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lesson 11 フィリップ

 私にとって菅田将暉さんは、『仮面ライダーダブル』のフィリップだ。

 そういう方は実際のところ多いと思うのだが、これを聞くと菅田さんご本人はどのような気持ちになるのだろうか。デビュー当時(これが本当のデビュー作ではないらしい)の役柄というのは、思い出深い反面、複雑な気持ちになるものかもしれない。

 『仮面ライダー』は私にとって非常に大切な作品群だ。

 子供の頃は『仮面ライダーアマゾン』くらいしか観たことが無かった。再放送される最初の『仮面ライダー』は子供心に怖かった。「恐怖!」というタイトルでもう、腰が引けていた。1号ライダーの頃の怪人は今観ても怖い。

 尊敬する原作者の石ノ森章太郎先生はもちろん有名で『サイボーグ009』も知っていたが、『HOTEL』がドラマ化されたときに実は原作者だったと認識したくらいで、リアルタイムで連載を読む漫画家さんではなかった。昭和の子供は玩具やメディアコンテンツにおける男女の棲み分けが無意識にあったので、『仮面ライダー』や『ウルトラマン』は男の子のもの、と、親子ともに認識していたから、あまり触れる機会がなかった。

 子供が男の子とわかったとき「ああ、仮面ライダーやらウルトラマンやら、暴力的なものを視るのか~嫌だなあ」と思った。その程度の認識しかなかった。

 『仮面ライダーダブル』は、ちょうど子供が生まれたときに放映されていたが、リアルタイムでは観ていない。私が『仮面ライダー』を観たのはタイで、子供向けのコンテンツを探していた時に、「そうだ男の子なんだから『仮面ライダー』でも観てみようかな」と軽い気持ちでレンタルDVDを借りてきたのがきっかけだ(タイのDVDレンタルについてはいずれ『駐妻記』でお話しようと思っている)。

 何を観たらいいかわからなかったので、とりあえず『ディケイド』を借りた。平成ライダー10年を振り返るというので、それが面白かったら「本編」を観ればいいかと何かダイジェスト版でも観る気持ちで借りた。ちなみに『ディケイド』はダイジェスト版ではない。オリジナルに出ていた出演者も時折出るが、すべてディケイド独自の物語だ。

 『ディケイド』からの仮面ライダーファンは、コアなファンの方からは「にわか」と忌み嫌われる。私は『ディケイド』は確かに商業主義的でカッコ悪かったかもしれないが、画期的な仮面ライダーだったと思う。誰でも最初に観た仮面ライダーは忘れられないものだ。

 数年前にラグビーが盛り上がったときによく聞いた「にわか」。私は、たとえそのアーティストの、たった1曲だけが好きだったとしても、それがずいぶん後から知った曲だったとしても、とても愛していたならそれは立派なファンじゃないかな、と思う。

 さて私は『ディケイド』を観て衝撃を受けた。なんて面白い「物語」なんだと思った。それは個々の内容のことではなく「仮面ライダーという存在」の物語の魅力だった。すごい、石ノ森章太郎先生はやはりすごい。と思った。それまで別に気にならなかったGACKTさんまで好きになるほど、夢中になってしまった。翌日DVDレンタルに駆け込んで、そこからかなりの時間を費やし、『クウガ』から平成ライダーのほぼすべてを観た。リアルタイムの放映は妹に頼んで録画してもらい、送ってもらった。

 息子はそれなりに「へんしーん」などの反応をしていたが、私ほどはハマらなかった。彼は『ウルトラマン』のほうが断然好みだった。私は『ウルトラマン』も好きだったが、やはり何はともあれ、『仮面ライダー』。今でいう「推し」だった。

 さすがに男の子のママ友でも共感してくれる人がいなかったし、男の子のママ友は「あんなのばっかり見て、本当に嫌」という人も沢山いた。稀に好きだという人がいても「主演の男の子がかっこいいよね!でもずーっと仮面ライダーの話はできないな」と言っていた。それはそうだ。私はずっと仮面ライダーの話をしていたかった。誰かと熱苦しく語り合いたかった。そのため、常に不完全燃焼な思いを抱えていた。

 再三noteに書いているのですでにご存じの方もいるかもしれないが、私はタイにいる頃少々病んでいた。心が非常に脆くなっていて、ニュースやドラマが見られなくなっていた。個々の事象に強く心を刺激されてしまって、涙が出てきたり動揺したりしてしまう。映画も本も、すべてのインプットができなかった。コップに水がいっぱいで、表面張力になっている状態だったのだと思う。

 そこに『仮面ライダー』はすっと入ってきた。もちろん当初は「子供のため」という名分により視聴する、という意味でハードルが下がっていたのは確かなのだが、「リアルではないお話」「優しく傷つけないお話」ならほかにいくらもある。なぜ「暴力的」「怖い」というイメージがあった仮面ライダーが最も心に届いたのかわからない。

 その後何かの雑誌かネットで「ウツのときは大人でも仮面ライダーやウルトラマンをよく見る傾向がある」と読んで、びっくりしたのを覚えている。どこでみたのかも出典もなにも覚えていないのでそれが確かな情報かどうかは怪しい。のちに探してみたが、そういう記事を見つけることができなかった。私の思い込みだったのかどうかすら今となってはわからないが、その時は「ああ、そうだったのかも」と腑に落ちた。そんな時でなければ、あんなに集中して10年分以上のライダーを観ることができたかどうかわからない。子供を送り出して帰ってくるまでの間買い物や家事以外の時間、仕事のように観た。30分番組1年間約50週だ。今思い出してもすごい情熱だ。そしてどれほど引きこもりだったのかもわかる事例だ。笑

 さて、そんな中で観たのが『ダブル』だ。

 『ダブル』は私の中でオススメ第2位だが、誰かに「どのライダーから観たらいいかわからない」と言われたら(そんなことを聞かれることもめったにないのだが)「絶対ダブルから観た方がいい」というようにしている。

 ダブルは構成上よく練られていて物語として素晴らしい出来だと思う。主演のふたりはもちろん、各エピソードで出て来る女優さんも魅力的で、敵役のラスボス寺田農(てらだ・みのり)さんもいい。ストーリーを語りだすととても長くなるので割愛するが「ヒーローであり敵の仲間」という仮面ライダーとしての最重要ポイントの設定もいい。悪の組織が現代風刺なのもよい。最終回は泣く。マジ泣きしている主演二人にも、ストーリー展開にも泣く。大人要素と子供要素のまじりあいのバランスが良く、大人も子供も楽しめる。

 はっ。菅田さんの話をする前置きに、これほどの文字数を費やしてしまった。とりあえずここまでで仮面ライダー愛が少しでも伝わったのであれば嬉しい。

 菅田さんは、その『ダブル』で主演のひとりをつとめた。『ダブル』というのは、二人そろってひとりの仮面ライダーになるという意味だ。精神的片割れと言っていい。いままで考えたこともなかったがもしかしたらBL好きも萌えるのかもしれない。16歳の謎の少年「フィリップ」の役を、菅田さんは活き活きと演じていた。ダンスも踊る。歌も歌う。なんて芸達者な人なんだ、と思った。

 『仮面ライダー』は1年かけて大河のように撮影に拘束されると聞いたことがある。デビュー間もない役者さんには演技や業界を学ぶ場でもあるという。新人俳優の登竜門と言われるゆえんだ。しかし「特撮ヒーロー」という子供向けのコンテンツのため、あまりアーティスティックではない。「特撮ヒーロー」であったことを恥じて芸歴を隠してしまう役者さんもいるという。最近は、佐藤健さん、竹内涼真さん、松坂桃李さん、志尊淳さん、磯村勇斗さんなど、特撮からぐんぐん人気俳優になる例が続出しているから、昔ほどの偏見にはさらされないのかもしれない。

 菅田さんの出るものはできるだけ観るようにしていたが、あまりにも出演作が多くなってもはや追いきれない。相棒の桐山漣さんのことも、だから私は同じように「左翔太郎」として愛している。桐山さんが出演するドラマなども極力観る。テレビに菅田さんが出ると「フィリップ~」というし、桐山さんが出ると「翔太郎~」という。彼らにとっては「もう忘れて…」なのかもしれないが、私は役としてのフィリップと翔太郎にも助けてもらったので恩は忘れない。二人とも頑張っているのを母のように嬉しく思うし、おばのように応援している。一種、身内的に熱く応援している。

 そのようなわけで、菅田さんの出ているドラマや映画はだいぶ観ているが、残念ながら私の設定した文字数はゆうに超えてしまった。可能ならばそれについては第二弾として語ろうと思う。

 ところで、ここ最近のライダーは残念ながら続けて観ることができない。心が離れたのか、内容によるものか分析もしていない。ちなみに、私の仮面ライダーオススメ第1位は『電王』だ。これはたぶんに私の個人的な思い入れであることをお断りしておく。

 

 


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