「福岡にこんな場所があったら」本屋青旗オーナー・川崎雄平さん
2020年10月にオープンした、アートブックやZINEを中心とする「視覚文化を基軸とした」書店「本屋青旗」。ここで4/25(日)まで僕の個展「AO」が開催されていることをきっかけに、オーナーの川崎雄平さんにインタビュー。
お店づくりのこと、今回の展示「AO」のことについて、2回に分けてお話を伺いました。
本屋青旗ができるまで
三)今日はよろしくお願いします。青旗さんはこれまで福岡に無かったタイプのお店だと思うので、お客さんによく聞かれそうなことを聞いていこうと思います。
川崎雄平さん
川)じゃあ僕は何か聞かれたらこちらのURLをご案内すればいいですね?
三)ぜひそうしてください!福岡の人は、素敵なお店ができるとすぐ「東京から来られたんですか?」と気軽に聞いてしまうことが多いと思うのですが、川崎さんはこれまでどこで活動されていたんですか?
川)春日市と福岡市を行ったり来たりしていました。
三)ずっと福岡なんですね。本屋を始める前はグラフィックに関わる仕事をしていたと聞きました。
川)グラフィックデザインの仕事をしていて、その後に照明設計に関わる事務所に転職しました。
照明設計の時も、グラフィックデザインの仕事は受けていて、商業施設のポスターとかチラシとか、個別に来た時は受ける、みたいな感じでした。代理店さんやプロダクションから頂く仕事もあったし、個人的に名刺を依頼されるとかもありましたね。
三)照明設計の事務所に所属しつつ、しっかりグラフィックのお仕事もされてたんですね。
片田友樹さんによる空間デザイン
三)最初にお店に伺ったとき、1階のアプローチから2階の空間に繋がる感じが素敵だなと思いました。空間の面白さは青旗さんの大きな魅力ですが、設計は長坂常さんのスキーマ建築計画から独立された方にお願いしたんでしたよね?
川)スキーマの後に、二俣公一さんのCASE REALに行って福岡で独立された片田友樹さん(micelle)という方にお願いしました。予算が少なかったので、作りこんだ内装はできないと思っていました。少ない要素でクオリティを保って作ってくれる人を探していたところ、片田さんを見つけたんです。
三)片田さんはあまり表に出てないので、見付けるのは大変だったんじゃないですか?
川)そうですね。片田さんの周りの方に聞いてもそんなふうに言われていました。
田中せりさんによるロゴデザイン
三)この流れで、お店のロゴのことも伺いたいです。
川)先に設計を片田さんにお願いして、グラフィックデザイナーの田中せりさんにロゴをお願いしました。店名・取り扱う本のラインナップと、どんなことをやりたいかの構想と、お店を作ろうとした経緯や店名の由来などをお伝えして作ってもらいました。
三)いわゆるシンボルマークっぽい形と、テキスタイルのような形の中間、みたいな印象がありますね。
川)そうですね。マークだけで機能するものだと嬉しいとお伝えして、うまく表現して頂きました。できれば福岡でお仕事を見たこと無い方のデザインが見れたらいいなと思って、お願いする方を選びました。田中さんを知ったのはJAGDA新人賞ですね。いい意味で、自分の作家性で何かを作るというよりは、モノの純度をぐっと引き上げて作られる方だと思いました。いろんな作家さんの商品を取り扱うので、ロゴにはあまり作家性が出ないといいなと思っていました。
三)その空間とロゴが相まって、最初に言われた、「福岡にあまりなかった」お店が出来ているんじゃないかと思います。もちろん品揃えもそうですね。
川)意識していなかったんですけど、そうなっていたら嬉しいです。
お店を始めるきっかけ
三)ロゴの話の途中で出てきましたけど、お店を始めようとした経緯を詳しく聞いてもいいですか?
川)自分が良いと思うものと、福岡で盛り上がっているものの間にギャップがあったのがきっかけです。
あとグラフィックデザインも、照明設計も、自分が作っているものが表層的なものに見えてきた時があって。なんというか…5年後10年後に見た時にも「これいいな」って思えるのかな?と考えたら微妙だなと思っていて。結婚して子どももいたので、今から誰かのアシスタントになるのも経済的に成立しないなと思っていて。
こういうものに触れられる場所が福岡に無かったし、家族を連れて東京のアートブックのお店で働くというのも現実的では無かったので、福岡ではじめてみようと決めました。需要が無かったらそれまでだなと思って。
三)選書とか、空間づくりの元になる考え方はどこから培われていますか?
川)空間に関しては片田さんにおまかせしていたので、僕はどんな本屋にしたいかのイメージだけをお伝えしました。選書は自分が知っているものが元になるけど、それだけだと知っている棚にしかならないので、好きなもの7割と、知らないけど良いと思うものが3割ですかね。ちょっと違ったな?と思う時もあるけど、今は分からなくても何年後かに繋がったり、見え方が変わる本もあると思うので、今は色々とやりながら試している状態ですね。
三)この半年でもラインナップが変化してきているような気がします。
川)そうですね。変わりました。
何が変わったんだろう…でもいい本は増えたような気がします。
三)いいですね!いい本とは、例えばどんな本だと思いますか?
川)うーん…全て素敵な本だと思っているので、単純に本の数が増えたことが変化かもしれません。本の密度が高くなりました。少し前にtwelvebooksさんのポップアップをさせて頂いた時に、今まで取り扱いの無かった200~300タイトルの本を見ることが出来たので、選択肢が増えたこともいい経験になりました。
三)自分の幅が広がりますよね。
コロナ下の状況だと、なかなかブックフェアにも出かけられないですしね。
川)本当はオープン前に東京や海外のアートブックフェアを見に行こうと思っていたのですが、開催もされなかったので残念でした。
展示のこと
3ジン(佐々木俊、田中せり、西川©︎友美)の展示風景
三)展示のことも聞いてもいいですか?このお店で行う展示はどういうスタンスで開催されているんでしょうか。
川)基本的に全てこちらからオファーさせて頂いています。福岡にあるギャラリーの中でも、すでに土壌ができているジャンルがあるというか、そういうお客さんが付いている素敵なお店はいくつもあるので、そこでは成立しないような展示ができればと思っています。展示のお話を頂いても、うちより他のお店のほうがお客さんとマッチングするんじゃないか?と思ったらそちらをご案内しています。
三)通常営業はもちろん、展示も大事にしていて相乗効果でお客さんが流れるのを狙っているのかなと思いました。展示を見に来た人が本を読んだり、本を買いに来た人が展示を見たり…
川)そうですね、展示も本も同じ比率でやりたいと思ってるので、どちらかに偏りたくないなという思いがあります。Instagramが展示のお知らせばかりで本の紹介がおろそかになっているところは反省しています…。
もっとお店の認知が足りないので、展示して頂く作家さんがお客さんを連れてきてくれる形ばかりになってしまう状態はもっと解消したいですね。逆にうちのお客さんを作家さんに紹介したりできるくらいになったらいいなと思っています。
これからやりたいこと
三)これからやりたいこととか、ありますか?
川)うーん…福岡でアートブックフェア…誰かやってくれないかな、と思っています。僕は参加者のほうで出たいんですけど。
三)そこは参加者のほうなんですね(笑)。
川)アートブックフェアって色んなところで開催されているので、下手なことは出来ないなと思っています。ちゃんと準備せずに、福岡のアートブックフェアって…と期待を裏切ることになるのは避けたいですね。
でも大変だろうから…
三)座組が難しそう(笑)。
川)誰が運営をやるのか決まったら進みそうですけど。
あとここは二階なので、身体的に入ってこれない方がいて。そんな方にも本を手にとって頂けるように出ていく機会も設けたいなと思っています。ここをやる前に蚤の市に出店したことがあって、その時から知っているというお客さんもいますね。
三)インディーズ時代のお客さんみたいな…その方はすごい嗅覚ですね。
後半、展示の話に続きます。
(2021.4.15 / 本屋青旗 Ao-Hata Bookstore)
展覧会情報
4月10日(土)より、グラフィックデザイナー三迫太郎による作品展「AO」を開催します。これまでグラフィックデザインという領域からWeb、プロダクトなどを手掛けてきた作家が、日々のくらしの中で触れるモチーフをヒントにしたグラフィック作品を展示。生活からデザイン、アートを往復し、その境界をゆるやかにフェードアウトさせるプロセスを感じ取ることができます。そのほか、本展にあわせて新たに制作されたZINEやプロダクトを展示・販売します。お近くにお越しの際は、ぜひご覧ください。
三迫 太郎 Taro Misako
1980年福岡県北九州市生まれ。主に生活・工芸・アート・神社をフィールドにデザインワークを行う。zineイベント『10zine』の運営や、クリエイティブメディア『CENTRAL_』『HereNow』など、地域とデザインに関わる様々な活動にも携わる。
https://taromisako.com
“AO” TARO MISAKO
場所:本屋青旗 Ao-Hata Bookstore @aohatabooks
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
会期:2021年4月10日(土)〜25日(日)
時間:12:00〜19:00 水曜定休
作者在廊日:4/10(土)、11(日)、16(金)、18(日)、25(日)
https://aohatabooks.com/AO-TARO-MISAKO