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お米に焦がれた一週間|ラトビア日記 #6


2023年9月30日 新しい友だち

 微熱も下がり、咳も止まり、やっと日常の細々としたこともためらいなくできるようになってきた。

 まだ鼻声だけど、今日は一週間ぶりのお出かけ。

 ドイツ人の友人が紹介してくれた、トルコの人と会う。

 彼はラトビア人の女性と結婚し、6年ほどラトビアに住んでいるという。

 ドイツ人の友人は、もう10年くらいの付き合いになる。わたしがラトビアで暮らし始めたことを知っていたから、ベルリンで会ったトルコ人に「ともだちがラトビアに住んでいる」と話し、わたしにも紹介してくれた。

 実際に、そのトルコの方に会ってみると、ものすごく物腰やわらかな人だった。自家用車で迎えに来てくれ、車内で日本語の唄のヒットチャートを流してくれた。

 彼は、もともと電子部品を販売するトルコの会社の営業マンをしていたという。そのノウハウを活かしてラトビアで起業し、昔も今もヨーロッパを中心にあちこち飛び回っている。

 わたしも、10年前の一人旅でどれだけトルコの人たちにお世話になったのか、どれだけ助けられ、魅了されたかを伝えた。とてもうれしそうだった。

 お茶をしたあと、ラトビアの建築や昔の暮らしの様子を展示している博物館へ。

 途中、キッチンの展示ブースにいた女性が細かく内容を解説してくれた。

 ドイツ占領時代も長かったため、調味料のラベルはドイツ語とロシア語とラトビア語が混在しているらしい。

 また、ワッフルを焼く鉄板にはドイツ語でレシピが刻印されていた。

 冬になると北極の氷が川を流れてくるからそれを拾って木箱に保存し、その冷たさで冷蔵庫として肉やたまごの保存をおこなっていたらしい。氷は3日くらいで溶けてしまうが、その水も調理として使っていた。

 展示のあちこちには手刺繍のクロスがたくさんあって、家族の歴史や思い出の風景などを刺繍しているのだそうだ。

 個人的にはものすごく興味深かった。もう一回行きたいくらい。

 そのあと、ごはんを食べた。トルコ料理が食べたかったがたまたま休みで、ジョージア料理が食べられるところへ行った。

 おいしかったけど、想像の3倍くらいのサイズで、食べきれなかった……。あと、病み上がりの体にバターとチーズもりもりの料理はちょっと重すぎた。

 そのあと、ユールマラという海岸近くのエリアへ。いまは観光客の受け入れはもちろん、都会を離れて暮らしたいお金持ちがユールマラに次々と移住しているらしい。

 たしかに、道路や標識、建物なんかも新しく、きれいだった。ほんのすこしだけ、北海道のニセコを思い出した。

 もう朝晩は肌寒いのに、海岸にはたくさんの人が散歩をしに来ていた。寒くなるぎりぎりまで、海風を感じていたいということなのかな。

 ラトビア暮らしで困ったことはないのか聞いてみた。

 もともと大都会よりはコンパクトな街が好きで(彼は大都会・イスタンブール出身だが)リガはちょうどいいとのことだった。

 ラトビア在住のトルコ人も少ない(300人くらい)から、逆にレイシズムを感じることもほぼないとのこと。トルコ人コミュニティもあるが、グループ同士のいがみあいみたいなものもない。

 ただ、ともだちができづらい、とも言っていた。仕事は英語で、出張も多い。夫婦の会話も英語だから、ラトビア語がなかなか身につかない。トルコ人の友だちは数人いるが、それぞれ家庭や仕事があるからなかなか会えない、とのこと。

 仕事が楽しかったり忙しかったりすると、それでもいいのかもしれない。でも一生住むとなると、どうなるか分からない、という話をした。少数でいいから、暮らす場所にともだちがいないと、わたしはしんどくなるだろう。

 ひさしぶりにたくさん話をして、歩いて、気分が落ち着いた。

 ちなみに日本のおすすめの映画を教えてと言われて、『スワロウテイル』と『愛のむきだし』をおすすめしたけど……感想が気になる。黒澤明の映画とかを薦めた方がよかったのだろうか。とか思ってしまうのも、あんまり良くないのかな、ありのままでいいのかな。という心の声。

2023年10月1日 無理

 昨日食べた食事がチーズと脂のかたまりみたいなものだったせいか、気持ち悪過ぎてダウン。

 横になっても吐き気がおさまらない。

 飲み物も飲めない。

 ひたすら気持ち悪い。

2023年10月2日 平行線

 横になり過ぎて背中がいたい。

 昨日よりだいぶ気分が改善されたが、まだ気を抜くと吐き気がよみがえってくるかんじ。

 課題をやる気にもなれず(集中する気力がもたない)ひたすらネトフリを見るかインスタを見るか寝るか、という感じで時間が過ぎていく。

 大学の勉強がまったく手についていない焦りもあるけど、体調をこわしたら、そもそも生活ができない。

 だからいまは、無理やり課題をやるよりは、体調快復に全力を注ぐ。

 夜になり、吐き気がだいぶ引いて、逆に食欲がわいてきた。

 30時間ほど、何も食べていないのだ。

 日本食のリールを見て、明日は絶対に和食を食べると心に誓う。

2023年10月3日 椅子に座れた

 ずっと横になっていると、筋力が落ちて、平衡感覚がバグる。

 台所までの、たった数歩を繰り返して、少しクラっとする。

 でも、2日ぶりにちゃんと食事をした。

 味噌汁と、うどん。めんつゆと味噌と、ゆず胡椒を持ってきていて本当に良かった。

 ただ、今のわたしが持っている道具だと、お米が炊けない。

 お米が食べたい!!!

 げんきになったら、週末は炊飯器を買いに行こう。鍋でもいい。

 たった2日ぶりなのに、椅子にちゃんと座って食事ができるようになるまで、ずいぶん時間がかかったような気がする。

 そもそも座ることすら、だるくてしんどくてできなかったから、日曜日は相当なダメージだったんだなと自覚した。

 明日は授業があるが、家から少し遠いキャンパス。

 リモートで受けるかどうかを迷っている。

 もし、まだめまいがするようだったら、リモートで受けよう。

2023年10月4日 これをホームシックと呼ぶのか

 オンラインの用事があったため、少し早起き。

 めまいは強くないが、家の中をうろうろするだけで、やっぱり少しクラっとくる。

 昨日、貧血の症状も出た。授業は、リモート参加にする。無理しない。

 とはいえ、ここ数日で一番調子がいい。外は、快晴とはいえないが曇りでもない。

 ということで、隣にあるスーパーまで歩いてみる。

 近所の解体中だった建物が完全に解体し終えていたり、その近くの建設中のビルのガラス窓がほぼ全部設置し終わっていたり、街路樹が黄色や茶色に色づいていたり、風が冷たくなったり、道ゆく人がダウンを着ていたり。

 一気に、年の瀬感が増してきた。たった数日、出歩いていなかっただけで、タイムスリップしたみたい。

 1週間前まで、あんなに半袖やタンクトップの人がたくさんいたのに、いまやフードをかぶって両手をポッケに突っ込んでいる人ばかり。

 そして当たり前だが、外出して久々に「ああ、わたし日本にいないんだった」ということを思い出した。

 寝込んでいる間は、ほとんど脳みそは働いていない。

 眠りすぎて寝つきが悪いときはスマホをいじっているが、そのときに流れてくるニュースやSNSの投稿の多くは、日本のものはもちろんラトビア、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、韓国、アフリカなどに住んでいる人たちの、動画や写真。

 自分が今、どこに住んでいるかどうかは、ほとんど関係ない。

 食べるものも、まあ気軽に日本食は手に入らないが、困るわけではない。幸い、いま住んでいる家のシャワーは、しっかり熱いお湯も出る。

 引きこもっていると、日本と何も変わらない。

 しかし、外に出れば、やっぱり違う。

 においも、人も、空気の渇きっぷりや、空の色、雲の流れの速さも。

 そうしてやっと、思い出す。

 「そうだ、わたし、日本ではなくて、ラトビアにいるんだった」。

 ちょい割高でも、スーパーでとうふや紅生姜が購入できるグローバル社会に感謝しつつ、どんなにインフラ整備がされても追いつかない体感温度は、確実に存在するのだなと、ヨーロッパナイズされたお寿司を食べながら思う。

日本円でおそらく800円くらい

 いまは、とにかく日本食が恋しい。

 近くのスーパーには、照り焼きソースだけ数種類売っていたが、みりんはない。ポン酢はあったが、小さい瓶で800円くらい。

 あー、日本食が食べたい。名もなき野菜炒めとかでいい。むしろお寿司とかより、そういうやつが食べたい。

 これがホームシックと呼ぶなら、初ホームシックかもしれない。日本食が食べたいシック。

2023年10月5日 健康ってなんてすばらしいの

 ほぼ復活。まだ喉がいがらっぽいが、朝起きたらスタスタ歩けるし、食事もふつうに食べられるし、吐き気も頭痛もだるさもない。

 あー、本当によかった。

 結局、身体がだるくて病院へは行かなかったけれど、コロナだったのか風邪をこじらせたのかは、不明のまま。

 とにかく、まともな日常を送れるようになって本当によかった。

 急ぎの用事もあったため、リハビリを兼ねて在ラトビア日本大使館へ。

 雨が降って、少し強めの風が吹いている。

 よく欧米では傘をささない人が多いと言うが、ラトビアの人は、わたしの予想よりも傘をさす人が多い印象。

 折りたたみ傘も、めずらしくない頻度で売っている。

 大使館を訪問後、在留許可取得のための電話をかける。忙しいから2時間後くらいにかけ直してと言われる。

 電話の相手の事務所は市街地から離れているため家に戻る時間がもったいないなあと思い、数日ぶりにカフェへ。

 こちらに来てから家ではお茶ばかり飲んでおり、急にコーヒー飲んだりして大丈夫かな?などと根拠もなくビビっていたが、ひさびさにカフェに行けて健康のすばらしさを噛み締めていた。

 店内でかかっている音楽が2010年初期の洋楽で、セレクトした人との世代の近さを感じた。そして音楽しか聞こえないほど店内が静かで、お客さんがみんな自分の家かと思うほどくつろいでいた。

 喉のいがらっぽさを考慮したのと、先週末に風邪をこじらせたのに怯え、授業は再びリモートで受けることにした。無理しない。

 でもだいぶ復活したから、課題はやる(当たり前)。まともに課題ができるようになってよかった……。

 「健康」がゲシュタルト崩壊するくらい、何度も「ふつうの日々が送れる健康状態の素晴らしさ」を噛み締めた。

 自分が思っているよりも、風邪で寝込んだことがストレス(もしくはショック)だったのかもしれない。

 ところで、折り返しかかってくるはずの電話がまだ来ないんだが。はよ〜。

2023年10月6日 待ちに待った

 秋晴れ。

 寒いけど、気持ちがよい日差し。

 今日は絶対にお米を食べる!

 と、強い決意と共に出発。もう風邪の気配はない。よかった。わたしの身体、ほんとうによくがんばった。えらい。

 最初「Second Hand」というお店を見つけたので、そこへ行ってみる。

 店内は、うなぎの寝所のような小さな店内に所狭しと雑貨や服が山積みになっていた。

 ざんねんながら、お鍋はなかった。

 そのまま近くのホームセンターへ行くと、体育館くらいある天井の大きい店内に、これまた天井まで届きそうな棚がズラーッと並んでいる。商品もその棚にぎっしり。

 これ、地震があったらどうするの。

 ……と思って「あ、ここラトビアだったわ」と一人でつっこめるくらいには元気になりました。

 なべと、その他必要な生活雑貨を購入し、そのまま自宅近くの市街地へ。

 夏が終わったからか、冬間近だからか、大きなモールでは年末年始のバーゲンかと思うくらいのセールをしていた。

 とても平日の夕方とは思えないほどの人の多さ。

 回復したとはいえ、ひとごみを避けたい病み上がりほやほやのわたしは、そそくさと帰宅。

 そして待ちに待ったお米を炊きました。

赤いのは梅干しではなくラズベリー

 こんなにワクワクしながらお米を炊いたのっていつぶりだろうか。

 浸水して、炊いたあと蒸して、日本から持ってきたわさびおかかのふりかけをかけて食べた。

 うまい。泣いた。

 ちょっとべちゃっとしてしまったけど、問題ない。

 残りのお米は小分けにして冷凍した。それだけで、今日一日の満足度が一気に高まった。

 今日はたくさん歩いた。

 天気がよくて、歩けることが楽しくて。

 寝る前に少し課題をやって、早く寝よう。

おまけ① 日本に帰ったら買いたいもの(10/6時点)

 ラトビアに来て、まだ1ヶ月ちょっとしか経っていないが、思い出したらメモしているものがある。

 「日本に帰ったら買い出すものリスト」。

 ここ数日の風邪で、一気に欲しいものが増えて自分で笑ってしまった。しかも食べものばかり。

 工夫すればラトビアでも手に入れられる・味わえるものがあるだろうが、現時点での欲望を備忘録的に載せてみる。

  • 高野豆腐

  • 増えるわかめ

  • 乾燥野菜

  • ひじき

  • 梅昆布茶

  • かつおぶし

  • おかゆ

  • お茶漬け

  • ごまだれドレッシング

  • 紫蘇ドレッシング

  • 野菜炒めの素

  • オイスターソース

  • ブルドッグソース

  • コチュジャン

  • ごま

  • カレー粉

  • きなこ

  • あんこ

  • みりん

 カレー粉は、カレーペーストを見つけたのでそれを試してみる予定。スパイスも豊富にあるから、なんとかなると思っている。

 アメリカやイギリスの日本人が多いエリアなら、これらも現地で手に入るのだろうか。

おまけ② 在留許可を取るためのすったもんだ

 ラトビアに来て1ヶ月以上経っても、まだ在留許可が取れない。

 まあ仕方ない。

 個人で進めていると手続きがとにかく大変。

 仲介業者がいる理由がよく分かる。

 大学に聞いても分からないことは、ラトビアの移民局にメールで問い合わせるが、なぜかラトビア語でしか返信が来ない。

 Google翻訳の精度が上がっているから良かったが、なぜかたくなにラトビア語なのかは謎(わたしは英語で問い合わせしている)。

 これも備忘録として書き残すが、いまのわたしの問題は

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