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見上げればいつも四角い青空#3 いただきものには福来たる

青空と春の陽気に誘われて、いただきもののチケットを手に、散歩がてら広尾にある山種美術館を訪れた。
いただきもののそのチケットは、抽選に当選していただいたもので、同美術館で開催中の特別展「花・Flower・華2024」の鑑賞チケットだった。

初めて訪れた山種美術館は、落ち着いた雰囲気の、とてもきれいな美術館だった。

展示会場は地下。
チケットを切ってもらい、階段を下る。階段には、金色の鶴が描かれる壁画があり、導入の気持ちを高めてくれる。無知なボクは、後にこの金色の鶴が、この美術館の顔とも言える加山又造作の登板壁画であることを知る。

入り口に案内されるQRコードを読み込むと、スマートフォンで音声案内を聞くことができる。絵画には疎いボクにとって、作品の背景やその作品の鑑賞ポイントを解説してもらえることは、とてもありがたかった。

会場は、四季折々の花をモチーフに、春夏秋冬の順に季節を巡ることができるよう工夫されていた。

そんな中、この季節でもあるからなのか、桜を主題としたものも多く、桜の季節の終わり際に、奥村十牛の「醍醐」などで改めてきれいなさくらを鑑賞できたのは、素敵な体験だった。

田舎で育ったボクにとって、東京に暮らし始めて強く感じるのは、今回の山種美術館での特別展の鑑賞に限らず、スポーツでも、ライブでも、演劇でも、博物館でも、美術館でも、本物に触れる機会に圧倒的に恵まれているという事実だ。

そして、この特別展で、特にボクが、心惹かれたのは春の季語でもあり、桜よりも一足先に咲く梅を題材とした、速水御舟の「白梅」と「紅梅」という2つの絵だった。

その二つの絵は、まだ冬も終わり切らず、そうかといって春も本当に早いころ、あのひんやりと冷たく、手がかじかみそうな夜の空を思わせる中に、薄い月が描かれている。
そして、並べることを前提としていることの証左とも思える、二つの絵を薄い雲がつないでいる。

左には、左中央部から空に向けて伸びる若々しい枝についた白梅が、右には、右下部から上に向かってどっしりと構える太い枝から伸びる枝に咲く紅梅が、左右対象のように配置されている。

きっと一つ一つ鑑賞したとしても美しいと感じたとも思う。
けれど、二つ並べて鑑賞すると、その配置は、シンメトリーとは決していえないとしても、完全にそれぞれの自由な構図の二つの絵というには、少し奇妙にも思えるほど、もう片方の絵の存在を意識しているようだった。

そして、この二つを並べてみると、本当に美しく、初春の空に本物の紅白の梅を見ているようだった。

山種美術館の創設者である山崎種二氏は、しばしば自宅にて、この二つの絵を並べて鑑賞したと解説されていた。それは、所有者であるからこその究極の贅沢なようにも思える。

今回、所有者でもなんでもないボクが、この二つの絵を並べて鑑賞する機会に恵まれたことは、眼福だった。

どうやら、いただきもののチケットは、福を連れて来てくれていたようだ。
その幸運に心から感謝だ。

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