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改めて今。『アルスラーン戦記』を語る。その6〜第2部完結から見えてくるアルスラーンシリーズの全体像

何度も言いますが、アルスラーン戦記は1986年に『王都炎上』が角川文庫から発刊され、2017年『天涯無限』にてシリーズとしての物語は完了しました。

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この光文社文庫の陛下素敵(^^

そしてこれまた幾度も書いてますが、15巻『戦旗不倒』最終話から終焉ラストスパートが開始され、16巻で「悲嘆の大団円」となります(泣。
 
長年完結を待ち侘びた読者は、私のように「中学生」や「小学生」ころからファンになり、30余年にわたりアルスラーンと共に成長してきたといっても過言ではなく、、

だからある種の「期待」も大きかったのでしょう。

15〜16巻の波乱怒涛の展開に、どうしても心がついていかず、納得もいかない形で終焉に向き合わざるを得ない人々が圧倒的に生まれてしまいました。
 
本当に評価が「フルボッコ」状態で、そんなに言わんでええやん!て思えるものもあるし、なんか勝手に読者の方で「こういう展開が良かった」みたいな、別のストーリーを提示したりして、、

いや、あなた田中芳樹じゃないやん。。。何いってんの??

って・・思えるちょっと無責任だよね〜と捉えられる意見も多かったのですよね。(私、いちおう編集者だったりもするので、ここは著者先生の味方をあえてしたい;爆)

>2023年に田中芳樹先生自ら、アルスラーンの物語の終焉について語っている

はい。
というわけで、上文のように田中芳樹先生自ら、

・アルスラーンの物語の終焉
・なぜ30年以上も完結するまでにかかったのか。。

全てyoutubeでお話しなさってます。


キャラやストーリーの「結末構想」については以下の動画を。初っ端から、「皆殺し」の核心をついてます(笑。

 
私はこのyoutubeを先に見たんです。
その上で、アルスラーンの2部を完読したこともあって、、

そこまでの衝撃は受けなかったですのよね。
 
むしろ「英雄譚の末路」という、古今東西親しまれてきた古典の展開を、アルスラーンに当てはめて作品を書いたにすぎないんだな・・って、、作家先生のクールな脳細胞に思いを馳せてしまいました。
 

>アルスラーン戦記の全体像を俯瞰すると壮大で一睡の夢の「興亡物語」

これらの情報を全部取り入れて、改めて2部を一通り読んでみると、1部の見え方が全然変わってきます。
アルスラーン戦記の「興」に当たる第一部7巻は、まこと「一睡の夢」のような幻想感が増してくるのです。
1巻〜7巻までの展開は、本当に読者にとって「痛快この上ない」ものでした。
・アルスラーン陣営の無頼の強さに心沸きたち、爽快です。
・侵略してきたルシタニア軍の意外な悲哀と人間絵巻が、どことなく共感を誘います
・立場が違うだけで、あらゆる個性を発揮してくる登場人物たちは、すごく生き生きしているものです。

とにかく楽しい。
だって、何もかも失った王子と大人たちが、取り返して「上に昇っていく」話ですから。
希望しかないんだもの。
王都を取り返すんだ!という希望。
その中に、人間絵巻が巧みに繰り広げられる。
最初から「大団円」のゴールがある程度見えているものだから、読者は安心して楽しめる(た)のです。 


が、VS蛇王戦となった2部は、どうあっても「亡」へのオマージュがなだれ込んできていて、一部以上にきな臭いったらない。

「過酷な目の前の現実」を見せられているような感覚。
アルスラーン国王の治世も「守成」の段階になるので、ストーリーとしては停滞しやすいです。
 
ビジネス書でもそうなのですが、やっぱり
・創業(スタートアップ)の七転八倒なお話しが、受けやすくて
・経営をどう維持していくか・・のエピソードに読者はつきづらい

のです(苦笑。

みんな山あり谷ありだけどどこか光輝く「夢」を物語に投影しに、小説を買っていくのですよね。
でも田中先生は夢を与えず「現実」を与えすぎたことで、、読者を闇の沼に叩き落とす流れを作った。
これが、多くのファンの「フルボッコ」を引き出した結果となったのかもしれません。

ただねえ。
新たな登場人物たちも、思ったほど印象に残らなかったりするのですよね。
孔雀姫フィトナは全然感情移入できませんでした。。才たけているようで、あんまり面白味のない女です。
大人しくて「プリンセス」してたイリーナさんの方がまだ個性深かったくらいです。

いっぽうで「良き・・」と思ったのは「サリーマ」さんです。
シンドゥラの女宰相ともいうべき頭脳の持ち主。ラジェンドラの幼馴染で、結局はラジェンドラを結ばれる感じに・・・。
サリーマさんは荒川漫画版でインパクトある形で登場します。
登場させてしまうの、、わかるきがした。

コミック版9巻より
アルスラーンがダメだったら、絶対サリーマさんの親衛隊だったな、ジャスワントw

他にもいろんな人は2部のオリキャラとして登場するのだけど、、
どうにもユーモラスには欠けるのだよねえ。
その意味でも、1部の物語から湧き立つ「人々の熱気」みたいなものはどう足掻いても輝いて見えてしまう。

2部を完読すると、1部はどこか遠い昔の話・・です。
「あの頃みんなキラキラしてたね〜」っていってしまいたくなるくらい、どこかフワフワとした成功幻想譚に思える展開です。

人間同士の物語って、やっぱりそこまでスケールは大きくないんだな。
なんだかよくわからない「魔物」との戦いは、人知を越えすぎてちっぽけな「ヒト」が太刀打ちできないからこそ、変な「暗さ」「怖さ」を秘めているのはないでしょうか。
 
 

>蛇王ザッハークは「得体の知れない想定外」の象徴か?


どなたかもレビューされてたけど「人知がいきとどかない存在は、個人の実力どうあれ死が突然あっけなく訪れる」という感覚なのかも知れません。

特にアルスラーン執筆お休み中には「大震災」もあり、今なお自然災害や、局地的だけど頻発する「戦争」「通りすがりの凶事件」「思いもかけない事故」が人の命をあっけなく奪っていきます。
安倍首相の暗殺事件なんかも、「まさか今の日本であんな明治みたいな事件があるとは思わなんだ」ですよね。
  

ナルサスの死も
他の16翼将の死も
そんな感覚を踏襲しているのかも、、です。
 

「死」と引き換えに「英雄譚」は盛り上がり、キラキラと永遠です。
ザッハークは人造人間ではあるものの「想定外」の象徴でもあったのかな・・とも思わせられたほど。
 
そんな「想定外」の象徴かも知れない蛇王ザッハークですが、かつては「閉じ込める」だけでせいいっぱいだった王様に比べ、アルスラーンは見事に「討ち倒して」しまいます。
大陸公路に「大空位暗黒時代」を誕生させてしまうけど、彼はザッハークを亡き者にはしているので、後世の「人間たち」に時代を進めてもらうしかないのですよね。
 
それを思うと、「ザッハークをみんなで倒したね。諸外国もうまくたらし込んだね。アルスラーン&パルスめでたしめでたし」ではなく、一睡の夢のように「伝説」となって人々の心に生きる存在になった方が「忘れ去られない」のでしょう。
アルスラーンと16翼将は、一旦「破滅する」ことで、新たな再生に繋げていった。「彼の天命を継ぐものは誰ぞ!」。キシュワードの孫、ロスタムがルクナバードを抜いたことで、いよいよ「次の物語」が動き出します。
こう考えると「興亡」のテーマがズドンと圧倒的な重厚感で横たわっているのだなあ、アルスラーンの物語って・・と思いを新たにしてしまいます。加えて、それは確かに「歴史の大きくダイナミックなうねり」を体感できる作品世界ではあるのです。

が!
これもあるブログで見かけたんだけど、、

「そんな”歴史物語”は見たくない。面白い小説が読みたいんです」


・・・このコメント、確かにもっともです(汗。
 
面白くて売れてしまう本を書く人って、厄介ですよねぇ・・・

長くなったので、続きます。

アルスラーン「陛下」だろうと思われるイラスト。
大人ぽい
https://natalie.mu/comic/gallery/news/92277/173832


 



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