有事と平時の谷間で
簡単に自己紹介。星村聡史といいます。海外におけるリスク、つまりテロや紛争、犯罪傾向などの分析を仕事としています。一方で、政治学の研究や物書きもやっています。後藤さんとは3年弱くらいの付き合い、稀に「みらいけん」にも顔を出します。
扨て、2022年を振り返ろうとすると、ロシアによるウクライナ侵攻がどうしても中心になります。海外リスク分析という、紛争やテロが「飯のタネ」になる日本においては少数に属する生業のためです。そのゆえか、2022年は年始からサツバツとしていたような気がします。
ウクライナから遠く離れて
1月には、「開戦するのか、しないのか」をめぐる「壁打ち」が始まった。「もし起きたら」の緊急対応(社員退避をどうするか、云々)についても、簡単な問い合わせが来るようになった。ただ、ありていに言うと、この時期はまだ「楽観的」だった。その理由は、ふたつあった。ひとつは侵攻のリスクがロシアにとって大きすぎて(その想定は当たったわけだが)、「最悪の事態」であり過ぎたことだ。「そんなリスクを冒す必要があるのだろうか」という疑問がつきまとっていて、クライアントにとっても楽観的なバイアスの根拠になっていた。第2に、起きたところでウクライナが持ち堪えられると思っておらず、長期化するとは考えていなかった(すなわち、こちらの想定は外れたのである)。だから、ポーランドやハンガリーといった後方については、スコープから外れがちだった。
2月に本格侵攻が始まる。ちょうど私の誕生日の翌日で、妻と久しぶりに子供抜きでランチを楽しもうとしていたところだった。それからは連日、問い合わせへの対応が続いた。略記すると、
・中東欧で物資不足は想定されるか、もし想定できるなら備蓄等させるべきものはあるか
・ポーランドなどからの退避は想定すべきか
・ロシアの核行使は考えられるのか、もしあるならどう備えるのか
・台湾侵攻は連動して起きないのか、起きたらどう退避するのか
等々。ウクライナの予想外の継戦能力に目を瞠りつつ、こんな問いに答え続ける重っ苦しい日が続いた。いまも時々、やってくる。
幕間にて
その合間で、監修というかたちで関わっていた漫画のプロジェクト(『テロール教授の怪しい授業』)が完結した。最終巻である4巻にも幕間のコラムをいくつか書かせてもらった。思いがけず知人から「お前、こんなことやってたの?」と久しぶりのメッセージをもらったり、「みらいけん」では知らない読者の方から『テロール』を読む会に誘ってもらったりした。「テロについての漫画を作る」という原作のカルロ・ゼン氏の企みは、存外な楽しみであった。
スキーは4年ぶり、八重山諸島のシュノーケル旅もコロナ前以来で、再開できた。スポーツマンではないのだが、なんとなく始めてからどちらも10年を超える。今年は初めて、波照間島まで足を伸ばした。有人最南端の崖から南の海を眺めながら、この向こうは台湾沖だな、と思った。米下院議長のナンシー・ペロシが訪台したことに、北京政府が軍事演習で報復してまもない時期だったから、この島がいつまで平和な観光地なのだろう、という思いが、小さなトゲのように引っかかった。
無茶振りと次のシード
暑さがおさまり出した頃には、無茶ぶりが2件やってきた。
ひとつは、政治に関する広報、いわゆるStrategic Communicationを担当してくれ、というものである。選挙区を視察し、有権者のセグメントを析出し、それぞれにふさわしい広報コンテンツを考えていく。学生の頃から議員事務所や選挙を手伝ってきたから、まったく土地勘がないわけではないが、SNSや動画の運用などツールが以前と様変わりしている。それに応じて、公職選挙法も勉強し直さないといけない。いまのところ、スモール・ローンチというのも恥ずかしいくらいだが、一方で、手応えがなくもない。順調にいけば来年以降(特に春の統一地方選挙以降)、事業として大きくしていけるかもしれない。
もうひとつは、日本刀である。私も相談されるまで知らなかったのだが、日本刀の刀匠も他の伝統工芸と同じく、高齢化とマーケットの先細りで、絶滅が危ぶまれつつあるそうだ。『鬼滅の刃』ブームによりマーケットは前途洋々に見えるが、いきなりウン十万円以上する日本刀がバンバン売れるはずないよね。
そんなわけで、今後10年で技術を持続可能にしていきたい、という話が回ってきた。とりあえず政策まわりと海外展開まわりに関わることになりそうだが、実のところ暗中模索。美濃の工房を訪ねたり、骨董屋の知り合いに話を聞きに行ったりしているが、まだ漠然とした気分でいる。どこから手をつけるんだ、これは。
これを書いている日も、刀好きの友達と板橋まで見に行き、6本ほど触ってきた。刃の怪しい光やずっしりした手取りは、ガラスケースから見ているだけでは伝わらない。だが、その「良さ」は普遍的なものとして認知され得るのだろうか? もともと剣道は好きなほうだったし、美術品も好きだから、ケチなことは言わずに、手弁当覚悟でしばらくやっていこうと思っている。
抱負は苦手なんだけど
来年の抱負というか展望というか、そんなものをマトモに作ったことがない。「万事流転す」が染みついているから、意図的な無計画人間なのである。いまのところは、ここまで書いてきたことの延長線上にやっていくことになる。つまり、
国内外のリスク・マネジメント事業の継続
Strategic Communication事業の展開
日本刀のマーケット拡大に向けたリサーチ
である。
こんな物騒な振り返りと展望を書くやつはあまりいないかもしれないが、生業が物騒なだけに仕方がない。来年は、明るい話題が増えてほしいと、自分のメンタルのためにも思う。いや、ほんと。
(星村聡史)
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