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乳癌になった話 その9

手術の当日の朝は絶食だった。
水も7:00までと決められていた。


あんなに「トンデモ医学」に関して拒否したが
直前の旅行で汲んだらしいフランスのルルドの聖水を
父親が夫の職場に持ってきた。
「手術の前に飲むように言って」と伝言があったらしい。トンデモ医学!母親じゃなくて父親かよ!


藁にもすがる想い……やだ怖い。
医師でも非科学にも頼ってしまうのか。


父と母は夫に「乳癌見つけてくれてありがとう」と
何度もお礼を言って私を見ると泣くかもしれないから
そのまま帰ります…とルルドの聖水と赤福を預けて帰って行った。


私も泣かれるのが一番イヤだったので、
会わずに帰ってくれたことに内心ホッとしていた。


そんな「ルルドの聖水」
手術の直前に飲むか飲まないか……マリアの描かれたプラスチックの容器を手にしばらく眺めながら、
親孝行だと思って飲むか…と少しだけ口にした。
水だけど腐ってナイヨネ……という疑念も多少あったからだ。手術中に知らずに下痢とかまじ萎える。


手術は二ヶ所、
左胸の全摘手術と子宮頸部円錐(えんすい)切り取り手術


胸の全摘手術が終わったあと、
寝ている間に勝手にパンツ脱がされて子宮頸部切り取り手術をしてまた勝手にパンツを履かされているらしい。その為、大きなパンツを持ってきて下さいという指示があった。


病気になって捨てたもの。
「羞恥心」
渾身のデカパンを買って履いて臨んだ。


「麻酔かけますねー」の声かけから、すぐに肩を叩かれて「起きてください」と何度も言われたので
まだ寝てはいけないタイミングで寝たのかな…と思い
「今からですか?」「寝たらダメだったですかね?」
と言ったら、A先生が
「もう終わったんですよ!ほら!ご主人!ご主人!」
と夫が視界に入るように引っ張ってきた。


先生は
「手術ね、簡単だったよ!」と笑顔でおっしゃる。
そういえば私のような痩せ型の人は手術簡単で傷の治りが早い…って言ってたなと思い出した。
要するに貧乳だと取る部位も小さくて済むし、
余計な脂肪がない方が傷の治りが早いらしい。
ビバ!貧乳。貧しい乳と書いて貧乳
私の人生の貧乳で得したことのナンバーワンに固定しても良いだろう。


「へ?」
というのが正直な感想である。
痛みが全くないのに終わった?終わったのか?
病室に連れ帰ってもらっても半信半疑だった。


手術の後は足にはエアポンプつけられ、
胸からは体液と血液を出すドレーン、
尿の管、点滴、指に酸素量を測る機械と
仮面ライダー1号、本郷猛よろしくいろんなものに繋がれていた。


私は動けないので、
夫に「ちょっとさ、胸の手術あと見てみてよ!」
と言うと「おう」と覗き込む夫。


「おおー!」と感心したあと、
「めっちゃ綺麗に縫われてる!かっこええな!」
と言う。思えば出産の立会いもエンジョイし、
嫁の乳が無くなっても特になんの変わりもない。
乳房再建をするかどうかを話し合う時に、
「乳がミホなんじゃない、ミホに乳がついてただけ」という名言を残した。


この人スゲエな…と思った。

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