[連載#4 官能小説:ハルと梨沙」
あらすじ
商社に勤めるハルは内気な性格もあり、休日は一人で過ごすことが多かった。同僚たちは次々に結婚して家庭を持っていく。結婚願望はあるが、30代後半にさしかかると男性からのお呼びもなくなった。このまま人生が過ぎていくのだろうか…….。そんなある日、営業部に転職してきた梨沙から食事に誘われた。ハルとは違って明るくて社交的で積極的な梨沙。その梨沙の目的は、ハルだった。天真爛漫な梨沙の性の誘いに翻弄されるハル。
#4 Kissの味
何が起きたのか、ハルには分からなかった。
突然のこと過ぎて、理解が追い付かなかった。
ただ覚えているのは、柔らかい唇の感覚。
今まで誰とも経験したことのないような甘い接吻。
彼女に触れられた時、ハルの背中に稲妻が走った。
と同時に、切なさと恋しさが胸にこみ上げてきた。
まるで、恋焦がれていた初恋の人と再会したときみたいに。
ハルの脳裏に先ほどの出来事が繰り返し浮かぶ。
19:00に待ち合わせをしたが、ハルは18:40分前には居酒屋着いた。
すでに中で梨沙が待っていた。
何時に来たの?と聞くハルに梨沙は18:30には着いてました。
と照れ臭そうに答えた。
会話はありふれたガールズトークだった。
趣味、仕事、学生時代、興味のあること。
他愛のない話に夢中になった。
馬が合う同士だと、会話も楽しく時間があっという間に過ぎていく。
居酒屋を出て、2軒目は落ち着いた雰囲気のバルに行った。
カウンター席のカップルシートに座って、
白ワインを頼み、6種類の焼き牡蠣をつまんだ。
グラスを3杯ほど空け、ほどよくお酒がまわったところで、二人で店を後にした。
梨沙が、酔いすぎたかも。少し風に当たりたい。と言うので、帰り際の公園でベンチに腰をかけた。
梨沙の隣に座り、大丈夫?と背中をさすると、
細くて長い手が、ハルの後ろ髪を引き寄せた。
柔らかく温かい感触。
ひんやりとした舌先がハルの唇をこじあけて入ってきた。
さきほど飲んだ白ワインの味がした。
頭の中が真っ白になった。
人は想定していないことが起きると、
身動きがとれない。
というのは本当らしい。身体が硬直した。
やめて。そう言おうとしたけれど、声がでなかった。
頭に血がのぼりぼーっとして何も考えられなくなった。
甘い霧が立ち込めるように周りの景色がぼんやりとした。
梨沙の細い華奢な手がハルの後ろ髪に絡みついた。
とろけるような柔らかい唇がハルを幾度となく求めた。
梨沙の唇がハルの首筋に触れ、
鎖骨の上のくぼみにキスをした。
細長い指が、大きくはないが形の良い、ツンと上を向いた胸を撫で優しく撫でる。
これから起こる事への期待がハルを高揚させた。
荒くなっている自分の息遣いに、羞恥さに頬を赤く染めた。
このまま快楽に身を委ねたいという衝動に駆られた。
理性と相反する行動をしたい。
このまま堕ちてしまいたい。
ハルを現実に引き戻したのは、そっと近づいて来た足音だった。
「近藤さん?」
確かめるように、疑わしげにハルの苗字を呼ぶその声は聞き覚えがあった。
暗灯でも、その男が生産管理課の祐介だと気づいた。
「あっ」と声を出し、
ハルはバッグを肩にかけ、梨沙と祐介をその場に残し走り去った。
乱れたままの髪で、胸の谷間が見えるように開かれたシャツの前を手で隠しながら、ただ下を向いて足早に立ち去った。
(#5 へ続く)
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