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おかしぞうし(お菓子草子)

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忘れられないお菓子にまつわる思い出をまとめたエッセイです。
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#noteおやつ部

ビスケットと、マリアのこだわりと。

ビスケットと、マリアのこだわりと。

森茉莉をご存じだろうか。

文豪、森鴎外の長女であり、50歳を過ぎてから作家としてデビュー。エッセイや小説を中心に異彩を放つ。食への欲求が人一倍強く「貧乏なブリア・サヴァラン」と自身を称した。そんな彼女は著書の中でビスケットについてこのように記している。

”ビスケットには固さと、軽さと、適度の薄さが、絶対に必要であって、また、噛むとカッチリ固いうえに脆く、細かな、雲母状の粉が散って、胸や膝に滾(

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マドレーヌと、生きづらさと。

マドレーヌと、生きづらさと。

「生きづらさ」という言葉がよく用いられるようになって久しい。だが、その正体が実のところ何なのかを私も知らない。さりとて言葉だけが一人歩きしているともいえないし、やっぱり「生きづらさ」はあるのかもしれない。だが…。

西ヶ原という都内ではあまり耳慣れない場所にCADOT(カド)というフランス菓子店があった。JR駒込駅から旧古河庭園の方角に向かって坂をくだり、霜降橋交差点を左に曲がり少し歩くと丸みを帯

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芋ようかんと、母の食べてきたものと。

芋ようかんと、母の食べてきたものと。

芋ようかんといえば浅草舟和がまず思い浮かぶが、最近は家の近所にある土佐屋のものを特に常用している。どちらも甲乙つけがたいけれども、「芋感」という点では土佐屋に軍配があがるのでは、と個人的には思う。

土佐屋は焼肉屋のとなりにある間口の小さい店舗で対面売りをしている。夕刻前には芋ようかんを始め、あんこ玉、栗蒸しようかんなど、ほとんどが売り切れてしまっている繁盛ぶりでこれまでも何度買いそびれたことか。

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