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【童話】 もみじ

もみじくんは、秋になると赤くなります。
そして、当たり前のように、山を赤く染めて行きます。
 

でもそれは、当たり前の事じゃないのです。
もみじくんは昔、1年中みどり色だったのです。


もみじくんは、秋になると、悲しくなりました。
だって、お隣のイチョウくんや、お向かいの栗の木さんには、秋になると木の実がなるのに、もみじ君には、かわいい木の実がならないんですもの。
 

もみじくんは、泣きました。
涙と一緒に、みどり色の葉っぱを地面に落としました。
もみじくんは、毎年、毎年、泣きました。毎年、毎年、みどり色の葉っぱの涙を流しました。

 
ある年の秋のことでした。
もみじくんが、いつものように悲しくて泣いていると、そこへ小さな男の子と、そのお母さんが通りかかりました。  
そして、男の子が言いました。

「お母さん。もみじって、おててみたいだね。ぼく、もみじがいちばん好きだよ。」


もみじくんは、うれしくなりました。
うれしいような、はずかしいような、そんな気分になりました。
そして、もみじくんは、赤くなりました。
  

もみじくんは、秋になると赤くなります。
うれしいような、はずかしいような、そんな気分になるのです。
そして、当たり前のように、山を赤く染めて行きます。


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