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父の男厨カレーとダールの魔法の薬

男子厨房にいる!という言葉が今ほど流行ではなかった
ウン十年前に父が腕まくりをして作ってくれたカレーは
旨くて、辛すぎて子供には微妙な味だった。

なぜかその場のノリで作った今日のカレーは
懐かしい父の男厨カレーの味がした。
料理モードは全然ゼロだった今日の夕方、
なぜ面倒な男厨カレーに発展したか?
というのは、
息子と読んでいる、ロアルド・ダール作の
『ぼくのつくった魔法のくすり』のなせる業だ。

おそらく二度とは再現できない、今日のカレーの味の記憶と
ふっと浮かんだ先の思い。
恐ろしく大雑把なレシピのメモとともに書きとどめよう。


母の不在時の腕まくり ”父の男厨カレー”
父は、昭和一桁生まれ。
バリバリの戦前生まれで、今から考えると古生代の生き物に属するような
頑固で偏見に満ちた人だが、
なぜか母不在になると台所で変な腕を振るってくれた記憶が残っている。

ふと、カレーのことを考えているともっと古い
”味”の記憶がよみがえってくる。

あれは確か、私が3歳か4歳ごろのはずだ。
弟と私、そして父の三人での留守番の記憶だ。
簡素な台所で、父が腕まくりをして作ったのは、なんとイカの天ぷら!
それも、大皿にこれでもか!ドカーン!というほどの山盛り。
副菜、飾りつけは一切なし。
しかし、昭和一桁の、それも九州男児だったことを考えると
料理に関しては ”やればできる”人だったのかもしれない。

さて、カレーである。
父のカレーは、男厨料理の御多分にもれず、
”時間”と”コスト”、それに”手間”がかかるそれである。

スパイスをそろえ、小麦粉を炒めてルーをつくる。
すべての野菜は、あらかじめ素揚げをして崩れないように整える。
そして肉は牛肉の角切りときた!
高々カレー。されどカレー。
父は、教えてもらった通りのすごく辛いスパイスのきいたカレー。

母の作るインスタントカレーになれた口には少々上等すぎたが
それでも父の熱意と不器用さは子供心に伝わってきた。
子供の味覚には、辛すぎて口の中がしびれていたが
「おいしい!」と我慢して残さず食べたものだ。

こんなに色鮮やかではなかったが、カレーの”よそ行き感”はこんな感じ♪♪


父がこの男厨カレーに目覚めたのは、母がお産で不在。
長女の私もまだ幼く料理は下手で、
何とかしのぐにはという必要に迫られて父の友人が伝授した作り方だった。
(ちなみに、その時すでにスーパーには”ハウスバーモントカレー”や”ジャワカレー”などなど、いたって簡単30分で完成の品々はたくさん並んでいましたが。。。)


さすが、昭和一桁の男ども。
伝授するほうも、されるほうも、かなりピントがずれているってのは、
まあ、ここでは置いておきましょう。(笑)

ダールの魔法のくすりのノリで作るカレーレシピ

そもそも、きょうの料理開始のテンションはとても低かったのだが、
直前に読んだ本が、上の写真にあるダールの『ぼくのつくった魔法の薬』。
ロアルド・ダール著 ぼくのつくった魔法のくすり


意地悪で頑固なグランマと住んでいる男の子が
おばあさんをギャフンと言わせようと、
家じゅうの変なもので魔法のくすりを作るというお話。
カレー粉やら、チリソース。
歯磨き粉やら、トニックやら。
禁断の物置の怪しげな缶や瓶を
次々にシチュー鍋に入れて 最後にはペンキまでぶち込んで完成!

これを飲んだグランマは、天井を突き抜けてドンドン大きくなり
びっくり仰天。
ニワトリに飲ませると、ニワトリも巨大ニワトリに変身!

羽目を外した少年の ”まほうのくすり”の材料に大笑いしながら
夏休みで暇を持て余す、息子と読んだのだ。

あまりにぶっ飛んだお話の内容に、
食事を作るという日常モードは、低調だった。

しかし、せっかく息子が暇をしているのだから
大昔食べて以来、なかなか子育て中には作ったことのなかった
父の男厨カレーをまねしてみよう!
発想を変えたところで変なスイッチが入った。
途中からは、日ごろは入れないスパイスや
フードプロセッサーを使って”トマトベースのカレールー”を
作り出したあたりから妙に楽しくなってきた。

台所と冷蔵庫の中にある材料で実験のノリで作ったので
ルーの作り方は父のカレーとは全然別物!
でも、最近は待っている野菜ピューレのソースは
かなりいい味が出るのでお勧めです!

<トマトベースのカレールー 材料>
・トマト  5個
・玉ねぎ  1個
・ニンニク 大2片
・クミンシード 小さじ
・ターメリックパウダー 小さじ2
・玉ねぎパウダー    大匙1
・コリアンダーパウダー 小さじ2 
・海の塩(バリ島のクサンバソルト)小さじ2
・エシャロット(バリ島ではバワンメラーという小さい赤い玉ねぎ)
・カレーパウダー     お好みで
・粉末のカイエンペッパー お好みで
・隠し味 フルーツジャム  大匙1
・ココナッツオイル     4分の一カップ
 ・バリ島のローカルカレー調味料 一袋
 (きょうは、マンゴーの食べ残しがあったので、いれました。)

上記の材料をジューサーあるいは、フードプロセッサーで『ガーッ』と
混ぜて、ピューレ状にする。
そして、小鍋に入れて煮立てる。

<野菜>
・ナス         大2本
・かぼちゃ       八分の一ぐらい
・玉ねぎ        大1個
・そのほか、お好みでニンジン、オクラ、レンコンなどもおいしいですよ!

それぞれを好きな大きさに切って、素揚げをする。

冷蔵庫の中から、塩豚の残りとつけ汁(みりん、しょうゆ、酢が少々)
が出てきたので、
これも最後にトマトベースのカレールーに加えてさっと煮込みます。

ちなみにご飯は、
ベジタリアンの友が置いて行ったブラックキヌアを入れるのが
我が家の最近の流行です。
プチプチして癖になる触感!

懐かしの父の男厨カレーに比べると
マンゴーと塩豚のみりんが効いて、フルーティーで甘め。
一瞬、バーモンドカレーを上等にしたような味を思い出しました。(笑)
しかし、生のショウガのスーッとする後味とスパイスのミックスが
一口の中にいろいろ混ざって癖になる味でした。

この不思議なカレートマトソースを、
トロリとした揚げナスに絡めて食べると旨いこと!うまいこと。

『でも次に作っても、絶対同じ味にはならない自信と確信がある!』
と私。
『そうだね。絶対そうだ!お母さんのごはんはいつもそうだ!』と息子。

味とともに残る親の記憶
ダールのお話で少年が作り出した魔法のくすりは
二度と同じものは作れずに
お話の最後はちょっぴりしんみりする結末に。

ニワトリが大きくなったのを見た少年の父親が
もう一度同じ薬を作ろうと何度も試行錯誤。
大きくなる薬のはずが、小さく縮む薬になってしまい
間違って飲んだ意地悪なグランマがどんどん小さくなって
最後には目に見えなくなって消えてしまうのです。

実の母を突然、魔法のくすりで失った少年の母の慌てよう。
悲しみよう。
そして案外あっさりと立ち直ったと書く作者のさりげなさ。

カレーを食べながら
いつか息子が私のように、
このカレーと母親を思い出す日があるのかな?
その時は、
この話のグランマのような意地の悪い年よりになっているのかも。
あるいは、もう薬を飲んだあとのグランマのように
小さく、小さくなって消えてしまったあとだろうか?
願わくば、私が消えるその時に、
息子がこの話の中の家族のように面白い家族に囲まれて
案外すんなりと『これでよかったのかもしれない』と
親の消失を受け止めてくれるといいな。
甘くて、辛くて、スーッとして。かなり癖のある親だったと。
そんなカレーの味と一緒に思い出してくれればよいなと。


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