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建設ディレクターでノンコア業務から解放される?期待される効果やBPOとの違いを一級建築士が考察してみた


建設ディレクターがいれば施工管理者はノンコア業務から解放される?

建設ディレクターがノンコア業務から解放されて喜んでいる画像
建設ディレクターが施工管理者をノンコア業務から解放する

2024年から建設業界にも適用される時間外労働の上限規制を背景に、施工管理者の過度な労働量が問題になっています。なかでも少なくない割合を占めているのが、施工管理とは直接関係のない書類作成などのノンコア業務です。そこで、「建設ディレクター」や「BPO」といったノンコア業務の切り分けを推進するキーワードが注目を集めています。

筆者は、大手ゼネコンに11年間勤務した経験があり、超高層集合住宅の現場で1年半ほど施工管理を行っていました。そのなかで、ノンコア業務がいかに施工管理者の負担になっているかを身をもって知っています。

この記事では、実務で施工管理を経験したことのある一級建築士の視点で建設ディレクターとBPOの違いを解説し、建設ディレクターの採用によって変わる施工管理者の働き方を考察します。みなさんの現場の施工管理者をノンコア業務から切り分けるのに適しているのは、建設ディレクターとBPOのどちらでしょうか。

建設ディレクターができること

建設ディレクターがモデリングや測量を行っている画像
ノンコア業務だけでなく3次元モデリングや測量も
  • 事務書類や帳票の処理

  • 工事書類の作成

  • 3次元モデルの作成

  • 計測機器を使った測量

事務書類や帳票の処理

建設ディレクターは、請求書などの事務書類や帳票の処理を行うことができます。下請業者が多い現場では、請求書や安全書類を処理するだけでも膨大な作業量になるので、これらの作業を切り分けることで施工管理者の負担を軽減することが可能です。

時間がないなかで膨大な事務書類を処理すると、ミスをしてしまいがち。事務書類を切り分けることで、「膨大な仕事量→ミス→膨大な修正作業」の悪循環を断つことができます。

工事書類の作成

建設ディレクターは、事務書類だけでなく、工事書類の作成も可能です。積算、見積もり、入札、着工、施工、竣工など、建設プロセスの各フェーズで必要な工事書類を任せられます。

KY記録・作業日報・機械点検表などの作成や、工事写真・検査結果の管理など、毎日必要な業務を任せられるようになれば、施工管理者は本来の技術的な業務に集中できるようになります。生産性が向上するだけでなく、工事の品質や安全といった観点でもよい結果を得られるでしょう。

近年は、時間外労働の上限規制により若手技術者の自己研鑽の時間が制限されてしまっているのが現状です。建設ディレクターの支援により若手技術者が技術の習得に取り組みやすくなるといった効果も期待できるため、長期的な運用でさらに大きな効果を期待できるかもしれません。

建設ディレクター協会の講習と修了テストを受け、資格を授与されることで建設ディレクターを名乗れるようになります。工事書類や施工管理、入札、積算などの基礎知識が担保されているので、安心して工事書類などを任せることができます。

3次元モデルの作成

建設ディレクターは、それまでの経験や背景によって持っているスキルが異なります。なかには、建築学科を卒業し、建築の3次元モデルの扱いに長けている建設ディレクターもいます。そのような建設ディレクターであれば、3次元CADやBIMソフトによる3次元モデルの作成や、3Dスキャナーを活用した3次元地形データの作成などを任せられるでしょう。

建設DXに取り組むに当たり、3次元モデルを扱える人材の確保に苦労している企業は珍しくありません。建築学科を卒業して建設会社で総務などを担当したのちに建設ディレクターに職務転換し、建築学科で学んだ知識を活かして3次元モデルに挑戦しているケースもあります。建設ディレクターを育成しながらBIMモデラ―の増員に取り組むのもひとつの方法といえるでしょう。

BIMモデラ―の増員はどの企業にとっても急務です。熟練のCADオペレーターや新しい若手人材がBIMモデラ―になっていますが、多くの人が同じスタートラインに立っています。これを機に、社内でくすぶっている技術職転向に意欲的な人材を3次元モデル対応の建設ディレクターに職務転換させるのは、とてもよい発想だと思います。

測量機を使った測量

多くの建設ディレクターが、測量機をつかった測量を行うことができます。施工管理者が一番最初に学ぶ技術ではあるものの、多忙な業務が続くなか、自ら測量を行いながら施工管理を進めるのは難しいものです。測量の専門工事業者に依頼できない状況で困ってしまうシーンに直面した経験は誰でもあるのではないでしょうか。

測量ができる建設ディレクターが事務所にいれば、専門工事業者を呼ばずとも施工の精度確認や、後工程の段取りを行うことができます。手軽に測量を依頼できる存在が身近にいることは、施工管理者にとって心強いことでしょう。

また、建設ディレクターのなかには、ドローンで写真測量したデータを3次元化する技術を有している方もおり、現場の地形形状の確認や3次元測量による出来高管理などの活用方法が考えられます。ICT建機による自動施工を導入できれば、さらに効果的な活用が可能です。

現在は、現場の空撮や高所の状況確認、タイルの浮きやひび割れの確認など、さまざまなシーンでドローンが活躍しています。高所作業が減り、足場の組み立てなどが不要になるので、安全・工期・コスト面で大きな効果を得られるでしょう。

測量は品質の高い施工の基本です。建設ディレクターがタイムリーに測量を実施し、施工管理者が誤差をしっかりと把握できれば、修正を施しながら許容誤差内の施工を続けることができるでしょう。

建設ディレクターで期待される効果とは?

建設ディレクターが施工管理者とコミュニケーションを取っている様子の画像
常駐だからこそのコミュニケーションの取りやすさが魅力

建設ディレクターの配置で期待される効果のひとつは、身近な存在に仕事を依頼してノンコア業務を切り分けられることです。ノンコア業務の切り分けには外部委託をする方法もありますが、依頼ごとに費用が発生するため、心理的なハードルが高いというデメリットがあります。慣れない人とのコミュニケーションを億劫に感じる方もいるでしょう。

建設ディレクターは常に事務所にいるため、個別業務の費用を気にせずに仕事を依頼できます。また、常に同じ建設ディレクターと仕事を進めることになるので、コミュニケーションもあまり負担になりません。

手軽に仕事を頼める建設ディレクターを配置することが、ノンコア業務の切り分けで大きな役割を果たします。

さらに、3次元モデルの作成や測量といった専門的な作業を任せられることも建設ディレクターで期待できる大きな効果です。建設ディレクターは、子育てなどの事情で一時的に働けなかった方が、高い意欲を持って取り組んでいるケースが一般的。高い意欲で専門スキルの習得に励んでもらえれば、さまざまな仕事に対応できる建設ディレクターを育成することができるでしょう。

BPOとの違い5選

建設ディレクターとBPOの違い
建設ディレクターとBPOの違いとは
  • 幅広い書類を任せられるから「切り分けられるノンコア業務の範囲が広い」

  • マルチプレーヤーだから「少ない人数でも対応力が高い」

  • 親しみやすいから「頼みやすい」

  • 育成できるから「長期的に付き合える」

  • 協会の講座があるから「既存人材の活用に取り組める」

違い①幅広い書類を任せられるから「切り分けられるノンコア業務の範囲が広い」

BPOは、クオリティの高い配筋検査野帳などをスピーディーに納品してくれるのがメリットです。一方で、請求書や交通費精算書類などの一般書類や、KY記録などの安全書類は頼みにくいのがデメリットといえます。

建設ディレクターは、一般書類や安全書類なども幅広く対応してくれます。そのため、施工管理者として切り分けられるノンコア業務の範囲が広くなります。

違い②マルチプレーヤーだから「少ない人数でも対応力が高い」

建設ディレクターは、多様なスキルを持ったマルチプレーヤーです。ひとつの分野に特化した仕事は専門分野に長けたBPOの方が効果が高いケースが多いですが、少ない業務を幅広く依頼したい場合は建設ディレクターのようにマルチな働きができる存在が活躍します。

ひとりでも幅広い業務をこなすことができるため、少ない人数でも分野に制限されずに広い範囲の業務をカバーしてくれます。

違い③親しみやすいから「頼みやすい」

外部委託の形式に近いBPOとは違い、建設ディレクターは現場に配置されて仕事を行います。頻繁に顔を合わせるので親しみやすく、結果的に仕事を頼みやすい存在になります。

新年の餅つきや暑気払いBBQなど、現場の懇親イベントの用意などを手伝ってもらうことで、施工管理者だけでなく職人も親しみやすい存在になるでしょう。測量なども行う建設ディレクターと職人が仲良くなってくれれば、よりスムーズに仕事を進められる環境が期待できます。

違い④育成できるから「長期的に付き合える」

完成されたサービスを提供するBPOとは異なり、建設ディレクターはOJT(On the Job Training)をとおしてさまざまな業務に対応できる人材を育成する側面が強いのが特徴です。BPOほどの即効性のある効果を期待するのは難しいものの、現場にあった人材を育成することができます。

前述したとおり、建設ディレクターは意欲の高い人材が多く、書類処理・施工管理・広報活動など、さまざまな業務に積極的に取り組んでいます。現場に必要な人材に育てあげることができれば、ひとつの現場に留まらず、次の現場でも活躍してくれることでしょう。

違い⑤協会の講座があるから「既存人材の活用に取り組める」

BPOは外部サービスを利用するしかありませんが、建設ディレクターは社内の人材を職務転換してもらうことで導入できます。既存人材を有効活用できる可能性があることも建設ディレクターならではのメリットといえるでしょう。

建設ディレクター協会の講座を受け、修了テストに合格し、資格証を授与されることで建設ディレクターになることができます。講座では、建設業マネジメント・建設概論・工事書類・施工管理・入札と積算・建設ICT活用といった題材を扱うため、幅広く建築の基礎を学べます。誰でも一から挑戦できるため、既存人材の活用にはぴったりです。

「建設ディレクター」の活躍を調べてみた

新入社員が建設ディレクターを取得して活躍しているようです。ドローンを使った土量計測という建設ディレクターならではの業務を行っていますね。

建設ディレクターが初めての業務に取り組む様子が報告されています。意欲の高さゆえの覚えの速さは魅力ですね。

現場の雰囲気づくりに貢献してくれることも建設ディレクターの魅力。暖かい雰囲気の現場は作業員も働きやすいものです。

やはりノンコア業務の切り分けに向けて建設ディレクターの導入が注目を集めているようです。

一級建築士が建設ディレクターを考察してみた感想

建設ディレクターの一番の魅力は、「汎用性の高さ」といえるのではないでしょうか。何かの業務に特化してその業務だけを行うというよりは、施工管理者の負担が大きい業務を幅広く支援する「痒い所に手が届く」存在といえそうです。多くのノンコア業務を切り分けられるので、施工管理者は施工計画・管理に集中できるようになるでしょう。

現場に常にいるからこそ得られる親しみやすさという意味でも現場にとっては非常に貴重な存在です。SNSの投稿をみていると、親しみやすい建設ディレクターにより会社や現場の雰囲気が明るくなっていることを強く感じました。多くの関係者で建物をつくりあげていく建設業においては、明るく付き合える雰囲気を築くことがいつの時代でも大切ですよね。

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