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せいかつの軌跡(25)

今日から仕事が始まった。

時間に追われる生活に慣れない母をよそに、灯は寝起きから「カカと家にいる〜」とベッタリ抱っこ状態。なかなか準備が進まない。それでも車に乗せるとどうしようもない状況を理解したのか、急に口数が減る二歳児。その姿に、なんだか私のほうが切ない気持ちになる。

「カカ、トモシと離れるのさみしいよ〜」

また泣きながら呟く私を見て、彼は無言でニヤリと笑った。

登園すると、いつもと違う場所で子どもたちが遊んでいた。

「ともちゃん、行こう。」

先生の差し出した手をキュッと握って、さっさと歩き出すトモシ。彼はもう、保育園で泣かない。あまりのあっさりした別れ、自立ぶりに寂しくなって声をかけた。

「トモシ〜!できるだけ、はやく迎えに行くからね!またね!」

彼は立ち止まってこちらを振り返り、少し気恥ずかしそうに笑いながら、ひらひらと手を振った。子どもたちの集まる場に向かう彼の背中が、いつもより大きく見えた。子どもが子どもでいてくれる時間は、思っていたより何倍も短い。

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仕事を終えお迎えに行くと、まだお昼寝の時間。そっと部屋を覗くと、一人だけパッチリ起きて遊んでいるトモシがいた。

「車でパイパイする〜」

と私に張り付く彼はまだ小さくて、ちょっと安心した。

母心って、フクザツ。


ひらひらと手を振って行く君の道

広がる海を私は知らない


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