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【米粉とわたし】たこ焼き編

米粉のおいしさに気づいたのはたこ焼きでした。

両親とも関西出身の我が家。母は土曜も仕事があったので、同居の祖母が亡くなってから父の単身赴任が始まるまでの数年間、土曜は父が食事担当でした。

午前授業で終わった学校から帰ると’夕飯はたこ焼きにするよー’と言う父。昼過ぎくらいから仕込みを始めます。明るさの残る夕方くらいから焼き始めゆっくり長く食べるため、まずはボウルにたっぷり張った水に昆布を放り込んで水出し昆布出汁を作るところから開始です。

山芋をすりおろし、卵を割りほぐし、作っておいた水出しの昆布水を注ぐ。そこへ小麦粉を入れて溶かしていきます。タコは小さめにカット。たこ焼きをたくさん食べたいから一つのポーションは小さめ、少なめで焼きます。もちろん夕飯はたこ焼き一択。

夕方になると食卓にたこ焼き器を出して夕飯開始。煙が出るほど熱した鉄板に割り箸に布切れを巻きつけた手作りの油敷きでたっぷりの油を塗ったら生地を8分目まで注ぐ。続いて鰹節やタコ、ネギを素早く投入していくのは妹と私の仕事です。早く食べたいならぼんやり待ってないで、生地を入れるそばから手の間を縫って具を加える。表面が焼けるとくるくると器用にひっくり返しまんまるの美しいたこ焼きを焼く父の手を今でも覚えています。このたこ焼き連携プレーがチームワークの大事さを教えていたのかも、と大袈裟ですが考えます。長い時間かけてゆっくりの夕飯は明日はお休み、という開放感とあわさった記憶になっていて、私の中ではたこ焼き=Happyの図式が定着しています。

大人になって随分経ったある日。このたこ焼きに使う大量の小麦粉を米粉に替えてみては、と思いついたのが私が米粉に目覚めたきっかけです。

大当たりでした!

米粉のたこ焼きは表面がこの上なくカリッとしていてひと口かじると中身はとろーり、そして一番の特徴は後味。全くしつこくなくてすっきりとした味わいになりました。米粉の魅力が最大限にいかされていたのです。

たこ焼き器に塗る油ももちろん米油に。

熱々の鉄板に米油をたっぷりと塗って、米粉で作った生地をジューっと音を立てながら注いでいく。おなじみの作り方で粉以外は何一つ変えていない。

けれど、焼き上がりが全然違いました!

普段もたこ焼きはいくらでも食べられそうですが、こちらはもっといけそうになるのが困ったところです。明石焼きのように、薄味に仕立てた出汁と食べてもそれはそれはおいしい。


この米粉たこ焼きの難点がおいしくて食べ過ぎる以外にも一つあるとしたら。

たくさん作り過ぎて余ったたこ焼きが硬くなってしまうこと。

通常のたこ焼きは生地が余ったら全部焼いちゃって、翌日のおやつにして楽しんだりしていましたが、米粉のたこ焼きはそれがちょっと難しい。固くなってしまうので温め直してもふんわり感が少し欠けてしまいます。

その時食べる量だけを焼く方法が米粉たこ焼きには大事なのかもしれません。

関西人のソウルフードのたこ焼きも、思い込みで作り続けていた伝統の小麦粉を米粉に替えてみたら別のおいしさを発見できました。もちろん小麦粉で作るたこ焼きのあの、何とも言えない香りは格別なものがあります。

しかしこの発見は普段替えることなど思いつかない主要部分も、思い切って入れ替えてみたら吉と出ることもあると気付かされた味でした。定番だけでなく別のバージョンができたら、もっと多様な楽しみが広がります。
自分自身で思い込んだ常識を作りそこからはみ出ないように暮らしがちな性格とは無関係に、食材はいとも簡単に壁を乗り越える。料理の新しい発見が、
’こうしなくちゃ。まっとうな道はこっちなんだから。’
と世界を窮屈に考えてしまう自分を
’ほらね。やってみたら大丈夫なんだよね。’
と新しい世界を見せてくれる。そしてトライしてみた自分をほんの少し
’やったじゃん。いいじゃん’
て見つめられる。
こうやって料理は味とか栄養だけでなく、場面やアプローチを変えて私の心やカラダを救ってくれたことが数え切れないほどある。

父が生きていたらなんて言うかな。
’やっぱりたこ焼きは小麦粉やろ’って言うかな。
’米粉でするとおいしいねんで’って食べさせたかったな。
新しいモノ好きだったから
’へー。これいいなあ’って食べてくれたかもしれないな。

昼から仕込みをして夕方明るいうちからたこ焼きを大量に焼きながらビールを飲んで、子どもたちと話しながら食べていた父が残した土曜日のハッピーな記憶が、今も私が土曜日に一番機嫌を良くする理由かもな、と思います。そして今度は私の作る米粉のたこ焼きが、その素直ですっきりとした味わいが、誰かがいつか思い出すの幸せの記憶とちょっとだけでも重なっていたらいいなと願います。

#思い込みが変わったこと
#米粉と私
#あたらしい世界に


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