ものすごいドラマに出会った。「アンナディレクターズカット版」
ものすごいドラマに出会った。
Amazon Prime Videoで配信されている、「アンナディレクターズカット版」
なんの前情報もなく何気なく見始めたのが、一気に最後まで見てしまった。8時間の長編映画を見ているような上質なドラマ。
きっと、万人受けするドラマではない。ジャンルはヒューマン要素のあるサスペンスに分類されると思う。クスッと笑えるシーンや胸がときめくラブシーンは一切ないし、視聴者に考えを委ねる結末。ドキドキワクワクキュンキュン感動!のハッピーエンドが好きな人にはおすすめできません。
反対に、しっとり静かに映像や音楽を鑑賞したり、小説を読んだり、会話の行間を読むのが好きな人やそれぞれの登場人物の行動の理由を考えたり分析したりする人はきっと面白いと感じるはず。
1. 「アンナディレクターズカット版」のここがすごい
なぜここまで心に残るのか。
脚本、演出、音楽、演技、カメラワークなどの全てのクリエイティブに一切の無駄がなく練り上げられている。プロの仕事とはこのことか……こんなドラマは他に類を見ない。
派手なシーンはありません。淡々と進む物語ですが、中だるみすることなく取り憑かれたように、気づいたらずっと惹きつけられていました。
1-1. 主人公に感情移入してしまう脚本がすごい
監督は、3年8ヶ月をかけてこの脚本を執筆していて、設定や登場人物のキャラクターの描き方が秀逸。
主人公は田舎の貧しい家庭に育った少女。親の期待に応え心配をかけないためについた嘘をつき、その嘘の整合性をとるためにどんどん嘘を重ねていきます。
けれども、彼女は人を蹴落としたり野心を抱いて嘘をつくのではありません。人に見下され、貧しい境遇にある自分に劣等感を抱いており、その現実から抜け出すために嘘をつくのです。
彼女に非がないわけではなく、一時的な衝動や感情で間違った行動をしているのは明らかだし、きっとどこかで引き返すタイミングもあったはず。
しかし、彼女の生い立ちや揺れ動く心が詳細に描写されるため、いつの間にか彼女サイドに立ち、嘘がバレやしないかとこっちが心配してしまう。
彼女が嘘をついて辿る道のりは、ある日知らない駅のホームに立ち、来た電車にふらっと乗り、降りようにも人混みに押されて降りられず、そのまま最終地点までたどり着いてしまったような……
「嘘で塗り固められた偽りの人生」の行き着く先は何なのか。彼女の行動に苦しくなりつつも、目が離せなくなる……
1-2. 音楽と演出がすごい
クリエイティブが総じて素晴らしいのですが、一番印象に残っているのは音楽とそれに合わせた演出。考え尽くされた音楽の使い方。音楽とストーリーとの隠れたメッセージにゾッっとする。その一部だけ紹介すると……
動画のシーンで流れているのはバレエ楽曲「エスメラルダ」です。
「エスメラルダ」は、15世紀パリでノートルダム寺院周辺を舞台に繰り広げられる、美しいジプシー娘のエスメラルダと、彼女を取り巻く3人の男との愛と憎しみの物語。
このエスメラルダの物語が主人公の境遇や演出にリンクしている。動画の階段のシーンも、印象に残る場面の一つです。
いつか嘘がバレてしまうかもしれないという不安と葛藤、逃れられない嘘、それでも維持したい生活を、「エスメラルダ」、「登っていく階段」、「ヒール」で表現しているシーン。
ストーリーを知らずにここだけみてもピンとこないと思うので、頭の片隅に入れておいていただければ^^
他にも流れる音楽が美しくもどこか悲壮感やアイロニーを帯びていて、その場面の登場人物の心情やドラマのテーマとリンクします。
1-4. 演技がすごい
役者がそれぞれ素晴らしい!
主演のぺ・スジは韓国で「国民の初恋」と名高い(日本人の「国民の初恋」はガッキーかな?^^)、アイドル出身の女優です。今までの作品の役どころはその容姿で想像つくようなきれいな女性の役どころが多かった。
それが、この作品では10代の可憐な女子高生、20代の疲れた労働者、30代の成功した女性の表と裏の姿を見事に演じ分けています。一気に演技派女優への道を開拓しました。
脇を固める俳優陣も実力派が揃っています。
1-5. 反響がすごい
Twitterでの反響がすごい。わたしは視聴直後から「アンナディレクターズカット版」の信者となり、毎日Twitterで感想ツイートを検索して「いいね!」を押すbotと化しています(苦笑)
「アンナディレクターズカット版」のタグで感想をあげている人のほとんどが、「面白くて一気にみた!」、「余韻がすごくて他の作品が見れない……」、「今までで最高のドラマ」などと呟いています。
反対に、あまりハマらなかったという人の意見は大体こういった感想でした。
芸術性が高すぎる
結末が悲しいのは好みではない
現実にこんな嘘は通用しない
見る人それぞれの好みがあるのは当たり前で、万人受けする映画ではないと思います。また、確かにところどころツッコミどころはあります。ですが、物語を成立させるための設定は必要なのと、この物語の論点は嘘の精巧さではないのでそこは目をつぶってください……というしかない^^;
一人でも多くの人にこの作品を観てほしい。
マイナスポイントを凌駕するほどの総合的な面白さだと!大声で私は叫びたい!!
2. 配信会社Coupang Playとの騒動
Amazon Prime Videoには「アンナディレクターズカット版(8話)」と「アンナ(6話)」があります。6話版は配信会社のCoupang play が監督の了承を得ずに一方的に編集したとされていて、配信側と監督を中心とする制作陣との間で揉めているのです。
現在、6話版から監督と撮影、編集、音楽監督など6名のクレジットを抜くという形で一旦落ち着いたようですが、今後訴訟に発展する可能性も。
6話版の方も少し確認しましたが、8話版のダイジェストのようで、制作陣の匠のような仕事をカットして切り貼りし、意図したものと全く別の作品のような仕上がりです。
この記事を読んだ方には、是非8話の方を観てほしい。6話版は冒頭から壮大なネタバレがありますのでくれぐれもお気をつけください……
騒動の真相は分かりませんが、一つの作品として「アンナディレクターズカット版」が正しく評価されてほしいと心から願っています。
3. おわりに-とにかくすごいんだ!-
わたしの興奮と情熱が少しでも伝わりましたでしょうか^^;
正直、ドラマにこんなに夢中になるとは今までの人生で思ったことはありませんでした。
しかしながら、韓ドラに出会ってからというもの、韓ドラは単なるエンタメではなく、わたしたちの社会や生活を素晴らしいクリエイティブで描いてくれる芸術作品であると感じています。
これまで韓国ドラマに馴染みがなかった方にも、ぜひ観てみてほしい。そして視聴後の余韻に浸ったら、是非こちらの考察記事も合わせて読んでみてください。
ドラマの感想などコメントやTwitterのリプもお気軽にいただけたら嬉しいです。
それでは、よきドラマライフを^^
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