見出し画像

道端の花は宝石。お花の砂糖漬けが目開かせてくれたこと

世の中には、なぜ食べようと思ったのか不思議に思う食べ物がある。私には「花」もその一つだった。ウィーンの伝統皇室菓子「すみれの花の砂糖漬け」はダイエットに余念がなかったエリザベート皇妃がそれでも愛して好んで食べたものだとされる。おいしいものならもっと他にあっただろうに、それでも彼女が好んだというのは、すみれの可憐な美しさゆえなのだろうか。

エリザベートのすみれの花の砂糖漬けは歴史の物語になっているが、現代のウィーンにも花のお菓子を作っている人がいると聞き、その心が気になって工房を訪れてみた。

工房兼お店は、住宅街の中にあった。その外観は至って普通だ。

一歩入ると、まるで宝石のように輝く花たちが並んでいた。

この宝石を作るのは、Bluhendes Konfektのミヒャエルさん。ウィーン中の様々な野花を集め、砂糖漬けにしてお菓子を作っている。河原からも市民庭園からも自分の庭からも、あちこちから美しい花を集めている。

砂糖菓子の作り方を教えてもらったら、拍子抜けするくらい簡単だった。ほぼ水の液体に花を浸し、思いっきりその水気を飛ばしたら、グラニュー糖を雪のように振りかける。あとはほったらかしにして乾かすだけ。子供の工作のように簡単なそれだけで、こんなに美しい宝石ができるなんて。美しいものは身近にあるものだ。

彼の話で意外だったのは、始めたきっかけだ。エリザベートのお菓子にあやかって進化系として作り始めたのかと思いきや、自分のおばあちゃんが作っていたエルダーフラワー(にわとこの花)のフライが原型だと言う。おばあちゃんの知恵を引き継いだ彼は、野山の草花を活かすことに楽しみを感じている。

僕が本当に好きなのは、実は砂糖漬けよりもその下のボンボンに隠されたシロップを作る方なんだ。それぞれの花びらの味に合わせてスパイスやフルーツとまぜあわせているよ。砂糖漬けは目を引くのに必要だけど、本当に花の味と魅力が詰まっているのは中身だからね」。中身のシロップが詰まったタッパーを出してきたら、もう話が止まらない。

表面的な美しさに尽きることなく、中に隠された「花の味」に情熱を注ぐのだから、彼の花への愛は本物だ。

お花の宝石に込められた本当の思い

そんな花のお菓子に彼が本当に込めるのは、「世界中の贅沢に手を伸ばすのではなく、身近にある美しい宝に気づかせたい」という思い。そんな熱意が結晶した砂糖漬けは、美しいだけでなくお菓子としても素晴らしくおいしかった。バターと砂糖と卵をたっぷり使ったリッチなケーキなどいらない。道端のさもない花が、至高の美味に昇華されている。

世界中の贅を尽くしたエリザベート妃も、こうして身近な美しさを愛でていたのだろうか。

おばあちゃんの知恵を引き継いだ現代のお花菓子は、味とか見た目とかいうことを超えて、「身近にこんなに素晴らしい宝物があるよ」という先人たちからの大切なメッセージを届けてくれた。

いただいたサポートは、 ①次の台所探検の旅費 または ②あなたのもとでお話させていただく際の交通費 に使わせていただきます。