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不思議な実話 犬とのお別れ

これは今から何年も前の話。私がまだ今の職場ではない店でバイトをしていた頃のこと。

飼い始めて10年以上が経つ、年齢不明の犬がいました。元々は野良犬だったのですが、とても人懐こく、親にワガママを言って家族に迎えた子です。

夏だと可哀想になるくらい一年中もふもふの長毛種。色は白毛に時々茶色が混ざる雑種。立ち耳、巻しっぽ。サモエドを少し小さくしたような子でした。


歳を重ねるに連れて少しずつ病気をするようになり、時にはもう歩けないと言われるような状況に追い込まれても、1ヶ月後には獣医さんもびっくりの回復力で走り回ったりするような、最後までエネルギッシュな子でした。

いよいよ歩けなくなり、立ち上がることもできず、これはもう今日にも逝ってしまうかもしれないという日。
可愛がってくれたご近所の方たちが別れの挨拶に来るたび、犬は顔を上げ、愛想良く笑っていたように見えました。

中でも懐いていた近所のおじさんが来たときは、もう立てない状態だったのに、それでもふらふらと立ち上がろうとしてみんな心配してしまうほど。
健気に尻尾を振る様子を見ているのも辛くて、私は涙で腫れた目元を冷やし、顔を洗って、最後に頭をなでて、バイトに行きました。


昼からの出勤だったその日、仕事に出ていったんはプライベートのことは忘れ、忙しく接客をこなしていました。
しかし、ふと客の波が途切れたなと思ったとき、一匹の犬がレジ前に来ました。店の中に犬が一匹。ありえません。

でも、すぐに察したんです。うちの子だって。
ほんの一瞬、目が合ったと思ったときには犬はふっと消えてしまったけれど、途端に溢れる涙を止められなくて、慌ててパートさんに謝ってバックヤードへ行きました。
5分だけ、と上司にも事情を話して泣かせてもらい、その後は仕事に戻ったけれど……。

帰宅してから、亡くなった時間を聞いて確信しました。あの子は最後に、私に会いに来てくれた。元気な頃の、可愛い笑顔で、ありがとうって。

私はあなたを看取ることもせず仕事に出てしまったのに。一度も連れてきたことのない店なのに。わざわざ、挨拶に。


昔から、特別霊感が強かったわけではありません。
でも時々、何かよくわからないものと出会うことはあって、何かよくわらがないものと会話することもあって、だからこそあんなにハッキリと実体のない相手を『この子はうちの飼い犬だ』と認識したのは初めてで、戸惑いました。


昨日、あんな夢を見たからかな。
なんだか急にはっきりとこの日のことを思い出して、なぜだかまた涙が出しまうのです。
会いに来てくれて嬉しかった。看取ってやれなかった罪悪感もあった。いなくなって寂しい気持ちもあった。他にもたくさん複雑な気持ちがあった。でも、今でも涙が出るのはなんでだろう。


夢で会えるのは嬉しいけど、寝てるとき泣くと体力の消耗がすごいし喉痛くなるから、別の方法使ってほしい(ワガママ)

そんな、少し不思議の水崎の思い出話でした。


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