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8_チョコレート嚢胞だった

私生活で色々ありすぎて、投稿がすっかり遅くなってしまいました。

今回は最悪だったイタリアでの1週間を振り返る内容になりますので、ご興味ない方は今回は飛ばしていただいて、次回「イタリアで検査することになった」内容からお読みいただければと思います。

8月。急遽イタリアに行くことになった。夏休み中の彼がイタリアの彼の地元にいる間に、ホリデーを一緒に過ごそうと誘ってきたのだ。ロンドン出張があるけれど、8月頭には戻れるから、一緒に過ごそうと。

こちらはお盆前の繁忙期。航空券代も高騰してる。最初はチケットの高さを理由に断っていた。…と言っても単にNOと言っても聞かない人なので、上司に聞いてみる…とごまかしていたのだが、今回、彼はしつこかった。折にふれて「上司に聞いた?」と確認してくる。

仕事漬けで家に缶詰の日々。このへんで気晴らしも良いかも。今後の二人の方向性を、直接顔を見て話せるいい機会かもしれない。用意していた婚姻手続きの用紙にサインももらえる。

婚姻関係の話を詰めること、一緒に市役所に行くことを条件に、一番安いチケットを探して取った。8月5日、金曜日の夕方成田発のフライトで、インチョンで15時間(!)のトランジット。彼の地元の空港に着くのは土曜の深夜。実質6日間を一緒に過ごす予定。お盆前になんとか重い仕事は全部終わらせた。彼と私の間にまたがる重い問題は今回はひとまず横に置いといて、シンプルに休暇を楽しもう!そんな気持ちで空港に向かった。

二人の関係がすれちがっている象徴のような出来事が起こったのは、私が成田に着いたときだった。チェックインを済ませ、搭乗ゲートの待合いの大きな窓の外、飛行機が青空を背景に並んでいる。ホリデーだ!テンションあがる。写真を撮って「成田に着いたよ。今から向かうからね!」と彼にメッセージを送るとすぐに、彼から電話が。

実は私のイタリア到着の前日にロンドン出張から戻る予定だったのだが、同僚が足の骨を折って?代理のスタッフが必要になり、どうしても帰れなくなったとのこと。イタリアに戻れるのは火曜日の昼過ぎになると。

絶句だった。クソ高い航空券を取って、一緒に過ごせるのは実質3日ほど…。彼のせいではないとは言え、一気に気持ちがしぼんだ。私はイタリア語が話せないし、彼のご両親は英語がまったくできない。長引く遠距離恋愛を私だけのせいだと思っていて、私をよく思っていないご両親との3日半は気が重すぎる。それに、このぶんだと市役所に一緒に行く約束も履行されるか雲行きが怪しくなってきた。彼にとって最もめんどうなことを、優先するとは思えない。

そのあともトラブルは続く。ローマから彼の地元の空港までのチケットは彼に代理で取ってもらったのだが、その格安LCCは事前のチェックインが必須。私は以前そのことを知らず、この航空会社を利用して事前チェックインをしないまま発券カウンターに向かってしまい、Wi-Fiもないチェックインカウンターで冷たい係員を前に飛行機に乗り損ねそうになるという失敗経験があったので、確実に事前チェックインを済ませておきたかったのだ。

不安定なインチョン空港のWi-Fiを頼りに、事前チェックインがオープンするや彼に電話し、今すぐチェックインをしてと頼んだ。ロンドン出張中でバタバタしているだろうから、連絡がつく間に早めにチェックインを済ませておいて欲しかった。Wi-Fiルーターも持っていなかったので、彼にお願いするしかない(いまさらながらの教訓だけど、短期の海外旅行ならWi-Fiルーターのレンタル必須だな)。

彼は「そんなに焦らなくても大丈夫、やっておくやっておく」といつもの調子でいる。以前トラブルがあったので、早くやって欲しいと頼むと「どうしていつもそうやってストレスを抱えてるんだ」「プレッシャーを与えないでくれ」とか言ってのらりくらりしている。いつもこうだ。大事なところをいい加減にする。私が怒ると「やっておくよ」と半ギレで電話を切った10分後。彼からコールが。

「ワクチン接種を証明するQRコードをアップロードしなきゃいけないんだったわ。送ってくれる?」

は???そんなの知らなかった。彼は自分のロンドン出張の時に同じ航空会社で手配していて、ワクチン接種証明のQRコードをアップロードしなければならないことはよく知っていたはずなのに、私の時にはそれを忘れているとは。いつも、早め早めに行動する私をうっとおしがりながら、こうして大事なところで大失態するのが彼なのだ。つまり彼は、自分に関わる以外のことに無関心なのだ。怒りで頭痛がしてきた。今度はいそいで母にLINEをして、私の部屋の本棚にあるワクチン接種関連のファイルにあるQRの写メを送ってもらった。

これでなんとか事なきを得たが、私に対する思いやりのなさに怒りがおさまらない。私が今回みたいに頼れる実家もなくて、一人暮らしをしていたとしたら、どうしていたつもりだろう?母を巻き込んで慌てさせ、心配させてしまったことが心底申し訳なかったし、彼の無責任さに涙が止まらない。もう引き返して帰りたい気分だった。

彼の実家に着いても地獄は終わらず。過去にも、彼本人が不在で英語のしゃべれない両親の間に何日も一人で取り残されたことが何度もあるのだが、私のことをよく思っていない両親二人に囲まれて、今回は一番きつかった。彼ママとパパの怒りが爆発するのは時間の問題だった。3年にも及ぶ遠距離恋愛を「どーなっとんじゃワレ」と思っており、何度も渡欧して短期滞在してはまた日本に帰国してしまう意味不明な彼女はお断り!息子をもてあそぶなという強い意思を感じた。

今回、市役所に取りに行く書類と手続きの段取りを彼のためにわかりやすくイタリア語で書いた紙を彼ママに見せると、眉間に皺が…。嫌な予感は的中。スマホで何か打っている。グーグル翻訳だ。パッと見せたスマホにはこう書いてあった。「そんな手続きよりも先にやることがあるんじゃないの?何度か息子に会いに来ては帰国してしまって、ずっと離ればなれ。愛する人と男友達とを混同しているのでは?」

絶句だった。完全にすれ違ってるし、彼ママがそう思っているということは、彼も込みで家族全員がこの状況を私のせいだと思っていることは明白だ。ビザ手続きさえ済めば一緒にいられるのに、彼がなぜかそれをしようとしないのだし、私にはどうにもできないことをわかってもらえていない。

日本人である私が海外で彼と一緒に暮らすにはビザが絶対条件だということを理解しない彼とその家族。どんなに昔の思い出が美しくても、どんなに彼がいいやつでも(いいやつではあるのだ)、これって私だけの力じゃ無理だ。彼を説得する言葉も出尽くした。そしていつも感じるのは、言葉で伝えれば伝えるほど、「そのビザっていう言葉聞くのすごい嫌だ」つまり、ビザ欲しさに結婚したいのか?というニュアンスをにおわせてくる。もう、無理だ。結婚にそんなに抵抗があるならば、私が現地で仕事をみつければいいと思うだろうが、ビザがなければ仕事すら探せないのだ。

ずっとこの不毛なビザ問答が私たちを隔てていて、そして今年になってチョコレート嚢胞がわかり、卵巣と卵管を切除することになった。正直、彼と日本で一緒に暮らしていた2016年から2019年までの3年間、40歳になるちょっと前までは、当時ですら高齢出産にあたる年齢ではあったけれども、子供ができたら頑張って育てられる自信があったし、子供はどうしても欲しいわけではなかったけれど、愛する彼が子供が欲しいのであれば、頑張ってみようと思えていた自分がいた。

しかし、長引く遠距離恋愛の間に私も歳を重ねてしまい、来年43歳だ。リスクでしかない。そして私はまもなく右の卵巣と卵管を失うのだ。どう考えても、できれば子供がたくさん欲しいという彼にとっての相手は私じゃないし、私にとっても「愛ってなんだっけ?」と冷えた心を抱えて見知らぬ海外で生きるのは辛すぎる。彼には守ってもらえない。誰にも守ってもらえない。自分のことは自分で守らなければ。そして、パートナーがいるのに、困ったときに守ってもらえないかもしれないって、一緒にいる意味ないよね。

彼ママとのあの一件のあと、私はすっかり意気消沈してしまった。その日の夜、地元の夏祭りに連れていってもらったのだが、なぜか声が出ない。笑おうと思っても笑顔が出ない。重度のショック状態だったのだ。

夏祭りは人だかりだった。コロナ陽性になってしまったら帰国できないので密が怖くて、マスクをしたが、夏祭りにマスクで来ている人なんてほとんどいなかった。この地ではもうみんなコロナのことなんか忘れ去っているようだった。葬式のような暗い表情でマスクをし、パパが屋台で買ってきた固いパニーニを食べたけれど、座ったベンチが傾いて、パニーニから具がほとんどこぼれ落ちてしまった。笑顔も会話もない地獄の時間がただただ過ぎていった。

そのあと、街を散歩しているとパパが急にそこらにあったベンチに腰掛けて私に向き合った。「お前さんはどうしてママに電話をもっとかけてやらないんだ?下の子を亡くして(2021年6月彼の弟が事故で急死)、我々の生活は180度変わってしまった。昔みたいに馬鹿なことしてふざけて笑ってられないんだ。もっと気にかけてやって電話してやれ。どうして電話しない。そういうの俺は大嫌いだ」強い言葉だった。彼は南イタリアのド田舎の土着の人で、もともと言葉が直接的で強い人だ。でも、こんなにストレートに強い語調で言われたのは初めてだった。ママを見ると涙を流している。もう、気持ち的には地の果てだった。ごめんなさいと謝るしかなかった。わざわざ休暇を取ってきたのに、全然ウェルカムじゃないのは肌で感じた。

やっとロンドン出張から彼が戻っても、私の落ち込んだ気持ちは戻らなかった。役所に行く話も、手続きの話も、やっぱり全然聞こうとしないのだった。

ところで彼が、彼ママに頼んで、地元の婦人科クリニックを予約したとのことで、イタリアで卵巣の検査をすることになった。

やらなきゃいけないことは何もしないくせに、余計なことはやるんだな。彼の両親にガン詰めされた過度のストレスが原因か、寝違えたように首が回らないし嘔吐が止まらなくて、クリニックはキャンセルして欲しいと頼んだが「ママが予約してくれたのに何言ってんだ」と一蹴されて、体調絶不調の中、クリニックに行くことになった。

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