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【日経新聞から学ぶ】9月のユーロ圏景況感、3カ月連続50割れ~ユーロ圏はスタグフレーション~

1.9月のユーロ圏景況感、3カ月連続50割れ

9月のユーロ圏景況感、3カ月連続50割れ 景気後退に懸念
米S&Pグローバルが23日発表した9月のユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI、速報値)は48.2と前月から0.7ポイント低下した。好不況の分かれ目である50を下回るのは3カ月連続で、1年8カ月ぶりの低水準になった。ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源高で企業のコスト負担が膨らみ、景気後退に陥る可能性が高まっている。

製造業は48.5と前月から1.1ポイント下がり、2年3カ月ぶりの低水準になった。資源価格の高騰で生産コストが増しており、先行きを警戒する企業が増えている。部品不足などの供給制約は一部緩和に向かうが、なお影響が続いているもようだ。

サービス業も48.9と同0.9ポイント低下し、1年7カ月ぶりの低水準だった。旅行・観光などの落ち込みが激しく、新型コロナウイルス禍の反動で持ち直していた需要回復が一服しつつある。

(出典:日経新聞2022年9月24日)
(出典:TRADING ECONOMICS/ユーロ圏PMI総合

ユーロ圏のPMIが悪化しており、急速に景気後退懸念が出ています。しかも、エネルギー危機にさらされているユーロ圏では、インフレが収まる様子はなく、スタグフレーションが現実になってきています。フィナンシャルタイムズも次のように報道しています。

S&P Global’s flash eurozone composite purchasing managers’ index — a key gauge of business conditions — fell 0.7 points to 48.2, its lowest level since January 2021 and the third consecutive month below the crucial 50 mark that separates growth from contraction.
S&Pグローバルが発表したユーロ圏総合購買担当者景気指数(景況感の重要な指標)は0.7ポイント低下の48.2と、2021年1月以来の低水準となり、成長と縮小を分ける重要な50を3カ月連続で下回る結果となった。

The reading is the strongest evidence yet that the energy crisis caused by Russia’s invasion of Ukraine has pushed the bloc into recession, along with sending inflation to record highs.
この数値は、ロシアのウクライナ侵攻によって引き起こされたエネルギー危機が、インフレ率を過去最高に押し上げるとともに、欧州連合を景気後退に追い込んだことを示す最も強い証拠となるものです。

Eurozone bond and share prices plunged while the euro fell 0.9 per cent against the dollar to 97.5 cents on Friday, its lowest level since October 2002. Germany’s benchmark 10-year yield rose above 2 per cent for the first time in 11 years, while the Dax-40 share index of blue-chip German companies fell 1.4 per cent to its lowest level for almost two years.
ユーロ圏の債券と株価は急落し、ユーロは金曜日に対ドルで0.9%下落し、2002年10月以来の低水準となる97.5セントになった。ドイツの指標となる10年債利回りは11年ぶりに2%を超え、ドイツの優良企業で構成される株価指数Dax-40は1.4%下落し、ほぼ2年ぶりの低水準となった。

The slowdown in activity underlines the challenge facing the region’s monetary policymakers, who are expected to continue raising borrowing costs to fight inflation in spite of the slowdown. “The stagflationary shock is real, and it is intensifying,” said Claus Vistesen, an economist at Pantheon Macroeconomics.
活動の鈍化は、この地域の金融政策決定者が直面している課題を浮き彫りにしている。金融政策決定者は、活動の鈍化にもかかわらず、インフレと戦うために借入コストの引き上げを継続すると予想されるからである。ペンション・マクロエコノミクスのエコノミスト、クラウス・ビステンスは、「スタグフレーションのショックは現実のものであり、それは激化している」と述べている。

(出典:フィナンシャルタイムズ2022年9月24日

全文訳はこちら↓

特にEU圏の経済を引っ張ってきたドイツの減速が鮮明となっています。ドイツ経済は「世界金融危機以降、コロナ禍以外では見られなかった勢いで悪化している」とS&Pグローバルのクリス・ウィリアムソン氏は述べています。

2.PMIとは

PMI とは、「Purchasing Managers' Index」の略であり、日本語では「購買担当者景気指数」と呼ばれます。

製造業で原材料や部品などの仕入れを担当している購買担当者へアンケートを実施し、そこから得たデータを数値化したものです。アンケートの内容は新規受注や雇用、価格等多岐に渡ります。

企業における購買担当者の役割はとてもシビアで、生産計画に従って原材料を正確に調達することが要求されているのです。

また、市場における製品の需要や取引先企業の経済状況などを見極めるなど、あらゆるリスクも考慮しながら購入量を調節することが求められています。

こうした理由から、購買担当者の考えや行動が今後の景気を見通すのに役立つと考えれています。

そして、製造業はどの国においても経済に大きな影響を及ぼすため、製造業はどの国においても、景気の状況や先行きを予想するための数値としてPMIが重視されているのです。

IHS Markit社では、アメリカや日本、中国、ユーロ圏をはじめとする30以上の国々で調査を実施し、毎月調査結果を公表しています。

また、PMIはGDPとの関連性が強く、数値の動きも似ています。経済が成長を続け、景気が好転しているときにはPMI数値に付随するようにGDPの数値も上昇傾向がみられるのです。

PMIの見方
PMIの見方は簡単で、基準値の上か下かで景気の先行きを判断します。まず、商況が前月と比較して横ばいを表す「50」がボーダーラインです。数値がこれを下回れば景気が上向きと考える人が多いことを示します。

PMIは経済全体の状況をよく表しているといわれておりますが、PMIが重視されるもう一つの理由はその速報性です。経済全体をいち早くつかむために、最近はPMIが経済指標として重要視されています。

(出典:TRADING ECONOMICS/ドイツPMI

3.EU圏はスタグフレーションへ

スタグフレーションとは、インフレーションの物価上昇とデフレーションの景気停滞が同時に起きている状況を指します。Stangnation(景気停滞)とInflation(物価上昇)を組み合わせた造語です。

モノやサービスの値段が物価であり、経済の状況を示す重要な指標が消費者物価指数です。経済が活発になるとお金の循環が活性化されて、消費者物価指数は上昇します。逆に、経済が停滞してお金の循環が滞ると、消費者物価指数は下降するのです。

消費者物価指数は経済の状況を数値化できるため、中央銀行の金融政策や政府の財政政策に活用されます。政策によって物価の上昇や下降を促すことで、経済の変動を保ったり小さくしたりするのです。

そして、物価が継続的に上昇している状況がインフレーションです。企業が価格を上げても消費者が積極的にモノやサービスを購入するため、売上が上昇します。企業の利益が増えると従業員の給料が上がり、より積極的に消費活動が行われるのです。インフレーションによってお金の循環が活発になり、経済が発展します。

経済の停滞や物価の下落が続いている状況では、インフレーションに向かう政策が行われるのです。インフレーションは経済を発展させる効果がありますが、過剰な物価上昇はお金の価値を下げてしまうため、注意が必要になります。

インフレーションの逆がデフレーションです。物価が継続的に下落している状況がデフレーションです。モノやサービスが売れずに企業の売上が下がります。企業の業績が悪化すると従業員の給料は下がり、消費活動が消極的になるのです。

経済はデフレーションによってお金の循環が滞り、停滞します。給料が下がるとより安いモノやサービスが求められて、企業は価格を下げるのです。

このように物価の下落が加速する悪循環を、デフレスパイラルといいます。物価が下がるとお金の価値が上がるため現金を貯蓄していると恩恵を受けられますが、借入があると返済が大変となります。

スタグフレーションになると、景気が停滞しているにも関わらず物価が上昇するため、給料は増えずに支出が増えて家計が苦しくなります。デフレーションでは物価上昇のための政策によって、市場の通貨流通量を増やすことが解決策です。しかし、スタグフレーションでは物価が上昇すると状況が悪化するので、同じ政策では解決できない点が大きな問題となります。つまり、ユーロ圏では、景気が悪化していても物価が上昇している局面でも、通貨流通量を増やすことができないのです。

PMIが悪化し、景気後退が懸念されている場面でも、インフレを抑制するために金利を上昇させることを優先しています。下りのジェットコースターに乗っているEU圏は、金利を上げることで、下りの角度をさらに急にしているのです。

しかも、物価上昇はEU圏の努力によってどうにかなる問題ではなく、ロシアのウクライナ侵攻以降のエネルギー価格の上昇が主因です。解決の糸口は見つかっていません。インフレで人々の生活は圧迫されているので、景気後退よりもインフレ抑制が優先となっています。それにもかかわらず、インフレ抑制の目途は立たない。つまり、金利の引き上げの目途もたっていない状況です。

(出典:TRADING ECONOMICS/ユーロ圏GDP成長率

現在はマイナス圏には入っていないGDP成長率ですが、先行指標のPMIが悪化しており、今後、マイナス成長に入ることも視野に入っています。

エネルギー危機とあいまって、この冬、ユーロ圏は深刻な物価高と景気悪化に襲われ、スタグフレーションが現実化してくるはずです。

未来創造パートナー 宮野宏樹

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