雨あがりの夕暮れ時 ~リスペクトからアメージンググレイスへ~自由を手に入れるために~
ワークの帰りに上映時間が合うといいなと思いながら、延び延びになっていた映画をようやく観た。それも避けたい!と思っていた週末の午前中にである。自身の気もちの浮き沈みで観に行くことを迷っていたが、しかし。観に行けて善かった。それはアリーサ・フランクリンの半生を辿った「リスペクト」。
女性はすでに社会においてハンディを負わされているが、ブラック ウーマンはブラックということがプラスされてしまう。そのような人間観が大手を振っていた頃、彼女は牧師の父親に溺愛されていた。この映画ではアリーサは10代半ばにして二人の子の親であった。牧師である父親、その溺愛の仕方。アリーサは「その影」を心の奥底にずっと持ち続けることとなる。そしてこの映画の中では、父親もまたそのところをことあるごとに、それはアリーサが大事だからという言い訳と共に、また、アリーサは「悪い虫」を持っていて抑え込めないでいるとしてアリーサのせいにして、彼女を支配していた。牧師のうちにはいろいろな大人が出入りする。その中には子どもにとって佳からぬ輩もいて、当時はどこにでもある話で、子ども(特に女の子)は大人に従うしかなかったのだろう。二人の子どものうちどちらかは父親の子であろう、ことをこの映画は匂わせている。はっきりとしたその描写は無いが、アリーサにとっては子どもが子どもでいられない子ども時代を送る残酷さと性暴力が「その陰」にある。 10歳にして親愛なる母親を亡くしたアリーサは、特に母親を慕っていた。それは父親からの様々な支配から距離を置くことができたからだろう。母親はアリーサに言う、「いやな時は歌わなくてもいい」と。それはアリーサを励ます言葉であり、諫める言葉でもあった。母親もまた牧師である夫のDV被害者で在った。映画の後半、アリーサ姉妹が母親の思い出話をした時、夜になると三人で屋根に上がってDVの物音が聞こえないように歌を歌ったことをアリーサだけが覚えていなかった。それほどにアリーサへの父親の支配がきつかったのだろう。溺愛されることで周りの子どもたちから離され、孤立させられるのである。溺愛でありながら暴力であり支配でもあったのだ。
ブラックのBig Mamaはタフだ~!牧師のむすこやアリーサの子たちの面倒をみつづけていく。しかし、彼女もまた牧師であるむすこの共犯者である。むすこの世間体を保ち、子どもたちへの暴力を容認していたのである。ここに女性であることよりも、牧師の母親であること、もしくは自身の安定した生活を守っていくための身勝手さがある。
夫もまたアリーサを殴り支配してきた。それはアリーサの天才的な歌唱力を活かすためを思ってでもあるが、アリーサの歌を世にひびかせるために暴力は要らない。アリーサは自分の身に起きていることを謳いあげ、夫への想いを爆発させる。それ等の歌は共感を呼び、ヒットすることとなる。この辺りは人種差別のことも浮上してきて、元夫は情けないスタンスである。しかし、この夫との仕事が父との決別への気づきとなる。そして、この夫とも決別を迎える。自分への暴力への気づきであり、しかし、まだ消化ではなかった。 キング牧師がなくなり、ブラックへの差別が高まる中、アリーサも追い込まれていく。今回この映画を通して人種差別の活動に熱心であったアリーサを知る。そしてままならぬ想いに酒溺れる日々も過ごす時代もあったのだ。誰しもこのような時期がある。周りが見えなくて、自分が判らなくて昏迷する。しかし、そこから抜け出せたのもまた、歌を歌うことができたからである。人々を激励し、自分を取り戻すための歌があったからである。音楽は人の心を癒し奮い立たせる。そしてあの伝説的な教会でのライブ・パフォーマンスへとつながる。この映画の中では父親がコメントする場面があるが、その時のアリーサの様子は貞淑な牧師の娘であった。しかし、子どもの頃の父親に支配されるがままのアリーサでもなかった。ブラックである女性への抑圧がアリーサの歌声を生み出したとするなら、それは安直である。アリーサの歌声は神々しい女性たちの希望であり、まさに魂の叫びなのである。
リスペクトのエンドロールではThe Kennedy Centerでのあのパフォーマンスが流れる。おそらく存命最後のライブではないかしら。初めてあの映像を見た時、こころ揺さぶられ感涙したことを覚えている。この舞台に立つ頃にはアリーサも”a natural woman"になっていたことだろう。この映画で映し出された人生の後の人生を アリーサの人生について知りたいと思う。そして再びじっくりとアリーサの歌声に聴きいってみたい。
https://gaga.ne.jp/respect/
https://gaga.ne.jp/amazing-grace/
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