「建築BIM加速化事業」は2024年度(令和6年)も継続が決定。2023年度の事業との違いを解説
建築BIMの社会実装加速化を目的とし、国土交通省(以下、国交省)が2023年度(令和5年)に実施したのが「建築BIM加速化事業」です。2024年3月1日時点で交付申請額は約50億円と公表されており、多くの事業者がBIMを導入するきっかけになった支援策といえます。
2023年末の国交省の発表により、建築BIM加速化事業は2024年度(令和6年)も継続して実施されることがわかりました。予算は60億円とされており、前年度の交付申請額をカバーできるほどの支援金が確保されています。2024年度と同様に、多くの事業者がBIMへの取り組みを強化するきっかけになるのではないでしょうか。
この記事では、2023年度の建築BIM加速化事業との違いに焦点を当てながら、2024年度の事業概要を解説します。これからBIMを始めたい方も、さらにBIMを強化したい方も、ぜひご覧になってみてください。
建築BIM加速化事業の概要
はじめに、2023年度と2024年度に共通する建築BIM加速化事業の概要について解説します。官民一体でBIMの本格導入を目指す支援事業の全体像を掴んでおきましょう。
2023年度から始まった国交省のBIM支援事業
建築BIM加速化事業は、2023年度に80億円の予算を計上したBIMの支援事業です。
2023年までは国交省が大手のゼネコンや組織設計事務所とBIMの有効性の検討を行っていました。ガイドラインがある程度整った段階で、満を持して建築BIM加速化事業が実施されました。
建設業界がBIMの普及をはじめとした建設DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている背景には、建設技能労働者・一級建築士の高齢化、生産性の低さ、長時間労働などの課題があります。建設プロセスのデジタル化により生産性を向上させ、労働時間を短縮し、建設業界の魅力を高めて若手の参入を増やすのが建築BIM加速化事業の狙いです。
建築・都市のDXによりスマートシティのような新しい空間や暮らしを創出するだけでなく、建設プロセスのDXで新しい働き方を実現するのが現在の建設業界の目標です。建設DXの先には、より自由な発想でより楽しく建設に携われる未来が待っているかもしれません。
BIMを幅広く普及することが目的
BIM元年と呼ばれる2009年から長い年月が経ちましたが、実プロジェクトでBIMを本格的に導入しているのは、大手のゼネコンや組織設計事務所に留まっているのが実情です。しかし、大手建設会社(日本建設業連合会の法人会員企業)が占める受注シェアは2~3割程度です。残りの7~8割は中小企業で請け負われています。
建設DXを実現するためには、建設業界全体での改革が必要です。そのため、小さいシェアを占める大企業だけでなく、大きいシェアを占める中小企業にもBIMなどのデジタル技術を幅広く実装しなければいけません。建築BIM加速化事業はそのゴールを達成するため、中小企業でも気軽に利用できる支援事業であることが特徴です。BIM活用の詳細な報告書などは不要なので、支援金を受け取る技術的なハードルは低いといえるでしょう。
建築BIM加速化事業の補助上限額
建築BIM加速化事業の補助額は、プロジェクトの延べ面積に応じて上限が定められています。下記に掲載するので参考にしてみてください。なお、2023年度の建築BIM加速化事業で支援を受けたプロジェクトは、そのときの補助額も含めて上限を判定される点に留意しておきましょう。
2024年度と2023年度の建築BIM加速化事業の違い
ここからは2024年度と2023年度の建築BIM加速化事業の違いについて触れていきます。建築BIM加速化事業をより幅広く活用できるようにするため、補助要件や運用が見直されました。
補助要件の見直し
小規模プロジェクトや改修プロジェクトに対象が拡大された一方で、大規模な新築プロジェクトには要件が付加されています。
●小規模なプロジェクトにも対象を拡充
2024年度の建築BIM加速化事業では、プロジェクトの実施に係る面積・階数の要件が廃止されました。これにより、プロジェクトの規模に関係なく建築BIM加速化事業を活用できるようになります。2023年度の事業では「地区・延べ面積がともに1,000㎡以上かつ階数が3以上」という要件が設定されており、小規模プロジェクトでは活用できませんでした。戸建て住宅のような小規模プロジェクトでも積極的にBIMに取り組むことができます。
●改修プロジェクトにも対象を拡充
2024年度の事業では、新築プロジェクトだけでなく、既存建築物の改修プロジェクトでも支援を受けられるようになりました。
既存建築物の調査で注目されているのが、点群データをはじめとしたデジタル技術です。調査で得られたデジタルデータをBIMに取り込み、改修設計に活かす手法も登場しています。BIMの活用が大きな生産性向上に繋がる分野といえるでしょう。既存ストックの活用は国交省が力を入れている取り組みでもあるので、将来的な需要を期待できる市場です。
●大規模な新築プロジェクトの要件付加
大規模な新築プロジェクトで支援を受ける場合、「業務の効率化または高度化に資するBIMの活用を行うこと」という要件が付加されました。この要件付加からは国交省が生産性の向上にフォーカスしていることが読み取れます。
なお、“大規模”に当てはまるのは、「地区面積・延べ面積がともに1,000㎡以上かつ階数が3以上」のプロジェクトです。
運用の改善
運用面では、協力事業者への支援を充実されるために以下の変更がありました。
協力事業者が、「プロジェクトの実施に係る環境整備」をBIMコーディネーターに直接委託する場合も1事業者当たり100万円を上限に支援対象とする。
協力事業者が実施するBIMモデル作成以外の「元請けのBIMマネージャーとの調整等に要する費用」も1事業者当たり100万円を上限に支援対象とする。
以下の図では、設計・施工体制で支援対象となる費用が示されています。
企業によっては経験豊富なBIMコーディネーターを社内配置するのが難しいかもしれません。そのような場合は、BIMに精通した事務所に外注するのが有効な手段になるでしょう。外部人材の技術やノウハウを参考に社内人材を育成することもできますし、人員が不足する時期に外部委託する繋がりを得ることができます。
また、協力事業者が元請事業者と調整するための人件費が支援対象になるのも大きなポイントです。BIMの活用には、環境整備だけでなく、運用に時間と労力が掛かるデメリットがあります。BIMの打ち合わせが長引いて人件費が釣り合わないと困っている協力事業者も多いのではないでしょうか。今回の支援範囲の拡大は、BIMとの適切な関わり方を模索するチャンスかもしれません。
BIMモデル作成費
建築BIM加速化事業の対象になるBIMモデル作成費に大きな変更はありません。前述のとおり、「協力事業者が直接BIM環境整備に係る業務を委託する場合の委託料」と「元請事業者のBIMマネージャーとの調整等に要する協力事業者の担当者の人件費」が新たに支援対象になるため、柔軟に活用しましょう。
建築BIM加速化事業の支援対象になるBIMモデル作成費は以下のとおりです。
BIMライセンス等費(BIMソフトウェア利用費、PCリース費、CDE環境構築費など)
BIMコーディネーター等費(BIMコーディネーター・マネージャーの人件費・委託費、BIM講習費)
BIMモデラ―費(BIMマネージャーをサポートするBIMモデラ―委託費(施工BIMに限る))
なお、支援対象のソフトウェアなどは「建築BIM加速化事業実施支援室」のホームページに掲載されているエクセルで確認できます。掲載されていないソフトウェアを申請することもできるので、チェックしてみてください。
登録方法及びスケジュール
2024年度の建築BIM加速化事業では、プロジェクトの代表となる元請事業者等(設計事務所・ゼネコン等)が、プロジェクトごとに「代表事業者」として登録し、準備ができたら交付申請を行うことになっています。書類提出は代表事業者が取りまとめることになっているので留意しておきましょう。なお、交付申請などは「jGrants」を利用した電子申請で行います。
以下に国交省が公表している2024年度建築BIM加速化事業のスケジュールを掲載します。2023年度の事業で支援を受けたプロジェクトを継続する場合は、夏ごろから交付申請が開始予定です。
完了実績報告
2024年度建築BIM加速化事業の完了実績報告で求められている書類は以下のとおりです。
設計BIMモデルまたは施工BIMモデルのスクリーンショット
BIMモデル作成に要した経費の証拠書類
建築BIM活用事業者宣言
(大規模な建築物の場合)要件に適合することを証明する書類(2024年度に付加)
大規模な建築物の場合の要件とは、「業務の効率化または高度化に資するBIMの活用を行うこと」です。適合を証明する書類の様式はまだ公表されていないため、「建築BIM加速化事業実施支援室」ホームページの更新を待ちましょう。
おわりに
建築BIM加速化事業は60億円の予算を計上して2024年も継続することが決まりました。2023年度の事業では、50億円の交付申請額(2024年3月1日時点)が公表されており、着実にBIMの導入が進んでいることがわかります。
BIMの活用方法はさまざまな場で共有されています。それらを参考にしながらBIMによる新たな建設プロセスで生産性向上を目指してみてはいかがでしょうか。
参考
・国土交通省「建築BIM加速化事業について」
・国土交通省「建築BIMの意義と取組状況について」
・一般社団法人日本建設業連合会「建設業の現状」
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