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スタートアップにこそ参謀が必要 〜起業家の孤独を和らげ「心の拠り所」となれる存在に〜

MIRARGOは次世代インフラとなるべく活動するスタートアップのパートナーとして、スタートアップの勝ち筋を共に描き推進する経営プロ集団です。本記事では、スタートアップの事業成長に必要な各プロセスに対し戦略的に働きかけ、起業家が目指す志の実現に向け二人三脚で伴走するMIRARGOのディレクターをご紹介します。

ーー木村さんの現在のお仕事について教えてください。

現在は、各インダストリーに眠っている情報を掘り起こし独自技術で強力にチューニングされたAIやConfidential Computing※でそれらを集合知に転換させることで企業活動に新しい価値の源泉を提供するディープテックスタートアップに参画し、プロダクトドメインごとのフィットジャーニーの設計や事業開発・事業計画策定などを支援しています。当企業が戦略としてコンパウンドスタートアップを志向されていることもあり、ドメイン間連携や基盤などの最適解を定義していく動きが多いです。

ーー木村さんはこれまでに2社で代表を経験されてきたと伺っています。経営者から経営支援側に転身されたのはなぜでしょうか?

経営は本当に複雑で難しく「経営とは何か」をよく問われるのですが、そこに「こうだ」という答えはないというのがこれまでの実感です。結局は会社が前に進むために必要なこと全てに責任を持つのが経営であり、それに対して引き出しというかプロ経営者として高名な三枝匡さんが語られている「いつか見た景色」を増やしていくしかないんだろうと思います。経営者とか経営支援みたいなものの定義の違いも意識していませんが、私個人としてはその引き出しをいかに増やすのかという問いに対する答えの環境を探していたこと、またこの引き出しは一人で増やし続けるのは難しく、チームメイトや共に汗をかくスタートアップとの助け助けられの中から「出来ていく」ものであると考え今現在はこの立場にいます。

ーーそのような考えに至ったのはなぜですか?

自分自身の経営体験からです。私の経営キャリアのスタートは当時東証一部上場エレクトロニクスメーカーのベトナム現地法人の代表で、32歳の時でした。自分自身に何もかも足りない状態の中でとにかくやれる事から手をつけるしかなく、また当時の会社の状況やストラクチャー的な事情もあってその中で本当の意味で相談できる相手がいなかったことが非常に辛かった記憶があります。孤独こそが経営者を強くするという考えもあるとは思いますが、それは少なくとも私にとっては嘘でしたね(笑)。そこそこの事業成長までは達成できましたが、同時に体重が10KGも減りました。10KGも体重が減るほどに追い込まれていては、これがベストな結果だったとはとても言えないなと思います。
その後のスタートアップの経営も同様で、様々な経緯やこちらもストラクチャーの理由等があり、孤独でした。本当に相談したいことが本当の意味では誰にも相談が出来ない。孤独状態は自分自身の器の範囲では一定の背伸びは出来ても、前述の「会社を前に進めるために全てに責任を持つ」経営で求められるレベルでのレバレッジは利かず、成果の最大化には至らないと強く実感しました。

ーー当時の体験が今の経営支援に活かされていると感じる事はありますか?

経営者の立場を理解してあげられる点ですね。トップは多様なステークホルダーのど真ん中にいます。それぞれのステークホルダーには様々な意図があり、それらに対してマネジメントをしていかなければなりません。例えば投資家・株主は当たり前ですが、出資に当たっての意図がありその全てが一致しているわけではありません。またMVVをどれだけ上段に掲げても、それだけでは従業員の全員と同じ方向を見ることも難しい。
昨年のスターバックスジャパン元CEO岩田松雄さんとの対談でも出た話ですが、背後から刺されることもあります。株主や従業員以外にもステークホルダーは多様ですが、意識的にせよ無意識にせよ経営者はそのような意図や政治の渦中において、本道である事業成長を追求することが求められるゲームの主人公のようなものであるということです。そしてゲームではなく現実であり生身ですので痛みますし、人間ですから痛みで潰れてしまうこともあります。この痛みは、どれだけ本で読んだ知識やトップ以外の経験で語られても、なかなか受け入れづらいというのもあると思います。本当の痛みを自分自身が味わっていればこそどこがどう痛いのか、なぜ痛いのかが「分かり合える」と思いますし、実感を持って支援ができると思います。経営には答えがない以上、その点が今の経営支援に活きていると思います。

ーースタートアップ企業で経営支援される中で感じている課題はありますか?

BizDev・プロダクトマネジメント・実開発などジョブごとにそれぞれ課題はありますが、共通して参謀機能が確保されているかどうかがスタートアップの成否に大きく影響があると感じています。参謀と言うと大企業の経営企画的なイメージがあると思いますが、戦国史を見ていても、成功した将軍や大王は早い段階で優れた参謀を見つけています。スタートアップはリソースがないのでこれは贅沢な投資に聞こえてしまうかもしれません。ですが、起業する人は起業以前に経営経験があるとは限りません。2度目以降ならまだしも、大抵は前述のような状況にいきなり初めて飛び込むわけです。だからこそ、特定ジョブから独立した参謀機能を持つことが重要ではないかと感じています。
またスタートアップの文脈で起業をする場合、その目的は企業運営的な経営自体が目的と言うよりも、志した事業の実現であると思います。そう考えると一人で立ち向かい消耗するのではなく、意図や政治の渦中で一緒に痛みを乗り越え、それを戦略として組織に落とし込みサイクルを回し続けながらも俯瞰的な視点を維持し、柔軟で、どのタイミング・条件でスケーリングをするべきか冷静に見極め、起業家がブレそうになったり道を外れそうになったら躊躇わず本当の逆命利君を発揮する人、このような機能を担う人がいればスタートアップという起伏の激しい山を脇目もふらずに登ることができると思うのです。これは私自身の体験でも喉から手が出るほど欲しかった機能ですし、今の立場からスタートアップを見ていてそれをより強く感じています。

ーー支援する中で意識されている事や心がけている事はありますか?

課題が多岐に渡る中で何から解決するかはその起業家のウィルを尊重した上で実行するように心掛けています。もちろん結果を出すことが大事なのですが「経営とはこうだ」を持ちすぎていると押し付けてしまうこともあるので、その起業家が何を大事にしているか、逆に言えば何を恐れているかを理解していくことが重要だと思っています。前述の通りスタートアップというものはものすごく傾斜角度がきつく且つ起伏の激しい山を登っている様なもの。何をきっかけにハレーションが起きて崩れてしまうかわからない中で彼らの想いを無視するようなことはしない、それが支援者として私が大切にしており心がけていることです。

ーー今後はどのような事に挑戦してみたいと思いますか?

今の延長線上にはなりますが、スタートアップの参謀機能の事業化に取り組んでいきたいです。起業家の経営にのしかかる責任やストレスは大きいですが、それらをサポートできる仕組みというものが社会には少ないと感じています。起業、特にスタートアップ的な起業がいつまでたっても一部のスーパーマンのみの世界にならないよう、かつて自分が欲しかった「心の拠り所」を提供し、本気でチャレンジしている人の心が潰れることのない世界を作りたいというのが、今私がMIRARGOで経営支援に向かっている強い動機であり、今後も挑戦していきたいことです。

※ Confidential Computing:使用中のデータの保護に重点を置いた、セキュリティとプライバシーを強化する計算技術のこと

Director 木村 和弘
日系商業銀行での法人営業を経て事業会社に転身、欧州系エンジニアリングカンパニーや日系機械メーカー・サービスチェーン等に従事。 東証一部上場エレクトロニクスメーカーベトナム現地法人社長・SaaSベンチャー企業代表取締役社長等を歴任。ベトナムではコンプライアンス・不良資産問題解決から事業管理体制・オペレーション改革による収益成長、SaaSベンチャーでは収益構造転換による5年ぶり半期黒字化達成等、統合マネジメントによるターンアラウンドからのグロース転換が得意領域。スタートアップと大企業の共創促進、経営パワーの持続的成長モデリングによる新しい産業と価値の創造、日本社会における企業環境の革新を志し、MIRARGOに参画。
米コロラド大 Lockheed Martin Engineering Management Program 修了(工学修士)

▼スターバックスジャパン元CEO岩田松雄さんとの対談記事


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