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【短編小説】「こんな話、知ってる?」

※この物語には、恐怖を煽る表現と身体の欠損があります。心臓の弱い方、怖いのが苦手な方はオススメしません。


「ねーねー、新しい怖い話持ってきたんだけど、聞いてくれる?」
そういうオカルト好きの親友は、私に確認はすれど、返事をする前に話し始めるのが癖だ
「最近さ、この辺で流行ってんのよ。本当にあったやばいやつ」
「で、それがどう怖いのよ」
いつもの通りの返事をするが、彼女の表情はどこか暗い
「あのね、あんまり話すと周りにも伝染するから、大声では話せないんだけど…」
じゃあ私に話すなよ、などと言っても無視して話すのだから、もはや返事すら面倒くさい
「夢で糸ノコを持った黒いフードを被った男に追いかけられて死ぬと、本当に死ぬんだって。しかも、この話を覚えてると本当に夢に出てくるんだってさ」
耳元に近づいて小声で言うが、こいつは毎回声が大きいから、普通に周りの人も聞こえてる
てか学校で言うな学校で!
あー、ほら、教室のみんながヒソヒソヒソヒソ話し始めたじゃん
「へー、で、それどこ情報?それ本当ならさ、そんな話出回ってなくない?」
驚きを隠せない表情をして「たしかに!」なんてさ
いや、バッカじゃない?
「そもそも、そんな話信じる方がどうかしてるよ。なんでそんなにオカルト話好きなの?子供?」
「こ、子供じゃないよ!私は単純に、趣味として楽しんでるの!」
ちょっと怒った様子で言ってきたが、そのすぐ後には笑顔で神秘的だよとか言ってきた
意味がわからん
「あるかないかは本人次第だとして、本当にあったら面白いし、なくても想像力を掻き立てられるような物事、興味が出ないわけないじゃん!」
「めっちゃ笑顔で言うじゃん…」
正直そういうのわからんわ…
「当たり前でしょ!?だって、未知のものだよ!?地球上にもしかしたらいるかもしれないんだよ、あるかもしれないんだよ!?これが面白くないわけないでしょ!」
そう言って私の机をバンッ!と叩いた瞬間にチャイムが鳴るものだから、教室にいたみんなが吹き出してしまった
「え!?なんで笑うのよ!」
「わりーわりー、ちょうどタイミング良くてさww」
「先生来るから、早く座ったら?」
そうやってあしらって、みんなは席に着く
直後に科学の先生がやってきた

学校も終わり、部活もやってない帰宅部の私は帰路に着いていた
同じく帰宅部の親友は、科学前に話してたオカルト話の続きを話してた
いや、聞いてないし興味無いんですけど
「でね、この話さらに続きがあってさー」
「へぇー、まだあるんだー」
「絶対興味ないじゃん!今日覚えて帰ってよー?あたしだって、毎日殺されないように逃げながら過ごしてるんだから」
「は?」
本当に「は?」と声が出た
どういうこと?
「あの話聞いて帰った日さ、あたし夢の中でフード被った男に追い回されたのよ。しかも聞いた話の糸ノコ持ってたから、絶対この話のやつだよ」
そんな真剣な顔で言われても…
「それ、なんであの時言わなかったのよ」
「だって、覚えてなきゃあいつは現れないの。だから、ただ聞くだけなら平気、忘れさえすれば。でも、覚えられると困るから…」
しょんぼりした様子で言うけど、それ、私覚えて帰ることにならない…?
「私に死ねって言ってる?」
「そんなこと言ってないよ!ただ聞いて欲しかっただけ。でも…」
「どうしたのよ」
「あたし、今日死んじゃうかもしれない…」
唐突に俯いて呟いた友人に、困惑を隠せない
「毎日逃げ回った続きから始まるんだけど、夢の中で私の中の体力は回復してなくて、今日、捕まる1歩手前で起きたの。だから、私、明日の朝、死んでるかも、って…」
ポタポタと、頬を伝い鼻筋を伝い顎まで行き落ちた涙を見て、私は抱きしめていた
「大丈夫、大丈夫だって、忘れればいいんだから…」
信じてないけど、こういう話の時に泣くことは今までなかった
だから、今回だけは本当なのかもしれないと、寄り添うことに決めた
「今日は私が寝ないようにどうにかするから、泊まりに行ってもいい?」
俯きながらコクリと頷いてくれた
親友が死ぬところなんて見たくない
親友が死ぬなんてこともさせたくない
例えなんであれ、私たちは立ち向かわなきゃ

「キョーコのお母さん、なんて?」
「ん、ヒマの家なら大丈夫って、許してくれた」
「良かった。来てくれなかったら、あたし多分怖くて怖くて、気づいたら寝ちゃうかもしれなかった…」
一度自分の家に行って確認と許しを得た
どうにかして、ヒマを生かさなければいけない
「ヒマ、そいつの特徴覚えてない?描き出して対処出来ないか調べるの」
「あんまり、覚えてない…。多分、夢だからだと思う」
不安な顔をしてる
私がどうにかしなきゃ…
「それでもいい。覚えてる特徴で、そいつに対抗しなきゃ」
机にノートとシャーペンを出して、ヒマに覚えてる特徴を言ってもらう
「まず、黒いパーカーを着てて、それはチャックなくて、フードも被ってて…」
少しずつ出来上がってく…
「そ、それと、い、糸ノコ…」
怖くて震えるヒマをなだめながら、私は描き出していく
ふと、ヒマが私の手を握ってきた
「あたし、死にたくない…!!」
そう言うヒマは、泣いていた
静かに、でも確かに涙が流れていた
抱きしめたり撫でたりするだけじゃダメだ
声もかけなきゃ
「ヒマ、私ね、絶対にヒマを死なせない。だから、そいつを倒す」
でも!と、ヒマは言ってくる
「そいつの対処法っていうか、撃退方法、どこにも載ってなかったの…。あたし、やっぱり…」
「死なせないって言ってる!私がそいつを倒す!そんな夢の中でしか動けないやつ、敵じゃないよ!」
基本はこんな話信じない
けど、今はヒマが危険だから、そんなことも言ってられない
ヒマを泣かせる奴は許さない!
「あと覚えてる特徴、ない?」
「えっと…、あっ!」
「どうしたの?」
なにか思い出したのかな?
「自分にとっての、一番の思い出の場所で追いかけられてた」
「それ、すっごい情報じゃない?」
かもしれないと、ヒマは言う
「これも、誰もどこにも書いてなかったから、多分、気づいてる人はいないんじゃないかな?」
その情報があれば、思わぬ所で対処法が生まれるかも…!
「ヒマ、今日は手を繋いで寝よう」
「え、なんで?」
「こういう時こそ、お得意のオカルト話、じゃない?」
あっ!と、何かを思い出したようだった
前に話した、親友や恋人、自分にとって一番大切な人の夢に入るためには、その相手と手を繋ぐことっていうのを思い出したんだろう
私も、今回の“夢”というキーワードがなければ、思い出せなかったと思う
「ヒマ、私が絶対助けるから。だから、安心して、ね?」
特徴を描ききったシャーペンを置いて、ヒマの流れ切ってない涙を拭う
「うん、お願い…」
私の親友を殺させない

「夜ご飯美味しかった…!」
「あたしのお母さん、料理教室の先生だからね!それは当然だよね〜」
得意げにヒマは話してるけど…
「実は、私のお母さん通ってるよ」
そんな返しをした
「えっ!うそ!?」
「ほんとほんと。私のお母さん、前は料理そんな上手じゃなかったんだけど、最近すっごい美味しくて思わず聞いたのよ。そしたらさー」
思わぬ所で会話が盛り上がって、2人して気づいたら眠っていた
ちゃんと手を繋ぎながら話していた

夢の中で、フードを被った知らない男に追いかけられた
筋トレもしてない、体力も少ない私は、すぐに最初の距離から半分近くまで追いつかれてしまった
すると、目の前にヒマが見えた
『ヒマ!!』
あれ?
声、出てない…?
『ヒマ!陽愛!!』
ダメ!声が、音が、この夢の中じゃ消される…!
というかこれ、明晰夢(めいせきむ)ってやつじゃない?
自覚すれば、なんでも出来るってやつ
なら…
「ひまな!!!!」
たしかに、私に出せる最大の声量だった
それに反応して、ヒマはこっちを振り向いた
「ヒマ!私が来たよ!大丈夫!」
必死に走りながら、ヒマに大丈夫だと言い続ける
ようやくヒマと並んだ時、ヒマは泣き崩れた
「キョ、キョーコオォォォォォ!!あたし、あたし…!!」
「泣いてる場合じゃない!私のおかげであいつはだいぶ後ろにいるけど、早くなにか探さなきゃ!」
ヒマの手を握ってまた走り出す
何かないか周りを見るけど、何も見当たらない
というより、ヒマの一番の思い出の場所って、ここって…
私と、ヒマが初めて会った公園じゃん

『ねえ、あなたのなまえは?』
『あたし?あたしはひまな!よろしくね!』
笑顔でそう答えた幼い子供は、手を差し出してきた
握手をしようということだった
わたしはその小さな可愛らしい手を握って名前を言った
『わたしはきょーこ、こちらこそよろしく』
拙い笑顔で返したら、キョトンと不思議な顔をした
そんな顔をお互いして、しまいには笑ってしまった
ヒマと名前を交わした思い出の公園を、私はこの夢を通して思い出していた

「ねえ!私の夢とさ!キョーコの夢ってさ!もしかして、同じなんじゃない!?」
そんなヒマの言葉で、夢の中で飛んでいた意識が戻ってきた
「たぶん、そうだと思う!私も!ここが一番の思い出だから!!」
お互いに走りながらの会話だったから、息も途切れ途切れで、言葉の一つ一つが強く、大きく出る
「ここが、あの時の公園と同じなら!“アレ”があるはずなんだけど!ここだとわからない!」
一つ、対抗出来そうな手段を考えついた
この公園が、あの時と同じならば、2人で使った道具があるはず…!
淡い期待を抱いて、砂場の方へ走る
「こっちに!あの時のスコップとかがあれば!あいつを倒せるかも!」
「一緒に!ウサギとか作った時に!使ったやつだね!」
ヒマの顔は見えない
けど、笑顔で決まり顔をしたのはわかった
ずっと一緒にいるから、当たり前にわかった
砂場へ向かって少し、見えてきた
道具も一緒にあった!
「ヒマ!あったよ!スコップと熊手!バケツもしっかり残ってる!」
「ほんとだね!じゃあ!さっそく討伐だ!」
ヒマ、絶対ゲーム感覚で笑ってるよ
そんな私も、久しぶりにヒマと共闘するからか、少しだけ口元が緩んだ

ヒマは熊手、私はスコップと、お互いに武器を持って臨戦態勢に入った
お互いに息が上がって、肩で呼吸をする
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…」
「あんたを!倒して!やるんだから!」
ヒマは今にも熊手を男の喉元に刺す勢いだった
ヒマも、私も、今ここでやられて死ぬわけにはいかない
絶対に失敗はできない

臨戦態勢に入ってしばらく経つ
けれど、男は一向にこちらに来ない
なんで?
「来ないの!?やられるのが怖いの!?」
ヒマの体力も、私の体力も回復した
後はあいつがこっちに来ればいいだけなんだけど、なんで来ないんだろう…
「そんなに来ないんなら、あたしの方から行ってやろうか!?」
「ヒマ、そんなに煽ったら危ないよ!」
「でも!あいつを倒さなきゃあたしらは生きられないんだよ!?あいつをこっちに来させなきゃ…」
今にも泣きそうな顔をしてこっちを見る
私だって、泣きたいよ…
「でも、それでどうなるかはわからないのよ?もしかしたら、あいつは瞬間移動出来るかもしれないし、ただこっちを見て楽しんでるのかもしれないし…」
あ、待って、これ、明晰夢だとさっき思ったんだ
じゃあ…
「う"…きょー、こ…」
ヒマに呼ばれて顔を上げる
目の前で、ヒマが腹部を切られていた
「きょ、きょー、k…」
ヒマの右頭部が削れた
ヒマの口が、動いてる
なに、を…?
に、げ、て…?
にげて、なんて…
こわくて、うごけないのに
むり、だよ…
わたしも、ヒマ、みたいに、ころされるの…?
ヒマの、くびが、めのまえからきえて、あし、もとに…
「……ぃ、いやあああああああああああ!!!!!!」
『生きろ、生きて話を広げろ、それがお前の役目だ』

起きたら、ヒマが死んでいた
私、私だけ、生き残った…
なんで、どうして?
夢の中と同じ、姿で
ヒマ、ヒマ…
私は怖くて泣いた
ヒマを失った喪失感で泣いた
ヒマの部屋の中で、ひたすらに泣いた
警察が来ても、留置所に入っても、ずっと泣いた
「ヒマ、ヒマ…。私を、置いていかないで…ヒマ…」
そのうち、泣き疲れて寝ては、あの時の夢を見る
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男に追いかけられて追いつかれそうになっては、男が私が遠くに行くのを待ち、また追いかけてくる
怖い、早く殺して
ヒマの所に、行かせて…
「お願い、もう、ころしてよ…」
夢の中で、また泣く
今度は、泣き崩れた
男が近くまで来る音がする
『お前は話を広げなければならない。まだ生きろ、生きろ、いきろ、イキロ』
何人もいるように聞こえてきて、夢の中で気を失えば、また現実に戻される
「ヒマ、ごめん…」
そうして、私は夢に耐えきれずに、男に殺される決意をした

「数日前遺体で発見された女子生徒の友人が留置所内で亡くなっていたと、今日警察関係者への取材で判明しました。今現在、何故何も無い留置所内で、身体の一部が無くなるような状態だったのか、調査中とのことです。この事件に関しては不明な点が多いことから、警察側は未解決にならないことを願うと、今朝会見を開きました。そして、留置所内で亡くなっていた彼女が常に言っていた言葉があったそうです。『話を聞かなければ、あいつを倒そうとしなければ、私があいつを強くしなければ…』そう、言っていたそうです。警察は、“あいつ”が誰かを特定する作業をしているそうですが、未だに判明していないと話しているそうです。では、次のニュースです…」

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