わたしとキムくん #4 裸の心
キムくんが再び日本を訪れる日。
あいにくその日は仕事があり、空港まで迎えにいくことはできなかった。週末にわたしの地元の祇園祭に行くことになったので、キムくんはそれまで4日間ほど、他の地域を観光してくるらしい。
キムくんは韓国を出発する前、連絡をくれた。
…
…
…
カササギ??
って、どんな鳥だっけ??
カササギをググってみると、カササギって七夕のシンボルなんだって。
織姫と彦星が天の川を渡れるように、翼を広げて”愛の橋渡し”をしたのが、カササギ。
“愛の橋渡し”……
なんかロマンチックだけど、カササギは日本では天然記念物に指定されていて滅多に見ない。
見間違いでは…?と思ったけども、韓国では全土に生息していて"幸運を運ぶ鳥"として親しまれているそうだ。
…最初の出会いから全部、こんな偶然ってあるのかな?
こんなにも偶然が重なると、運命だと勘違いしてしまうじゃん……
偶然出会った外国人と、意気投合して、惹かれていって…
なんか、ビフォアシリーズみたいかも。
✳︎
キムくんは、旅行中も連絡をくれた。
今日はどこへ行った、何をみた、あそこへも行きたかったけど気温が暑すぎて諦めた、などなど、他愛もないこと。
彼は日本での旅行中、基本的に吉野家やすき家などで食事を済ますらしい。食べ歩きより、興味のある建築を観に行ったり、見たことない景色をたくさん目に焼き付けたいそうだ。
一方でわたしはというと、とにかく現地の美味しいものを食べまくりたい!胃薬を飲んででも詰め込みたい!という食い意地の張った女である。
吉野家が美味しいのはわかるけど、吉野家以外の日本食も味わってほしい。
…
…
…
あっまーーーーーーい!!!
こんな感じで再会までの数日を過ごした。
✳︎
そして、いよいよ再会の日がやってきた。
朝早く起きて準備をする。ドキドキ。
髪も切ったし、洋服も買った。ドキドキ。
メイクをこんなに入念にするのはいつぶりだろうか……ドキドキ。
もうちょっと時間があるから、もうちょっとリップを塗っておこうか……ドキドキ。
視線は時計と鏡を行ったり来たりする。
キムくんとは、自宅から離れた大きな駅で待ち合わせをしている。わたしが車で迎えにいって、そこから観光がてらドライブしてランチして、夕方くらいに地元に到着して、夜は祇園の宵山をみる。
迎えに行くまでの車の中で
なんとなく、あいみょんを聴いてみた。
あいみょんはあまり詳しくないけど、有線で何度も流れるので親しみはある。
そういえば、"裸の心"って歌詞をちゃんと知らないな……と思い、初めて歌詞を意識しながら聴いてみた。
あ……なんかちょっと自分に重なって聞こえるかも。
周りが結婚して家庭を築いていく中で、わたしはなんでこうなんだろう?と卑屈に思ってしまう気持ち、わかる。
うん…
うん…
うん……!
恋破れてきた人がまた新たな恋心と向き合おうとする曲…何度も聞いてきたはずなのに、初めて聴く歌詞に共感した。
実は、再会するのは楽しみな反面、会うのがちょっと怖いという思いもある。
だって、この恋のいく先なんて分からない。分からなさすぎる。
好意を持ってくれているのはわかるけど、はっきり伝えられたわけでもないし、ただ軽い恋愛感情を楽しんでいるだけかもしれないし。
だって、わざわざ年上の言葉の通じない日本人を選ぶより、同い年くらいの可愛い韓国人の彼女を見つけた方が楽しいじゃん。
そして、もし好意を伝えられたとて、私はどうするつもりなんだろう?
もし本当に関係が発展して付き合うことになっても、遠距離だし、外国だし。
蓋を開けてみたらお互い想像していたものと全然違って、関係がすぐ終わってしまうかもしれないし。
でも、キムくんが見たカササギが本当に吉兆なら、これは出会うべくして出会った縁なのだろうか?
自分に合う人なんて見つからないし、きっとこれからも1人で、それなりに楽しい毎日を…
自由を満喫しながら、時々孤独を感じたりする毎日を…
そんな風に生きていくんだろうな、と思っていたのに。
またこんな出会いをする日が来るなんて。
いろんな感情が込み上げてきて、気づいたら涙がこぼれていた。
あまり深く考えずにただ楽しもうと自分に言い聞かせたはずだったのに。
まだ何も始まってすらいないのに。
なんかひとりで盛り上がって、バカみたいだな、と思ったけど、高ぶる感情を抑えることはできなかった。
曲の盛り上がりに合わせてアクセルを踏む。
遠くまで連なる青信号がグリーンライトに見えた。
"そのまま進んで良いんだよ"って言われているようだった。
*
駅に到着。
車を駐車場に停めて、キムくんにメッセージを送る。
ドクン…
ドクン……
ドクン……!
あっ、あれキムくんかも。
キムくんらしい人が近づいてくる。
…
…
…
…え??あれ???
キムくんに再会したわたしは言葉を失くしてしまった。
続く……
▼あいみょん "裸の心"
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