呼吸するように進化し続けるアーティスト、加藤大
センスとはなんでしょうか。私はヴィジョントラックに入ってからセンスについてたびたび考えるようになりました。クリエイティブに携わる者としては、当たり前かもしれません。でも、センスについて言葉で説明するのは簡単ではありません。だけどそれは確実に存在していて、私たちの心を楽しませてくれます。
クリエイティブディレクターの水野学氏は著書の中でこのように語っています。
センスとは知識の集積である(「センスは知識からはじまる」(朝日新聞出版)より)
水野氏によると、センスとは特別な人だけに備わった才能ではなく、誰もが等しく持っており、磨くことによって身につくものだと定義されています。
また、かの著名な哲学者・思想家であるニーチェの言葉にはこのようなものがあります。
誰もが一目置くほど、高い感性、繊細な感受性を持った高尚な人がいるものだ。彼はどのようにしてそうなれたのだろうか。
最初から自然にそうだったのだろうか。あるいは人一倍強い感性がそういう人間をつくったのだろうか。
違う。彼はその高い感性をみずからの努力でずっと維持し続けてきて今に至っているのだ。(「超訳ニーチェの言葉 II」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より)
「感性」はセンスとも言い換えることが出来るかもしれません。
私が担当している加藤大さんは、まさにセンスの塊といって良いほどのイラストレーターであり、アーティストです。エージェントでありながら、私は加藤さんのいちファン。加藤さんから送られてきた納品イラストを眺めてにやにやしている時がよくあります(ハタから見たら気持ち悪い)
今日はそんな加藤さんの魅力を少しでも皆さんにお伝えできたらと思っています。
●プロフィール
加藤 大 HIROSHI KATO
アーティスト。主に女性誌や、ファッションブランドとのコラボレーション、書籍装幀などで活躍中。アイテム制作ほかショップの壁画やウィンドウディスプレイ、ジュエリーブランドなどのアートディレクションも務める。
●ヴィジョントラックとの出会い
加藤さんとヴィジョントラックの出会いは遡ること10年近く前。弊社代表・庄野が外苑前のアクセサリーショップで行われていた加藤さんの個展に訪れたことから始まります。
以前から女性ファッション誌で加藤さんのイラストをよく見かけていた庄野は、加藤さんの作品にトレンドを超えたファッション性を感じていたそう。そして、個展会場に訪れた時、一気にその世界観に魅了されることになります。小さなスペースだったけど、ペーパークラフトをモビール的に天井から吊るすなどしてフェミニンな空間を素敵につくり上げていた加藤さん。
加藤さんはその場にいなかったので、ショップの方に加藤さんに連絡をしたい旨を告げて、庄野はその場を去ります。そして後日、加藤さんの方から連絡をいただき、ヴィジョントラックでエージェントをさせていただきたいと伝えたところ、快諾をいただき、庄野はとても喜んだことを覚えているそうです。
●想像の先へ
それから加藤さんはファッションを中心にさまざまな媒体でそのセンスを発揮していきます。
加藤さんの作品の特徴のひとつと言えば、絵の具、色鉛筆、紙などの画材を自由自在に使い分け、または織り交ぜて独自の世界観を作り上げているところ。
ヴィジョントラックの東京支社を立ち上げた光冨エージェントは、「昔はコラージュという技法や自分自身のエージェントスキルが無かったこともあり、加藤さんのセンスを生かしてもらうのが難しかった」と言いますが、私自身も担当し始めた最初の頃、実はそう感じていた時がありました。
なぜなら、加藤さんの作品はいつもこちら側の想像をいい意味でぽんと飛び越えてしまうからです。加藤さんとお仕事をすると、いつも「次はどんなものがくるのだろう?」と思っている自分がいることに気づきます。加藤さんのセンスを最大限に生かしたお仕事をしてもらいたい、そのためにはどうすれば良いか、というのは今もずっと考え続けていることです。
〈JR名古屋髙島屋〉
〈au / Green Road Project〉
〈風間ゆみえ style book〉
●個展開催を通して
2018年の4月、入社して1年ほど経った頃、庄野から「そろそろ井手さんも担当アーティストを持つ時期だね」という言葉が飛び出しました。そして同時に、加藤さんを担当することを提案されます。
正直に言ってしまえば、私に加藤さんのエージェントが務まるのか、ものすごく不安でした。アーティストとして多くの実績があり、年齢的にも10歳以上歳上の加藤さんを私が導くことができるのだろうか!? そんな風に懸念したのです。
でも、エージェントとはアーティストを導くだけのものではない、ということに私は気づきます。それは担当になってすぐ、ヴィジョントラック大阪本社のプライベートギャラリーで開催した加藤さんの個展に一緒に取り組んだ時にわかります。
ヴィジョントラックプライベートギャラリーとは、大阪本社のオフィス横に併設されたギャラリースペースで不定期に開催される展示のこと。この企画のトップバッターをお願いしたのが加藤さんで、これが加藤さんと私が一緒に何かに取り組んだ最初の物ごとになります。
この時、私は「大きなサイズでコラージュ作品を作ってみませんか?」と加藤さんに提案します。個展までの限られた時間の中、加藤さんはそれに応えてくれました。そして「加藤さんのファンです」という人が会場に訪れ、加藤さんの作品を褒めてくれることに私は自然と喜びを感じるようになります。
「もっと加藤さんの良さを広めたい!」
そう思った瞬間から私の心は固まり、翌年にはアクセサリーブランド「NOJESS」の年間ビジュアルを担当するなど、様々なお仕事をご一緒することができました。
〈エーアンドエス / NOJESS 2019 Spring〉
〈エーアンドエス / NOJESS 2019 Winter〉
〈かんき出版 / さりげないのに品がある気くばり美人のきほん〉
〈LUCUA / LUCUA osaka PRESS〉
●常に何かにチャレンジする柔軟性
勢いに乗って次に加藤さんと取り組んだのは、シルクスクリーンワークショップ+ライブペインティング。
これは、お客様がトートバッグやTシャツにシルクスクリーンのプリント体験をした後、加藤さんがその場で手描きのイラストを描き加えてくれるというライブアートです。
MANUAL SCREEN WORKSHOPとタッグを組み、ヴィジョントラックの展示会「プライベートEXPO」でトライアルした企画で、2019年には新宿髙島屋と名古屋髙島屋での「BLUE LABEL/BLACK LABEL CRESTBRIDGE」のイベントで開催が実現しました。その場で楽しい体験が出来、世界にひとつだけのイラストを描いてもらえるパーソナルなサービスは幅広い世代のお客様にとても喜ばれました。
〈三陽商会 / BLUE LABEL BLACK LABEL CRESTBRIDGE〉
冒頭で、加藤さんはセンスの塊だと私は言いました。加藤さんのセンスとは、常に新しいことにチャレンジする好奇心や感受性を持ち合わせていること、それを実現するためのインプットとアウトプットを欠かさないことだと思います。それは毎日のように更新されるインスタグラムの作品を見ても明らか。
そして私たちが提案するアイデアや投げかけに一緒に取り組んでくれます。加藤さんの「センス」とはそんな姿勢をまるっと含めたものをいうのだと思います。
最近では油絵での制作を積極的に行っていて、今後ますますその筆使いに磨きが掛かっていくに違いありません。
〈ユニバーサルミュージック / 上白石萌音「夜明けをくちずさめたら」〉
●加藤さんにインタビュー
▼創作活動で大切にしていることがあれば教えてください。
最初に持った描きたいイメージや空気感を常に大切にしてます。描き過ぎてしまう時などは、どうしても途中で失われがちです。そんな時は制作途中でとても離れて眺めてみたり、一度写真に撮って見たり、しばらく他の事をしたりしてます。
▼普段どんなものからインスピレーションを得て作品づくりをされていますか。
何でも。暮らしの中で気になった物や景色は、写真やスケッチなどで留めておきます。
▼イラストレーター、アーティストを続ける上で大事なものはなんだと思いますか。
描くことが好きでいられる事。そのための環境作り、色々な事に刺激を受けたりして、創造の引き出しを増やす事などです。
▼今後やりたいお仕事を教えてください
露出の大きなお仕事。駅貼り広告、ポスター等やってみたいです。
〈集英社 / SPUR〉
最後に、加藤さんにセンスについてお聞きしてみました。
『絵の中の情熱やエネルギーが「動」だとすると、センスは「静」のイメージです。余白や余韻などから生まれる感じがします』
加藤さんは「絵を描きたくなくなったことはないです」と断言しています。そしてまた、「センスを磨くことは特に何もしてないです(笑)」と謙遜するように言うけれど、その言葉こそ、加藤さんが呼吸するように進化するアーティストであると表しているような気がしました。加藤さんの作品に漂う美しい余白や余韻は、日々欠かさずインプットされるたくさんの知識や刺激があってこそ生まれるものなのでしょう。まだまだ進化し続ける加藤さん。これからの活躍にご期待ください。
●リンク
テキスト:井手 美沙音(vision track)
加藤さんへのお問い合わせはこちら:ide@visiontrack.jp
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