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山が見える窓

静岡県に来ている。夫の家は丘の上にある。
2階の窓から大室山が見える。
お椀を伏せたようなまるいフォルムに心が和み、ここに到着するとすぐに2階に行って窓を開ける。
「やあ、きたね」と言ってくれるようだ。

朝も午後も夕方も山を見ている。
とても気持ちの良い風が入ってくるので夏でもあまり冷房をつけない。

その大室山に今日はじめて登った。
朝「今日は行くよ~」と遠くの山に声をかけた。
車で15分も走れば麓に着く。そこからリフトで頂上へ。実はリフトは苦手。でもこれはベンチみたいで二人乗りなのでまぁ大丈夫だった。
(でも下りはけっこう怖かった、下を見ると怖いので遠くを見ながら話をして気を紛らわせた。)
頂上は遊歩道になっていてぐるりと一周しても20分くらい。風が強くて眺望は抜群。
夫は「うちはあのへんかなぁ」とわりあい真剣に赤い屋根を探していた。

夫がこちらに引っ越してきて4年。
いつも眺めるだけだった大室山。
行こうよと言いながらどうも先延ばしにしてきたその山に行くことができて嬉しかった。
親近感が増した。
大室山があって、駿河湾がある。
うちから散歩に出ると数分で海の見える場所に着く。必ずそこで立ち止まり遠くに光る海を眺める。

海と山が大好きだった兄も同じ時期に熱海や伊豆で別荘を探していた。
こちらのほうが先に決まり、兄は候補がありながら決まらず迷っていたようだ。この夫の高原の家にとても興味を示し「近々遊びに行く」と言い私たちも楽しみに待っていた。

でもそれも叶わないまま…兄は昨年、突然亡くなってしまった。兄を思うとまだ涙がでる。大室山が見えるこの部屋で久しぶりにたくさん話をしたかった。兄は夫が淹れる珈琲が好きだった。「会いたいよ」と今でも時々思っている。

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