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通貨の変化。根源的通貨も考える時。

【実質金利と資産・負債】
今、世界は大きく変わろうとしています。その変化の根底には通貨の変化があります。通貨の変化こそが、経済、社会の根底からの変化であるといえます。しかし、正統派の経済学では、通貨を取引の媒介のツールとし、あまり研究、検討していません。そのため、主流派のエコノミストは現在の信用通貨制度に基づいた信用通貨の有効性しか主張してないといえます。

通貨はモノを買う権利ですが、通貨の流通量が増えると、通貨1単位の権利は小さくなっていきます。通貨の長い歴史では、金(ゴールド)以外の通貨は政府が崩壊すれば、すべて無価値になりました。しかし、金だけは、政府と無関係に無価値にならずに上がってきました。

信用通貨を有効であるという最近の理論にはMMT(現代貨幣理論)がありますが、これは中央銀行が国際を買って通貨を発行する国債のマネタイゼーション(国債の現金化)だと考えます。

最大の信用通貨はドルであり、その発行国は米国です。ここで、名目金利と実質金利という概念について考えてみます。

名目金利と実質金利
1.名目金利とは
「名目金利というと、本物でないという印象を与えますが、世の中で一般的に目にする表面上の金利がすべて「名目金利」です。具体的には、店頭などで定期預金の金利が5%と表示されている場合、この5%が「名目金利」です。

2.実質金利とは
「実質金利」とは、上記の「名目金利」を物価変動率を加味したものです。つまり、上記の「名目金利」が物価変動により貨幣価値が下落(又は上昇)した場合にどうなるのか、それを考慮したものが「実質金利」です。実際に発表されている物価変動率を使う場合もありますが、先進国の一部では物価連動国債の情報(期待物価上昇率)を利用する場合も増えています。

たとえば米国のようにローン金利が3%と低く、住宅価格が10%から15%上がっていた時期(2021年)は、住宅ローンの実質的なローン金利はマイナス7から12%でした。住宅を買った人は7から12%の利益が見込まれます。7,000万円の住宅であれば、49万円から84万円の実質的な不労所得は大きいといえます。そのため、実質金利がマイナスの時期は住宅の購入が増加し、供給を需要が上回り、価格は上昇します。

(出典:TRADING ECONOMICS/米国30年住宅ローン金利

しかし、2023年10月現在、FRBの2022年3月からの利上げによってローン金利は7%を超えました。そのため、住宅価格の上昇予想は0%に下がっています。実質金利はプラス7%では住宅ローンでの住宅購入は減り、前年比の価格は下がっています。

米国ではリーマンショックのあと、銀行を救うためにFRBはFF金利を0%に下げて、実質金利を人工的にマイナスにしました。それを2008年から2023年3月までほぼ15年間続けました。

(出典:TRADING ECONOMICS/米国FF金利

そして、全米20都市の住宅価格指数は184から404まで2.2倍に上がっています。

しかし、金融資産=金融負債です。2.2倍に上がった住宅価格には、2.2倍のローン負債が対応します。ローン負債は銀行の資産です。

金利が上昇すると、ローンを払えなくなる人が出てきます。すると、銀行の持つ住宅ローン債権は不良債権化していきます。今回は約15年も実質金利のマイナスを続け、負債が急増しています。

コロナの後の米国の金融資産=負債はおよそ122兆ドル(1京8,300兆円)に達しています。

(出典:日本銀行/資金循環の日米欧比較

3%の金利なら549兆円(GDP比13%)、4%なら732兆円(GDP比19%)、5%なら915兆円(GDP比24%)です。

現在、FRBの短期金利(FF金利)は5.25%から5.5%、長期金利は4.5%から5%です。

こうした事態を前にしても金融市場と銀行が静かなのは、事態を直視していないからではないでしょうか。しかし、警告を発してる人もいる。

【通貨の価値は誰が決めているのか】
ここから再度通貨の価値について考えます。通貨が価値を持つことができる根拠は何か。

商品の価値なら誰でもわかります。100円のリンゴはおいしくて、体にもいい。では、商品と交換される通貨の交換価値とは何でしょうか。

1万円の価値の商品を紙に数字を印刷した日銀券の1万円札で買えるのはなぜか?

この答を真剣に考える人は少ないでしょう。「当たり前」と思っているからです。つまり、「そのように決まっているから」ということでしょう。

では、一体、それを決めているのは誰か?つまり、信用通貨の価値を決めたのは誰か?それは政府だということです。その政府は本当に価値を保障しているのでしょうか。

これに答えるためには経済と金融の過去から振り返ってみる必要があります。

経済取引を可能にする戦後金融の起点は、金兌換通貨のドルを世界の基軸通貨と決めた1944年のブレトンウッズ体制です。45カ国の戦勝国がFRBによって一定量の金と交換できるとした米ドルを基軸通貨と決めました。これは、真の通貨は金と交換できるドルであり、その他の通貨はドルの付属通貨と決めたということと同じです。

この1944年のブレトンウッズ会議において英国代表をつとめたケインズが提唱したのは金兌換の「バンコール」という国際決済通貨でした。バンコールは英語のbank(銀行)と仏語のor(金)を組み合わせた造語です。米国の反対で実現せず、ドルを基軸通貨とする体制が始まりました。

ドル基軸体制では、他の通貨は米国が金兌換と約束したドルを中心にした固定相場でした。1ドルは1949年に円に対して360円とされました。

重要なことなので、金と通貨の関係を明治15年(1882年)まで時を遡って見てみます。

日本は、江戸時代260年の鎖国の後、貿易のために国際通貨との交換が必要となりました。中央銀行が作る通貨は国単位のものです。法が及ばない外国との貿易のためには、通貨の安定した交換が可能でなければなりません。外貨と交換ができる「円」を作るために日銀が設立されました。

日銀が設立された明治15年(1882年)の1円は世界共通の価値を持つとされてきた金を媒介にして1ドルとされました。「1ドル=金1グラムの価値=1ドル」でした。

これは1グラムの金を1円と決めたのではなく、逆に金1グラムの価値を1円の価値として守ることを円を発行する日銀が決めたのです。日銀は金を価値を決めることはできないのです。金価格は国際市場での売買で決まります。1円の価値は、日銀の通貨発行量で決まります。

日銀設立前に、維新政府は太政官札という政府紙幣を発行していました。しかし、これは金兌換ではなかったため、国際通貨のドルやポンドと交換はできませんでした。

金を仲介にしたのは、金が遥か昔の5000年、少なくとも2000年続く国際通貨だったからです。人々が政府と法に関係のない普遍的な価値を認めた金を媒介にして、各国の通貨の交換性が確保されました。金は各国通貨の変動価値を計算する軸といえる存在だったのです。

信用通貨の価値の拠り所は政府が作った法にしかありません。紙幣1単位の価値は発行する国家の経済規模であるGDPと通貨の発行量に依存します。金は各国の経済に依存しない固定的な価値を持ちます。

もっと、深くいえば、金それ自体が勝ちを持つものではありません。法で強いられず、価値の永続性があると、古代から社会が自然に認めてきたのです。これは、人類の歴史がそれを認めてきたという歴史もあり、普遍的価値とされています。

一方、信用通貨は「商品の代金としての受け取りを拒否できない。国民の義務である税は信用通貨(管理通貨)で払う」と法が定めている通貨です。信用通貨、管理通貨、フィアットマネー(法貨)は政府の法にしか価値の拠り所はありません。信用通貨の1万円札は、米国ではドルに交換しないと使えません。

一方で、金は法の規定がなくても通貨になります。この違いはどこにあるのでしょうか。金はそれ自体で価値を持つと、世界の人々が歴史的に認めてきたからです。

本源的な価値を持つと認めることができる金の価値が低下するのは、世界の金需要より多く生産され、需要より多く売り物が市場に供給された時です。

現在、世界の金生産は、1)鉱山から3600トン、②宝飾品や電子部品の回路(廃棄された携帯電話が最も多い)から、金の成分を再精錬するリサイクルが約1000トン、合計で4600トンです。1年に4600トンの新規需要はほぼ一定しています。

1年に約4600トンの需要者としては、宝飾加工業、電子回路、金投資家、中国・ロシアを先頭とした新興国の中央銀行があります。世界の外貨準備になっているドルが下落したリーマンショックの後の2018年からの13年間、中国・ロシア・産油国・東南アジアの中央銀行は、2007年までの年400トン程度の売り越しから、逆に400トンから600トンの買い越しに転じています。

原因は米銀の危機であった2008年9月のリーマンショックの後、米ドルが世界の通貨の貿易加重平均に対する実効レートが下落したことにあります。中央銀行の資産であるドルの外貨準備が下がったので、上がることが期待された金を買って、中央銀行は米ドル資産の減少を補いました。

1年に400トンから600トンという新興国の中央銀行の連合としては「少ない買い越し」でした。しかし、それは大量に買って金価格が高騰すれば、あとで下がって損をする可能性が高くなるからです。

中央銀行は少ない買い越しの量で少しずつ金価格を上げ、13年間一定の買い越しを続けてきました。2008年の金1オンスの価格は900ドル付近でした。2023年11月現在では1945ドルとなっており、13年間で2倍以上に上昇しました。

現在では、金を媒介にすれば、金0.016グラム=1ドル=152円です。ドルの金兌換性が停止されて52年が経過します。金価格を仲介にして見れば、一致しています。

金0.016グラム:152円=金1グラム:X
X=9500円

この9500円は現在の円建ての1グラム当たりの金価格です。一致しているのは、金が本来の通貨だったという証拠ではないでしょうか。信用通貨になっても、真の通貨は金だったと言えます。

現代でも、政府を信用しない世界の人々の間では「金はドルが下がると価格が上がるドルの反対通貨」として考えていることを理解しておく必要があります。

基軸通貨ドルの信認の揺らぎが起こっている、信用通貨そのものが揺らぎ始めていると言えます。これは、通貨が信用通貨ではなく、本源的な価値を持つ金を媒介にしていく必要性が求められている可能性とも言えます。

今、起きている出来事は基軸通貨ドルが信用通貨であり、その信用通貨への信認の揺らぎです。その為、各国中央銀行は金の保有量を増やし、ドルの保有量を減らしています。

BRICSの共通通貨構想も金ペッグ制であることが予想されていますが、それも信用通貨への信認が揺らいでいることへの現れです。私が通貨と考えているのは、信用通貨、法定通貨であり、根源的な通貨ではないことを意識しておく必要があります。

しかし、それを意識している日本人はほぼいません。この50年間のシステムを信用しきっているからです。しかし、このシステムはわずか50年のシステムであり、それほど長いものではありません。1944年のブレトンウッズ体制から始まったに過ぎないシステムは、未来永劫続くもののように考えることに危険を感じてしまいます。

本源的通貨について考える時なのではないでしょうか。


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