う)それにね、意外と遠くまで届くものよ、この花火みたいにね。見えなくても、音は遠くまで届く。あなたの作品も意外と遠くまで届くわよ、きっと。

夜空。
花火の音。


●平日、オフィス

さやか、オフィスで広告デザインの仕事をしている。
上司がさやかに指示を出している。

さやかの顔。

●翌週末の夜、個展会場のギャラリー

シンプルで落ち着いた雰囲気のギャラリー。
照明も明るく、サービスエリアの暗さと対比できるように。

さやか、ひとりで個展の準備をしている。
イラストやアート作品が陳列されている。

ギャラリーの外の夜道をたまに人が通り、横目でギャラリーを見ていく。

●回想

夜のサービスエリアのシーンに戻る。
二人の会話の続き。

さやか:ありがとうございます。勇気が出た気がします。

女性:それならよかったわ。なんでもそうだけどね、始めるのも大変、続けるのも大変。勇気が必要なのはこれからよ。

花火の音。

さやか:・・・わたしの作品も、誰かの心に響けばいいな。

女性:(小さく頷いて)あなたは一生懸命作ればいいのよ。感じるのは、見る人の仕事なんだから。

さやかの顔を、サービスエリアに入ってきたトラックのヘッドライトが照らす。

●夜、個展会場のギャラリー

個展準備のシーンに戻る。

さやか、自分の作品を見渡す。

さやか:(つぶやくように。でも力強く)誰かのためじゃない。自分のために・・・。

終わり。

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