「好き」という言葉のパワー
「好きだよ」と思わず口走ってしまった。
自分から言う気なんてこれっぽっちもなかったのに、横で寝転ぶ彼の優しい横顔を見ていたらつい言ってしまった。
言った後すぐに「悔しい」と心の声が漏れた。
彼は少し微笑んで「わかる、先に言ってしまった方が負けな気がするよね」とこちらを見た。
「先に言った方が負け」
「これは彼も私のことを好きでいてくれてるという事なんじゃないだろうか」と心の中の小さな小さなポジティブが顔を出した。
「君は?君はどうなの?」
私から目を離さない彼を見つめ返しながら私は問いかけた。
待っている答えはひとつだった。
彼は少し微笑んだまま目を逸らして「俺もちゃんと好きです」と呟いた。
言った後すぐに「もう二度と言わない」と、心の声ではないであろう声が漏れた。
照れ屋な彼らしい、照れ隠しの一言だった。
「好き」という言葉のパワーは恐ろしい。
たとえ仮に私が彼を好きじゃなかったとしよう。それでもきっと私は彼のその一言で、彼を男性として意識し、心の好きメーターが少しは上昇するはずだ。
悔しいくらいに私の中で「好き」のたった2文字は大きい存在なのだ。
私のように重たい人間に「好き」と言う時はある程度の覚悟をもってもらいたいものだ。彼は軽い気持ちで言ったつもりかもしれないが、私の心の中ではその日から私と彼は「両思い」となったのだから。
距離を取られている今でさえ、私の気持ちはその言葉に縛られて動けないでいる。まだわずかで小さな可能性を恥ずかしげもなく信じようとしている。
どうして好きなままなのか
どうやったら好きじゃなくなれるのか
そんなことを考えながら1人酎ハイを空ける夜である。
みおり