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ポンズは、お酒だった!?

 私たちの食卓に欠かせない調味料のひとつ、ぽん酢。湯豆腐や揚げ物、サラダなど、素材の味を引き立てる名脇役です。柑橘系の果汁と酢、醤油を合わせたぽん酢は、以前は、ダイダイのしぼり汁のことを言っていたそうですが、今では、ユズやカボス、スダチなど他の柑橘類のしぼり汁の総称としても使われているようです。
 柑橘の豊かな香りとやさしい酸味。ぽん酢は、まさに日本人好みの調味酢です。しかしその名称のルーツは、何とオランダ語。江戸時代、出島のオランダ商館の食卓に出ていたもので、もともとはアルコール飲料のことだそうです。
 長崎歴史文化協会の越中哲也先生によると、「ぽん酢の語源はアルコール度の強いお酒(スピリッツ)に果実酢、砂糖、スパイスなどを加えた飲み物で、英語でPUNCH(パンチ。仏語ではパンシュと読む)、オランダ語ではPONS(ポンズ)と呼ばれていました。それが転訛して、現在のぽん酢になったようです。長崎郷土史の大家でいらした古賀十二郎先生はぽん酢について、『オランダ人が長崎の人達に教えたもので、長崎の人はポンズを橙果汁(ダイダイカジュウ)と訳している』と記していらっしゃ
います」。

2の5ダイダイ

ポン酢に使われるダイダイ

 当時の日本では、なぜかアルコール飲料としては馴染まず、柑橘系の果汁だけを「ポンズ」と呼ぶようになり、現在の「ぽん酢」に至ったようです。そのなごりとして、今も長崎の郷土料理を代表する卓袱料理のテーブルの上には、醤油と並んで必ずぽん酢(単に、酢醤油と呼ぶ人も多い)が置いてあり、揚げ物や湯引きなどにつけて食べます。

4の5卓袱のポン酢

卓袱料理の卓に出るポン酢

 さらに、越中先生は、当時のオランダ人は夏の暑さを防ぐためにPONSを飲んでいたようだといいます。「江戸時代の蘭学者、森島中良(1754~1810)が著した『中陵漫録』に、そういう記述あります」。そこには、『哈刺基(アラキ)という酒二合に橙の酢を入れて白糖を加え、煎る事一たぎり、是に水を少し和して飲む。甚だ冷やしてよろし』と、具体的な材料と作り方まで記されていました。
 「哈刺基酒とは、主に東南アジア方面で作られるアルコール度数の非常に強いお酒で、椰子、糖蜜、米などを加えて発酵させたものです。オランダ人より早く南蛮貿易時代にポルトガル人によって長崎に持ち込まれたものです。ポルトガル語でaracaと言っていました。(オランダ語ではarak)」。
 ところで、少し前までの長崎には「梅ポンス」という飲み物があったと越中先生は言います。これは、現在、私たちが「梅酒」とか「梅焼酎」と呼ぶお酒のことのようです。「梅焼酎を冷たい井戸の水で割り、さらに砂糖を加えたのが、梅ポンスです。
 夏場の飲みものとして親しまれていたんですよ」と越中先生。いつの間にか、井戸はなくなり、毎年、梅酒を作る家庭も減ってきて、手作りの梅ポンスは、昔懐かしい飲み物になってしまったようです。

※この記事は2007年3月28日にみろくやWEBサイトに掲載したコラムから転載しています。

※みろくやは先日99歳でお亡くなりになられた越中哲也先生と長崎食文化講座を主催するなど、とても懇意にしていただいておりました。このnoteでは数回に渡って、越中先生との思い出を振り返りたいと思います。


株式会社みろく屋
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株式会社みろく屋ウェブサイト https://www.mirokuya.co.jp



 

◎取材協力/長崎歴史文化協会


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