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彗星虫

ピンクの心臓を見せびらかしながら
ジャムの小瓶の中で随分と生きていた


もうすぐ夏ですね
君は夏が似合いませんね
君の半袖を、首のホクロを、色んな表情を
もっと長い間近くで見ていたかった


君を手放したかわりに手に入れた
半透明の虫は綺麗だったり汚かったり
いつでも私だけを映してくれた
生きて死ぬだけの余生を半透明に映しては
ぼやけてばっかの私を喜ばせた
鮮明な不鮮明さを愛していたかった
世界には汚いものなど何ひとつなくて
ただお前らの目が濁っているだけ


もうすぐ夏ですね
私も夏が似合いませんね
私の肩のホクロは夏の大三角で
一年に一回くらいは会いたくなるでしょ
ねぇベガ、会いたくなるでしょ


もう虫は弱っているのかあまり動かなくなった
霧吹きで甘い水をかけても無反応になった
私に染まってしまったお前は
ぐったりと疲れていて
半透明だった綺麗な肌には
濁ったブルーがところどころ混じっていて
汚い、汚い、汚い、汚い
もう要らない


目をくり抜いて綺麗に綺麗に洗いたい
花粉症でもないのに
濁った世界では君までもが汚くて
涙だけが眩しくてしかたなかった


私も虫も君もこの濁った夢の中で
ぽっくりと人生を終えるのだろうか
嬉しい、とても嬉しい
それが夏ならもっと嬉しい

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