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lesson 2 文殊の知恵

 Twitterで朝8:30から30分やっている「こびナビspace」を、最近よく聞く。子供を送り出し朝の家事が一段落ついて、ちょうど自分の朝ごはんのタイミングで、ラジオ代わりに聞いている。若いお医者さんたちが、気になるニュースを取り上げて解説してくれる。情報もアップデートできるし、何より楽しい。

 「こびナビ」はTwitterによってつながった若いお医者さんたちが「インフォデミックが懸念される時代、医学的・科学的にちゃんとした情報を届けなくてはいけない」という志を持って立ち上げたものだ。

 コロナ禍になりTwitter上でそれぞれに発信していた方々がつながっていくところから、情報発信する会を立ち上げますよ、こんな活動しています、まで、リアルタイムでほぼすべて見てきている。まるでドキュメンタリー映画を観ているようだ。親しみやすさのための、エンタメ性も有している。

 お医者さんたちは(宣伝のつもりではないので、あえて名前は出さないが)、本当にそれぞれ、専門があり、診療があり、研究があり、真摯に医療に従事している。私自身は、情報の渦にのまれ溺れそうになっていたところを彼ら若き医師たちの情報発信に救われたので、非常に感謝している。ありがとう、こびナビに携わるみなさん。

 いつも面白いのだが、専門的過ぎて難しい回もあったり、スピーカーの数がいても話者がひとりで終わる回もある。今日の「space」は面白かった。前半はデルタ株に関するトピックスで、デルタ株の伝播性は上がっているが、ファイザー社のワクチンは効果が高いという話と、後半はヒトゲノム情報から「2万年前のアジアでコロナウイルスのエピデミックがあったようだ」という過去の人類と感染症の闘いの痕跡がわかるという話。

 この、過去の人類と感染症の歴史の痕跡が、ヒトゲノム情報からわかるというのはとても興味深かった。英語の論文を読んだ先生がトピックを立ち上げたのだが、それに対し、まるで「三人寄れば文殊の知恵」をまざまざと見せられるがごとく、他の先生たちの博識がさく裂してくる。ひとつの英単語から論文の核心に迫ったり、今回の新型コロナは古い漢方学の書籍の中にも出てきているかもしれないと言われている話になったり、最後は日本の神話の話で終わった。

 この日本の神話の話がたまらなく面白い。日本の神話というのは世界の神話の「吹き溜まり」のようになっている、ギリシャの話もあれば東南アジアから来た話もある、と、いつも「古事記を医学的に解説」してくれる先生が熱く語っていた。比較神話学という学問もあるらしい。先生は米国で働いていて「古事記の神話医学的視点から」という論文も書いていらっしゃる。この論文、YouTubeで少しだけ紹介されていて、それを見てから是が非でも読んでみたいと思っているのだが、専門雑誌にしか載っていない論文でもちろん英語なので、いつか日本で書籍になる日を心待ちにしている。

 文殊菩薩は知恵をつかさどる仏様。「三人寄れば文殊の知恵」は、もともと、「平凡な人でも三人寄ればすばらしいアイディアが浮かぶ、知恵が出る」といった意味だが、彼らは誰もが、まったく平凡ではない。専門知識と技術と経験を有し、外国に活躍の場を求めたり、国内で医療に従事している方々だ。その非凡な彼らが三人寄れば、文殊菩薩さまが三尊にも匹敵するかもしれない。必ずしも、もとから仲良しの仲間で立ち上げたものではなく、目的と信念をもって集まった方々だ。そんな方々が協力し合っているのを見るのが、私の最近の楽しみでもある。

 コロナ禍の情報発信というのはセンシティブなものを孕み難しい。公に出ればれるほど、様々な悪意にもさらされて大変な側面もあるようだ。皆さんの強い意志に頭が下がる思いがする。

 そして私は明日もきっといそいそと、「space」を聴く。

 

 

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