「福岡の日常から作品が生まれる」三迫太郎(デザイナー)×川崎雄平さん(本屋青旗)
昨年オープンした、視覚文化を基軸とした書店「本屋青旗」。4/25(日)まで僕の個展「AO」が開催されています。
前回の記事で青旗の川崎雄平さんにお店づくりのことをインタビューした続きで、今回の展示についてもトークを行いました。
福岡の日常から作品が生まれる
三)今回は「ブループリント」という建築図面を印刷するための顔料印刷を使い、大濠公園で見つけたモチーフを元にレイアウトした、大小さまざまな「青(AO)」の作品が並ぶ会場になりました。最初はどういう流れで展示することになったんでしたっけ?
川)僕の記憶ではInstagramで三迫さんがお店を紹介してくださって、そのときにいつか展示してくださいという話をして。「何月までは埋まっていますが、その後で展示しませんか?」と声を掛けさせて頂きました。
三)その埋まっている展示のメンバーが豪華な顔ぶれ(アーロン・ニエがADだった台湾の週刊編集、JAGDA新人賞の田中せりさん、キリンジや折坂悠太のビジュアルを手掛ける五月女哲平さんなど)で、福岡ローカルで活動している僕が並ぶのが緊張しました。
川)そうですか??結果、三迫さんじゃないと成立しないような、福岡の人の周辺の生活が題材になっているので、良かったと思います。昨年の展示「HEN」で紙のオブジェをかわいい感じで作っていたと思うんですけど、うちはグラフィックを展示しやすい場所だと思うので、グラフィックをテーマにしたときにどんな作品を作られるのかな?という気持ちはありました。
「AO MICHAEL」
三)そうですね。前の会場はアルバス(写真ラボ+カフェ)という場所ありきで、かわいいものが好きなアルバスのお客さんにどうしたら喜んでもらえるかな?と考えながら制作しました。
日本のグラフィックにも興味はあるけど、Instagramで流れてくる、海外の誰が作ったか分からないデザインの魅力的な色とか形とかにも興味があって収集しています。だけど、これまでの福岡っていう場所を考えたときにそういう作品を作ってもハマる場所がなくて、浮いちゃうなと思っていたんですよね。
前回のアルバスみたいな温かい空間に無機質な作品が置かれていても、見る人が戸惑うのではと思っていたんですけど、青旗さんに初めて来たときに、この場所があるんだったら自分の好きなものとアウトプットするものをイコールにできるかもしれないと思いました。
「PROPS」
川)ありがとうございます。よりパーソナルな部分が見えているから、三迫さんの魅力が伝わるのかもしれませんね。全部内側に向いていると自分の日記と変わらないというか…パーソナルな部分が外側と関わりを持たせようとしているかどうかが、作品の良さにも繋がるような気がします。
三)その辺の感覚は、青旗さんに置かれている本だとジェイソン・ポランとか、ナイジェル・ピークみたいな、写実的に上手く描くというわけではなく、ラフだけど繊細さた上品さを感じる作品に影響を受けています。
あとは個人的に坂口恭平ブームが来ているので(笑)。彼は自分の上位互換モデルだと思っていて、本人の精神的な問題に対応するために色んな活動をやっていて、自分の中だけに閉じ込めずに、周りに開いている。そうすることで自分のためのことだけど、周りにポジティブな影響を与えたり楽しんでもらうことが出来てるんだろうなと思います。あとは、マイク・ミルズの作品もきっかけの一つで、彼も自分のセラピーのために花火をドローイングしていて。それを見た時に、すごくいいなと思いました。
川)マイク・ミルズ、僕も好きです。
三)彼のデザイナー時代のグラフィックは単純にデザインの資料として見ていたんですけど、映画監督を初めた頃から「HUMANS」シリーズなど個人的な作品を作るようになって、それからの作品にはすごく癒やされていますね。
語られないけど、無意識に現れているもの
川)三迫さんの前に「3ジン(佐々木俊、田中せり、西川©︎友美)」っていう展示をやっていたんですけど…
三)3ジンを見た時は3人のテンションのぶつかり合いに気圧されて、僕の作品はこれで大丈夫なのかな?って不安になりました。でも、麺で言ったら3人は豚骨ラーメンで、こっちは素麺の良さ、みたいなものを出していくしかないんだなと開き直りました。
川)(豚骨は)パンチが効いてるってことですね。
三)そうそう。僕は普段は与えられたテキストや写真を目的に合わせてレイアウトするのが仕事の大きな部分なので、自分でアウトプットしてくださいって言われた時に、意外と何もないなと。代わりに、普段百人組み手みたいにレイアウトし続けている回路、手癖みたいなものに、大濠公園で描いた絵をオブジェクトとしてレイアウトした時に、何ができるか?みたいな考え方で作っています。
川)今回作っていただいたものにも、モチーフがはっきり分かるものと分からないものの幅があって面白いですね。
「RIGHT PLACE」
三)気持ち的には、服部一成さん、髙田唯さん、佐々木俊さんみたいな色使いやフォルムを自分でも作れたらもう少し幅広く人気が出るのかも、という邪な考えもあったんですけど…JAGDA的な流れというか。実際は技量的に真似するのが難しいという理由もありつつ、そこに近付き過ぎないように、自分の良さを出さなきゃみたいなことを考えています。
川)そうですね…うん、言葉選びが難しいですね(笑)。
でもそういう風に系譜があるように見えているのは面白いですね。僕の印象だと、今名前を挙げられた方は「今までにないもの」を作ろうとされている印象なんですよね。難しくてもそっちをやりたいって思っている人たちかなと。そういうものを作っている人たちが、俯瞰で見ると系譜に見えているのは面白いなと思いました。
三)以前、菊地敦己さんとのトークイベントのときに聞いた「良いものはみんなが知っているもの」っていう話を思い出すんですけど、みんなが「良い」と思うものを作ろうとすると、ある種のルールや法則に乗っ取る必要が出てくるっていう。全く新しいものを作るのは難しいですよね。
川)全く新しいものは無いのかもしれないですね。でも、アウトプットの手段では似ているものはあると思うんですけど、より元となるものがパーソナルなものであるほど、何にも似ない、その人のものになるのではないかなと思います。第三者が見た時に「おもしろい」と思われるかどうかは別の話だと思いますが。「これいい感じだから」とか「こんな写真撮ろう」だとそれは表層を似せているので…。
三)なるほど。逆に、グラフィックは表層的な要素も強いからこその良さも感じています。コンセプトを知っても楽しめると思うけど、パッと見た時にどんな印象を抱くか?とか、それぐらいでも楽しめるので、入りやすさがあっていいなと思います。
川)視覚の部分の一発勝負みたいな…。
三)そうそう。写真のほうが難しいなと思っていて、お店で写真集をパラッと見て、意味がわからず「これは何だったのだろうか?」と思ってそっと仕舞うことがたまにあって。キャプションとか説明を読んでやっと意味がわかってくるみたいな。
川)説明があると見え方が変わりますよね。
写真も絵も最初は同じでいいと思いますけどね。パッと見て面白いか?好きか嫌いか?とか。
三)僕も以前の川崎さん(前回の記事参照)と同じように、自分が作るものは表層的なもので、薄っぺらいのではないか?という不安があったんですけど、そういう軽いものでないとまとまらないものとか…コンセプトは語られないけど、実は無意識に現れているものがある気がしていて。
川)確かにそうですね。ちょっと僕が言った意味とは違うかもしれませんが。僕が思っていたのは、それっぽく見えると飽きちゃうっていうことなんですよね。
壁いっぱいの写真作品
「WAITING」
三)写真と言えば、3年前にアイスランドに行ったときの写真を壁いっぱいのサイズにブループリントしてみたんですけど、思っていたより良く出来たなと思っていて。ゲイシールという、間欠泉が吹き上がるのを待つ人たちを撮った「WAITING」という作品です。
川)お客さんにも好評ですね。
三)パノラマ的な手法で撮ったのか?って思われるけど、3:2の比率で撮ってトリミングしています。最初からこの比率だったみたいな仕上がりで気に入っています。
川)モノクロだとドラマチックになりすぎる時もあると思うんですけど、青一色はまた違う良さがありますね。
三)青というか紫というか。
濃淡が付くことで青の中に隠れた赤みが見えてくるのかもですね。
川)上の雲の部分、ノイズがかかってグラデーションになっていると思うんですけど、もしかしてブループリントって、濃度が0~100%のうちの何段階かでしか…
三)グレースケールの255段階じゃなくて、もっと間引いてるのかもしれないですね。
川)その解像度が結果ノイズみたいになってるんですかね。
三)ブループリントの写真は別の可能性を感じるので、アイスランドに旅行したときのランドスケープと、現地の音楽フェスで撮ったステージ写真の対比で大判の写真展をしても面白いかもと思いました。
これからの、それぞれの展示のこと
川)もうすぐホンマタカシさんの展示が始まりますね。
三)はい、4/24(土)から太宰府天満宮でホンマタカシさんの写真展「鬼と白い馬」が始まるので、僕の展示からの流れで来てもらえると嬉しいです。グラフィックを担当しているのでぜひ見に来て下さい。
川)青旗では写真家の横浪修さんの展示を9月に行います。こちらもぜひ来てください。あと、今後は5月にJohanna Tagada展「What if God was an insect? / もし神さまが虫だったら? 」と、中島あかねさんの展示、谷川俊太郎さんと中山信一さんの「うそ」という絵本の展示も予定しています。
三)盛りだくさんですね。川崎さんが元々されていた照明設計のときに、自分が好きなものを自分が作れない、っていうジレンマから、本屋になったことで対等に自分の好きなものにアクセスできるのはいいですね。
川)対等とは思ってないですけど…(笑)
三)いや、そこは対等じゃなきゃ良くないと思いますよ。
川)作家さんとお客さんに感謝しつつ…長いものには巻かれる気持ちでやってます。
三)ぜんぜん対等じゃない(笑)。
(2021.4.15 / 本屋青旗 Ao-Hata Bookstore)
展覧会情報
4月10日(土)より、グラフィックデザイナー三迫太郎による作品展「AO」を開催します。これまでグラフィックデザインという領域からWeb、プロダクトなどを手掛けてきた作家が、日々のくらしの中で触れるモチーフをヒントにしたグラフィック作品を展示。生活からデザイン、アートを往復し、その境界をゆるやかにフェードアウトさせるプロセスを感じ取ることができます。そのほか、本展にあわせて新たに制作されたZINEやプロダクトを展示・販売します。お近くにお越しの際は、ぜひご覧ください。
三迫 太郎 Taro Misako
1980年福岡県北九州市生まれ。主に生活・工芸・アート・神社をフィールドにデザインワークを行う。zineイベント『10zine』の運営や、クリエイティブメディア『CENTRAL_』『HereNow』など、地域とデザインに関わる様々な活動にも携わる。
https://taromisako.com
“AO” TARO MISAKO
場所:本屋青旗 Ao-Hata Bookstore @aohatabooks
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
会期:2021年4月10日(土)〜25日(日)
時間:12:00〜19:00 水曜定休
作者在廊日:4/10(土)、11(日)、16(金)、18(日)、25(日)
https://aohatabooks.com/AO-TARO-MISAKO
"What if God was an insect? / もし神さまが虫だったら? "
Johanna Tagada Hoffbeck
2021.5.1 Sat - 23 Sun
5月1日(土)より、英国を拠点に活躍するアーティスト、ジョアンナ・タガダ・ホフベックの個展「What if God was an insect? / もし神さまが虫だったら?」を開催します。最新作となるペインティング、ドローイング、写真作品は、アーティストが庭づくりを通して観察、考察した事柄から発展したものです。今回ジョアンナ・タガダ・ホフベックは、人間と人間以外の生物の関係性を問い直し、他者とともにあることを学ぶ場としての庭を描き出します。また本展にあわせて、展示作品を含むペインティングや写真作品を収録した作品集を刊行予定です。お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。
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場所:本屋青旗 Ao-Hata Bookstore @aohatabooks
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
会期:2021年5月1日(土)―23日(日)
時間:12:00―19:00 水曜定休
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Johanna Tagada Hoffbeck ジョアンナ・タガダ・ホフベック
1990年、フランス生まれ、ロンドン在住。ペインティング、ドローイング、インスタレーション、彫刻、映画、 写真、やわらかく繊細でエコロジカルなメッセージが含まれたテクスト、など様々なメディアを用いるアー ティスト。グループ展多数。個展としては「Épistolaire Imaginaire - Merci 」(Galerie Jean-Francois Kaiser, 2017)、「Take Care - きをつけて」(Nidi Gallery, 2018)。2014 年に、コラボレーションプロジェクト Poetic Pastel を設立。2018 年に出版プロジェ クト「Journal du Thé - Contemporary Tea Culture」始動。2018 年 には 最初の作品集「Daily Practice」(InOtherWords) が出版されている。
www.johannatagada.net
Instagram: @johannatagada