【漫画原作】身代わり花嫁は神サマに溺愛される 2話

垣田家主人・使用人「うわぁぁぁ!」
 身代わりを言及され垣田家主人が大声を上げて逃げていく。随行した使用人たちもそれに倣った。
 菜花は一人取り残される。
 菜花は目を見張る。
 目の前の男の影は、明らかに人間ではない。細長く、先が丸くなっていて、蛇のように思えた。
正体不明の声「逃げたか。まあいい。まずはおまえから食ってやる」
 菜花を見据え、にたにた笑う男。
菜花「いや……」
 逃げ出したいが恐怖で体がすくみ立ち上がることさえできない。
正体不明の声「恐怖に染まるおなごの顔は見飽きることがないのう。何度見てもよいものじゃ」
 男が菜花に向かい蛇のように細長い舌を伸ばす。
 気持ちが悪い。怖い。
 恐怖にカタカタ震える菜花。
 その時、二人の間に一陣の風が割って入る。
 男の舌が切り取られ、先端が地面にぽとりと落ちる。
正体不明の声「ぎゃっ!!」
菜花(え……?)
 突然の出来事に目を見張る菜花。
 気がつくと、どこからともなく現れた青年に抱き上げられていた。
 二十代前半から半ばくらいの黒い髪の美しい青年。彼は軽々と菜花を横抱きにして、宙に浮いている。
正体不明の声「おまえ、何者だ!」
青年「貴様に名乗る必要はない」
正体不明の声「なんだと!?」
 男が喚き散らす。
 青年は宙に浮いたまま酷薄に男を見下ろす。
 やおら片手を前に掲げる。
青年「少し留守にしていた間に、おまえのような小悪党がのさばっていたようだな」
正体不明の声「ま、まさか……」
 男は何かに思い至ったのか、目を見開きがくがくと震え始める。
青年「一体何人娘を食ったのか。地獄の底に落ちろ」
 青年はそんな彼に取り合わずに大きな風を生み出した。
 風は刃となり、逃げようとする男を背後から切りかかる。
正体不明の声「ぎゃぁぁぁっ!」
 男の断末魔が響く。切られたため、菜花は思わず目をつむる。
 男が霧散する。
 風が止み、周囲に静寂が戻る。霧が晴れていく。
 青年、トンっと地面に降り立つ。
青年「もう大丈夫だ。あのあやかしは退治した」
菜花「ありがとう……ございます」
 青年が菜花を地面に立たせようとする。
菜花「あ……」
 くずれかける菜花。
 それを咄嗟に支える青年。思わず彼に抱き着く格好になり、菜花が顔を赤らめる。
青年「大丈夫か?」
菜花「す、すみません。どうやら……腰が抜けてしまったようで」
青年「いや。怖い思いをしたのだろう。動けなくなっても仕方がない」
 青年が菜花を抱き上げる。
 菜花は顔を真っ赤にしながら、改めて青年を見上げる。
 美しい顔に、余計に真っ赤になってうつむく。
青年「どうした?」
菜花「い、いいえ。何でもないです」

 大きな日本家屋の前。
 抱き上げられたまま空を飛びこの屋敷までやって来た菜花。
菜花(この御方も人間ではない……? でも不思議。ちっとも怖くない)
 パッと玄関が開く。
女中「おかえりなさいませ」
 深々と頭を下げる女中。
 この屋敷の主が、自分を抱きかかえる青年であることを理解する菜花。
女中「この御方は……?」
青年「私が退治しに行った先で食われそうになっていたから助けた。腰が抜けて動けないそうだ」
 かあっと顔を赤らめる菜花。
青年「彼女のために部屋を用意してやってくれ」
女中「かしこまりまりました」

 案内された座敷。
 浴衣に着替えた菜花、一人ぽつーんと座っている。
菜花(あれからお風呂までいただいて、着替えまで……)
 菜花の回想、数コマ。
女中「お風呂のご用意が整いました」
 お風呂に入っている。
女中「湯加減はいかがでしょうか?」
菜花(ひぃぃぃ!)
 好待遇にドキドキ。未だかつてこんなにも親切に接遇を受けたことがない!
女中「お召し替えを用意しておきますね」
 着心地の良い真新しい浴衣に、またしてもドキドキ。これ、わたしが着てしまっていいの?
 そして今に至る。
菜花「どうしよう……。連れて来られるままに来てしまったけれど。どう見てもお金持ちの旦那様……だよね?」
 未だに身の置き所がなく、緊張してしまう。
 どうしたいいのだろう。
 などと考えていたらお腹が「ぐぅぅぅ」と鳴る。
 タイミングを見計らったかのように襖が開く。
菜花「!!!」
 ビクッとする。
 そしてお腹鳴ったのが聞こえたかもしれないと顔を真っ赤に染める。
女中「お食事の用意が整いました」
 座敷から見える外は、いつの間にか夕暮れ時。
 お膳には豪勢な食事。
 御出汁のきいたみそ汁の香りにさらにぐぅぅっとお腹が鳴る。
 やっぱり恥ずかしい。
女中「遠慮せずにお召し上がりください」
菜花「あ……ありがとうございます」
 菜花、箸を取る。
 食事シーン。美味しい。
 ぺろりと平らげる。

 食後、人心地がついたところで青年が姿を見せる。
 菜花、慌てて頭を下げる。
菜花「過分にご配慮くださりありがとうございます」
青年「構わない。怖い思いをしたのだろう」
菜花「あの……」
青年「どうした?」
 菜花、少し逡巡したのち、口を開く。
菜花「先ほどの……昼間の男は……人ではなかったのですか?」
青年「あれは蛇のあやかしだ。あの近くの水辺を寝ぐらにしていて、女子供を食べていた」
 淡々とした青年の説明に、菜花ぞくりと顔を青くさせる。
青年「私が少し留守にしていた間にこの近辺に住み着いたようだ」
 青年が眉間に皺を寄せた。
青年「そのような顔をしなくても、あれは私が退治した。もう大丈夫だ」
 部屋が静まり返る。
少女「お館様。羊羹を持ってきました!」
 突如高い声が響き渡る。
 現れたのは十歳前後の童女。おかっぱの着物姿の少女。
女中「こら、紅(こう)。話の腰を折ってはいけません」
少女「申し訳ございません。ですが、お館様が花嫁様をお連れになったことがとっても、とーっても嬉しくって!」
 菜花と青年「!?」
 二人共同時に、予想もしない台詞を言われて、ぴしりと固まる。


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