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80億円の予算を計上した「建築BIM加速化事業」とは。2024年度(令和6年度)の想定スケジュールも紹介

建築BIMの社会実装の加速化するため、2023年度(令和5年度)に80億円の予算を計上した国土交通省(以下、国交省)の支援事業が、「建築BIM加速化事業」です。支援を受けるハードルの低さから中小事業者でも利用しやすく、建築BIMの普及という大きな目標に見合う事業でした。

この記事では、2023年度に実施された建築BIM加速化事業について解説します。国交省が予定している同事業の2024年度(令和6年度)のスケジュールも紹介するので、これからBIMを導入しようとしている方はぜひご覧になってみてください。


建築BIM加速加速化事業とは

それではさっそく建築BIM加速化事業について解説します。

80億円の予算を計上した一大事業

建築BIM加速化事業は、80億円の予算で実施された国交省の一大事業です。

BIMという言葉が建設業界で一般的になりつつある一方で、BIMが普及しているとは言い切れないのが実状でした。特に、中小事業者にとってはイニシャル・ランニングコスト、BIMを活用するためのシステム・制度の整備といった課題が多かったことでしょう。

そのような状況の中、建築BIM加速化事業はコスト面からBIMの導入を支援しています。中小事業者を主な対象としており(規模に関わらず申請可)、社会全体のボトムアップを図る事業です。

BIMを使う企業が増えれば増えるほど知見や要望が増え、ソフトウェアの開発や新たな利用法の考案が促進されます。日本の建設業界は、いよいよ建設DXに向かって動き始めたといえるでしょう。

新3Kの一角「希望」の実現に繋がる事業

過酷な労働環境を示す言葉として建設業界に定着していたのが「3K(きつい・汚い・危険)」という言葉です。このような状況に一石を投じ、国交省が掲げているのが「新3K(給与・休暇・希望)」です。

技能者のスキルに見合った給与や休暇を取れる環境の実現を目指すほか、誇り・魅力・やりがいを感じられる仕事を意味する「希望」がキーワードに挙げられています。そのために国交省が推進しているのが、「i-Construction」です。

i-Constructionは、建設現場の生産性を向上するためにBIMやCIM、ICTを取り入れ、デジタル化を図ることを指します。建築BIM加速化事業は、i-Constructionを推進し、さらには新3Kの一角「希望」を実現する事業です。

BIMを導入してデジタル化を進めることが建設業界全体の良好な労働環境の構築に繋がることを各企業が認識し、積極的に取り組むことで明るい未来を切り開けるでしょう。

建築BIM加速化事業のメリットはハードルの低さ

建築BIM加速化事業のメリットは、支援を受けるハードルが低いことです。

完了実績報告に詳細な内容の記載は不要で、「設計BIMモデル又は施工BIMモデルのスクリーンショットを様式に貼付」(引用:国土交通省「建築BIM加速化事業について」)とされています。

国交省のBIMの支援事業はほかにも「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」があります。こちらは事業におけるBIM導入の方針や目的、検証、結果などの報告が求められ、簡単に利用できる支援事業ではありませんでした。BIMの有効性の検証が主目的として据えられていたことがその一因です。

一方、建築BIM加速化事業はBIMの普及を主目的であるため、支援のハードルが低く設定されています。

建築BIM加速化事業の対象業務及び対象ソフトウェア

建築BIM加速化事業の対象業務は以下のとおりです。元請事業者、プロジェクトに参加する専門設計事務所及び専門工事業者が支援を受けられます。

  • BIMライセンス費用など(ソフトウェアなど)

  • BIMコーディネーター費用など(BIM講習などを含む)

  • BIMモデラ―費用

また、対象となるソフトウェアは、「建築BIM加速化事業実施支援室」のホームページにエクセルで公表されています。随時更新されているのでチェックしてみてください。

使いたいソフトウェアがリストにない場合は支援室の審査を受けることができます。認められれば支援を受けられるため、積極的に申請してみましょう。

下記に現在認められている主要ソフトウェアを紹介します。

  • Revit(Autodesk)

  • Archicad(グラフィソフトジャパン株式会社)

  • Navisworks Manage(Autodesk)

  • Solibri Model Checker(Solibri Inc)

  • SSC-梁貫通孔設置範囲 for Revit/Archicad(株式会社ソフトウェアセンター)

  • Super Build/SS7

  • Rebro(NYKシステムズ)

  • T-Fas(ダイテック)

  • Tekla Structures(株式会社トリンブル・ソリューションズ)

  • Real 4(データロジック)

  • FAST Hybrid(株式会社ファーストクルー)

  • すけるTON(カルテック)

  • BOX(株式会社Box Japan)

プロジェクト要件及び延べ面積別の補助上限

建築BIM加速化事業で支援を受けるには、「延べ面積1,000m2以上」などのプロジェクト要件があります。また、延べ面積別の補助上限額が設定されているので、留意しておきましょう。

建築BIM加速化事業の上限額
延べ面積別の補助上限額
(引用)国土交通省「建築BIM加速化事業について

BIMの体制イメージ

下記に示すのが、設計時のBIM体制イメージです。

設計時のBIM体制イメージ
設計時のBIM体制イメージ
(引用)国土交通省「建築BIM加速化事業について

「意匠設計事務所等」が「BIMマネジャー」を配置し、構造・設備の設計事務所とBIMの運用をしながら設計を進めます。BIMマネジャーは、プロジェクトのなかでBIMの運用を管理する中心的な存在です。重ね合わせによる干渉チェックなどは、BIMマネジャーを中心に行われることになります。

設計BIMモデルはCDE(共通データ環境)に一元化され、このモデルが施工BIMモデルに引き継がれることになります。CDEには、設計・構造・設備に関する図面をはじめとしたすべての情報が盛り込まれるのが理想です。

施工時のBIM体制イメージ

次に、施工時のBIM体制イメージを示します。

施工時のBIM体制イメージ
施工時のBIM体制イメージ
(引用)国土交通省「建築BIM加速化事業について

元請事業者がBIMマネジャーを配置し、各種専門工事事業者と協業していく形です。施工時には詳細なモデルや図面が必要になるため、BIMモデラ―がBIMマネジャーにもとに配置されています。

施工BIMモデルは設計段階から引き継いだモデルをベースに整えられると大きな工数削減に繋がるでしょう。しかし、設計と施工で必要なモデルに乖離があり、そのまま施工に引き継げるほど設計段階で作りこめていないプロジェクトが多いのが実情です。

設計完了から施工開始までにモデルを整える時間を取り、その間に施工計画を進めるなどの工夫が求められます。

2024年度(令和6年度)の予定について

令和5年12月6日に開催された「第16回建築BIM環境整備部会」において、2024年度の建築BIM加速化事業が議題に挙げられています。そこで示されたのが、下記の想定スケジュールです。

2024年度(令和6年度)の建築BIM加速化事業の想定スケジュール
2024年度(令和6年度)の建築BIM加速化事業の想定スケジュール
(引用)国土交通省「第16回建築BIM環境整備部会,資料5-2

「令和6年度住宅局関係予算概要要求概要(国土交通省)」では、令和6年度も建築BIM加速化事業で80億円の予算が要求されています。そのため、令和5年度と同様・同規模の事業が行われるかもしれません。

年内にも事業者向け説明会が想定されているので、詳しい情報はそこでの説明を待ちましょう。

国交省が目指している建設DX

ここでは、国交省が目指している建設DXについて解説します。国交省は大規模な支援事業を行ってどのような建設業界を目指しているのでしょうか。建設業界全体で同じ方向に進むためにも、ご覧になってみてください。

建設業界が抱える課題

国交省が建設業界の課題としているのは、建設技能労働者の高齢化、生産性の低さ、長時間労働などです。前述した新3Kは、魅力ある建設業界の実現により若い建設技能労働者を増やし、高齢化に歯止めをかけるアプローチといえます。

建築BIMの普及で解決したい課題は、生産性の低さと長時間労働です。設計情報と連携した施工図・製作図の作成や、デジタルファブリケーション、デジタルツイン、データの一元化などにより、生産性と質の向上が期待されています。

さらに、竣工後の建築物のデジタルデータを使った運用の効率化や他業種連携による新たなビジネスの創出が促進されるとしています。建築BIMの検証においては「維持管理BIM」の高度化・迅速化も大きなコンテンツになっており、設計・施工に留まらないBIMの活用が建設業界における重要課題です。

国交省は建設業界の99.9%を従業員数が300人未満の中小企業がを占めていることを指摘しており、建築BIM加速化事業をとおして中小事業を支援することで建設業界全体の課題を解決しようという意図が読み取れます。

建築・都市のDX

最終的に国交省が目指しているのは、建築・都市のDXです。建設業界の大部分を占める中小事業者の建築BIM活用、3D都市モデル(PLATEAU)の整備・活用、情報連携のキーとなる不動産ID(各不動産の共通コード)の導入などを例に挙げ、建設DXが試みられています。

設計、施工、運用・維持管理段階でデジタル化を進め、魅力ある建設業界を実現することが官民共通の目標です。そのためには、国の事業を利用しながら民間企業が積極的に新技術を導入し、オープンイノベーションを活発化する必要があります。

明るい未来を創造するため、官民が一体となって進んでいく姿勢が大切です。

おわりに

建築BIM加速事業は、建設業界における新3Kの実現に近づくための事業です。この事業を積極的に活用し、建設業界全体でデジタル化を推進することが明るい未来に繋がります。2024年度(令和6年度)にも同事業が計画されており、2023年内にも事業者向けの説明会が想定されています。これを機に建設プロセスのデジタル化を図ってみてはいかがでしょうか。

参考
・国土交通省「建築BIM加速化事業について
・国土交通省「新3Kを実現するための直轄工事における取組
・国土交通省「建築BIMの意義と取組状況について
・国土交通省住宅局「令和6年度住宅局関係予算概要要求概要

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