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『20年後のゴーストワールド』第1章・私のシーモア(1)最悪な大晦日

時は2023年12月31日。
大晦日の夜、とあるおじさんに
「ナチュラルに人を傷つける天才ですね!」と言った。

もちろん言いたくて言ったわけではない。
厳密に言うと、面と向かって言ったわけでなく、LINEの文面で送った言葉だ。

「ナチュラルに人をイラつかせる天才」と一瞬迷ったけど、一応瞬時に気を遣った。厳密に言うと相手をイラつかせて傷つけてドン引きさせて、自分はまるで気がついていない状態。この発言に至るまで、私は大晦日の仕事終わりに好きなバンドの年越しライブを観てなんとか気を紛らわせようとしたが、おじさんとやり取りしていたLINEの文面にどうもムカついて、そのムカつきで年を越す最悪な気分に耐えられなかった。来年おじさんと関わる人の顔が頭をよぎって悪い予感しかしなかったので電話した。細かなニュアンスもLINEの文面だと難しく無駄に差し障る恐れがあったから電話が良かった。文面での相互理解はこんなに難しいものなのだろうかと思いながら。しかし相手が電話に出ることはなくLINEでのやり取りになった。

私からの電話を受けて(返信は毎度瞬時にくる)
「何?どうかした?(笑)」とおじさんから返信が。
「電話したかったんです」と切実な思いで打った。そこで電話をかけ直してくれていたら、未来は少し違ったかもしれない。

おじさんからはこう返信がきた。
「何彼女みたいなこと言って(笑)」

今でもLINEのこの文字が、たった一行の文面なのに、文字なのに言葉がスローモーションで迫ってくるように再生されて頭から離れない。なんで男性が投げかけて、こちらが「はっ?」と思う言葉はスローモーションに聞こえるのだろう。それは忘れたいのにこびりつくのだ。時折り脳内再生されてヒャーとなる。このおじさんに関しては百恵ちゃんのちょっと待ってプレイバックが何度あったことだろう。プレイバックPart.♾️である。

絶句しながら、私はさきの言葉を言ったのだった。
その一週間前ほどに事件が起きてから、このやり取りを経てこの言葉に至った。
「ナチュラルに人を傷つける天才」
いやナチュラルに人をドン引きさせる天才の方が合っているか。その天才が20年後のゴーストワールド、私のシーモアである。

※シーモアは映画『ゴーストワールド』に出てくるスティーヴ・ブシェミ演じる冴えない非モテのレコードマニアの中年男。自称「異星人」

脳内BGM
おとぼけビ〜バ〜/パードゥン?

書き始めた時の設定メモ

この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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