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そらに浮かぶ【創作ものがたり】

ふぅ。

まだ新米の天使は池のほとりから人間の世界をのぞきこみながら小さく息をつきました。

彼女はつい最近、人間界からこちらに自分の意思でやってきたばかりなのです。

あたたかい紅茶をひとくち飲んでからまた池をのぞきこみます。

何か気になる事でもあるのですか?

お釈迦さまに声をかけられて天使は顔をあげました。

妹の事が気になるのです。
わたくし達は生まれた時からずっと一緒にすごしてきました。
さみしい思いをしていないかしら。
わたくしの事を心配していないかしら。

おやおや。
貴女が妹さんの事を心配しているのですね。

お釈迦さまはそうおっしゃると蓮の花にそっと手を触れられました。

おひさまに照らされて精いっぱい咲いているお花のような笑顔をしたそっくりな2人の女の子の姿がお釈迦さまの目の前にあらわれます。

嗚呼、貴女と妹さんは本当に仲のよい姉妹なのですね。
貴女はたった一人でこちらへやってきた強さと勇気のある方ですのに妹さんの事となると…
それほどに大切な姉妹なのですね

お釈迦さまの優しい眼差しを真正面から受けた天使は頬をぽっとあからめました。
その様子もまたほっぺたにお花が咲いたようであたりの空気を更にやわらかくなごませるのでした。

天使は人間の世界にいた頃、歌ったり踊ったりお芝居をしたりするのが大好きな女の子でした。
大好きな妹といつも一緒に歌って踊っていました。
そしてその歌や踊りを見た人たちが嬉しそうに拍手をしてくれるといつも幸せな気持ちでいっぱいになりました。
素敵だったよ、と声をかけてくれたりお手紙をくれたりする人たちにもっと楽しんでほしい。
そう思うとお稽古にも熱が入りました。

ある日のことです。
お稽古を終えてふと夜空を見上げると見たこともないくらい大きくてまんまるなお月さまが浮かんでいました。
お月さまの世界はどんなところなのかしら。
女の子が思わず身を乗りだすとからだが宙に浮かびました。
その瞬間、女の子はオーロラのようなものに包まれて神さまの世界へとやってきたのです。
オーロラかと思ったのは天女さまの羽衣でした。
天女さまの羽衣にやさしくつつまれてまどろんでいると周囲でうつくしい音楽が奏でられているのが聴こえてきました。
天女さまは女の子をやわらかな光の上に横たえるとうつくしい音楽とともにそっとその場をはなれました。

目を覚ましてから女の子は自分にも翼があることに気がつきました。
今までよりもっと軽やかに踊れるようになって天使になったばかりの女の子はふわりふわりと嬉しそうに踊り続けています。

妹と一緒に踊りたいな。
応援してくれているみんなにも見てもらいたいな。
人間の世界のみんなはどうしているのかしら。

天使になった女の子は池のほとりから人間界の様子を見てびっくりしてしまいました。
みんな女の子が急に天使になったことに驚き慌てふためいて大騒ぎをしていたのです。

わたし、今も踊っているし歌も歌っているのよ。
いつもみんなと一緒にいるの。
ここにいるの。
ここにいるのよ。

ですからどうかみなさん、女の子に会いたくなったらそらを見あげてみてください。
満開のお花のように朗らかな彼女の笑顔にいつでもあえるのですから。
そしてそらを見たらそこに明るい歌と踊りが大好きな天使がいることをどうか思い出してくださいね。


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