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【創作大賞2024 恋愛小説部門】#1 サカモトリョウマは4度未来に呼ばれる Prolog+Episode1

☆あらすじ☆

坂元涼真(サカモトリョウマ)は、近い将来、可愛い嫁を見つけて子供を作って、優雅で幸せな生活を送りたいというありふれた夢を持っている。しかし、未だに彼女無しのちょっと陰キャな大学4年生。

いつものように一人暮らしの部屋でタブレットで動画を観ながらダラダラ過ごしていると、いきなり目眩がして、目の前がブラックアウトした。

気が付くとそこは遙か未来で、幕末時代の服装を模したイサミ局長、ソウジ、オトメが周りを取り囲んでいた。彼らは過去の地球の歴史を検証する『歴史検証課 幕末担当』のメンバーだった。涼真は同姓同名の偉人「坂本龍馬」に間違えられてこの遙か未来に呼び寄せられたのだという……。


☆Prologue☆

 あり触れた夢を敢えて声高らかに叫ぼう。

 近い将来、可愛い嫁を見つけて子供を作る。そして、無理かもしれないがタワマンかなんかに優雅に住んで幸せな生活を送るんだ。

 残念ながら彼女のかの字もいないけれど。

 現実は二次元のように甘くない。そんな事は既に大学生で大人の僕には痛いほど分かる。でも、夢に思うだけなら誰にも迷惑を掛けないし無害だ。

 大好きなVチューバーも言っていたじゃないか、「デカイ夢をぶち立てる人に悪い人はいない」って。「そーかあ? デカイ夢をぶち立てる奴ほど胡散臭いと思う」って友達は言っていたけれど気にしない。

 そもそも、結婚してタワマンに住む程度が「デカイ夢」かと言われると、中途半端過ぎて自信がない。

 大学の講義を終えて帰宅して、一人暮らししているアパートの部屋でそんなくだらない事をウダウダと考えながら、いつものようにベッドの上でゴロゴロ寝ながらタブレットで動画を観ていた。サークルやらコンパは陰キャの僕にはあまり縁がない。

 推しのVチューバーの動画が終わりかける頃、軽く眩暈を起こした感覚が襲ってきた。少し吐き気もする。しかし、それは数秒の事でいきなり目の前はブラックアウトした……。


☆Episode1☆

「……あ、きたきた。サカモトリョウマ様!」

 微睡みの中で、うっすらとそんな女の子の可愛い声が聞こえた。起きて確認したかったが、身体はダル重くて目もまともに開けられない。

「あれ、おかしいな。サカモトリョウマってこんな服装だっけ。年も若い気がする。イサミ局長、何かおかしくないっすか?」

「ん? お前は幕末配属されてまだ浅いからな。ちょっと待て。今、確認する」

 2人の男の焦ったような声が聞こえた。俺の目はまだ開いてくれない。

「……おおい! オトメ、お前『また』時代設定間違えただろ? 」

 「えええ?  そうですかぁ?」

「このサカモトリョウマは西暦2024年在住だ。『今度』は172年ズレるってどんなミスだ。お前のミスはいつもメチャクチャだな……」

「まあまあ、イサミ局長。そんなに怒らないで下さいよ。ダメなら突き返せば済む話でしょーし」

「イサミ局長、大丈夫ですよー。『今回』のヒヨウはオトメが既に払っていますから!」

「何だと?? オトメ、いつの間に……」

「ふふふ、任せて下さーい。オトメだって、やる時はやるんです!」

「え、そうなのか? オトメちゃん凄いなーそれならオレも沖田総司呼びたいなー」

「それは無理ですよぉー諦めて下さい」

「ちぇ、ケチだな。しゃーない、オレもヒヨウを貯めるか……」

 既に目を開けられる状態にはなっていたが、何となくバツが悪くなって寝た振りをした。話の流れからどうやら同姓同名の偉人「坂本龍馬」と間違えられて未来?にタイムスリップで呼び寄せられているらしいが、そんなの夢に決まっている。

「それはそうと、イサミ局長、この似非サカモトリョウマどうするんすか?」

「そうだな、突っ返すのも諸手続きが面倒だ。いっそ消すか?」

 「消す」というこの上なく不穏な単語が耳に張り付いて、慌てて目を開いて起き上がった。何と、僕が寝ていたベッドごと知らない場所に移っていた。

 辺りを軽く見渡すと、やたら広い場所でまるで以前観たSF映画のようなネオンライトが光っていて、モニターと椅子だけがある部屋だった。僕の寝ている木製のベッドだけが雰囲気から浮いていた。

 恐怖に震えながら起きてみたら、先程の声の主達がまるで僕を動物園の檻の中にいるパンダでも見るように凝視していた。居たたまれなくなり、僕はたまらず恐る恐る口を開く。

「あ、あの……僕……」

 すると、ハッと我に返ったように、先程ソウジと呼ばれた僕よりも少しだけ年上と思われる若い男が苦笑いを浮かべた。この人、醸し出す雰囲気が圧倒的にチャラい。

「あーさっきのイサミ局長の聞こえちゃった? もちろん冗談だからね」

 横でオトメと呼ばれていた女の子が「ソウジさん、目が笑ってませんよ?」と突っ込んでいた。確かにソウジさんはとても冗談を言っているとは思えない。イサミ局長と呼ばれた中年で、この中ではリーダー格の男が軽く咳払いをする。

「当然、冗談に決まっているだろう。連れて来た過去人は『原則』、きちんと元の時代に戻さないと……」

 やっぱり未来に来たのか。それにしても、周りを囲む3人の恰好を見て、つい声に出してしまった。あまりにも、この未来の部屋とミスマッチだったからだ。

「それ、コスプレですか?」

 僕は歴史に関してはそれほど詳しくはないのだが、イサミ局長・ソウジ・オトメという名前を聞いて何となく予感はしていた。恐らく新鮮組の近藤勇局長と沖田総司、そして坂本龍馬の姉の坂本乙女。このオトメちゃんを見ていると、どっちかというと典型的な妹キャラだろうけれど。

 まるで幕末の大河ドラマを観ているようなそんな服装だった。イサミ局長とソウジさんは新撰組の隊服、オトメちゃんは髪をきちんと結っていて、茶屋にでもいる娘さんのような着物姿だった。

 イサミ局長が怪訝そうな顔をして、こちらを睨んでいた。元々目付きが鋭いので僕は震え上がった。さすが近藤勇、新選組の局長だ。いや、その真似をしているだけだとは思うけれど。

「こすぷれ? おい、ソウジ」

 ふと、ソウジさんにアイコンタクトすると、ソウジさんは意図を掴み取ったようで、ポケットからスマホよりも更に小さなメタルチックな機械を出して、その機械に口を近付けて「こすぷれ」と声を掛けた。令和でいえば「Siri」みたいなAIだろうか。

「えーと、あれは、パルっていう誰でも持っている万能携帯端末なんですよー。サカモトリョウマ様が生きている令和時代のスマホを何万倍も進化させた感じですかね!」

 オトメちゃんが人懐っこく僕の横にちゃっかり近寄ってきて、得意げに解説していたが、どうもレトロな着物姿なので調子が狂う。それにここがどれくらい未来だか分からないのでいまいちピンとこない。

『コスプレとは漫画やアニメ、ゲームなどの登場人物やキャラクターに扮する行為を指す。コスプレを行う人をコスプレイヤー 、レイヤーと呼ばれる』

 パルは流暢に説明した。AIなんかとは違うまるで人間が本当に喋っているような自然なアナウンスだった。そして、光ったと思ったらまるでプロジェクターのように目の前に動画が映し出された。そこには僕も良く知っているコミックマーケットや秋葉原でのコスプレの様子が映し出されていた。

「なるほど、こすぷれとは大昔の文化なのか。だが、俺達がこの服装をしているのはこんな遊びではない。立派な仕事だ」

「えー? オトメは存分に楽しんでますよ?」

 横からオトメちゃんが着物の袖を楽しそうにひらひらと振り回していた。イサミ局長は眉間に皺を寄せて、ソウジさんの方を向いた。どうやら、このオトメって女の子は天然気質があるみたいだ。良く見ると、僕の好きなVチューバーのグループにいる女の子に似ているような気がする。声もアニメ声だし……。

「……ソウジ、コイツがいるといつも通り話が進まなくなりそうだから一緒に司令に定期報告に行ってくれ」

「へーい」

 ソウジさんがオトメちゃんの肩を叩いて部屋の外に出るように促した。彼女はそれに従いながらも、まるで珍しいパンダから離れるように名残惜しそうな視線を僕の方に向けていた。

「サカモトリョウマ様! また来ますからねー!」

 そう言いながら可愛く手を振って、ソウジさんと共に部屋を出ていったが……。おいおい、頼むからこのおっかなそうなイサミ局長と2人にしないでくれ……。


「さて」

 2人が部屋から出て、イサミ局長と二人きりになってしまった。圧が部屋に充満すると身構えていたが、彼の雰囲気はすっかり柔らかくなった。

「サカモトリョウマ、悪かったな」

「え?」

「オトメは相変わらずドジだし、新任のソウジは優秀だがサボり癖があるし……」

 眉間に皺を寄せるイサミ局長の様子を見て、中間管理職のオジサンの愚痴を聞いている気分になってきた。僕の父もきっと職場ではこんな感じなのかも。こんな遙か未来でも上司と部下の関係って変わらないのだろうか。

「君にはまた見苦しいところを……」

「ん? またって、僕と以前会った事あるんですか?」

 素朴な疑問をぶつけると、イサミ局長は一瞬、目が泳いでいた。しかし、その後軽く咳払いをしていた。誤魔化しているように見えるのは気のせいだろうか。

「あーいやいや、勘違いだ。オトメは以前にも『サカモトリョウマ』を間違えて呼び寄せた事があるんだ。本当に困ったもんだよ」

  確かにサカモトリョウマって名前自体は歴史の偉人と同姓同名だが、「サカモト」も「リョウマ」も漢字が違えば昭和だろうが、平成だろうが、令和だろうが、珍しくないかもしれない。ちなみに僕も「坂元涼真」なので漢字は違う。

 和んで親近感が沸いたので、最初から感じていた疑問を恐る恐る聞いてみた。

「すみません、今って西暦何年なんですか?」

 すると、再びイサミ局長が眉間に皺を寄せる。

「西暦は廃止された。今はNE320年だ」

「は……はあぁ……」

 想像していた以上に未来過ぎる。最低限でも320年未来という事になる。いや、西暦が廃止されるなんて僕達の時代からは考えられないので、相当未来かもしれない。過去から人間をタイムスリップで呼び寄せるなんて、そこまで未来にならないと無理だろうから、むしろ真っ当なのか。

「サカモトリョウマ」

 イサミ局長が僕の名前を呼んだが、急に眩暈が襲ってきた。僕が思わず両手で頭を抱えると彼が優しく言った。

「我々のミスで君を間違いで呼び寄せて申し訳なかった。タイムスリップは身体に非常に負担が掛かる。一晩ゆっくり休んだら元の時代に戻してやるから安心してくれ」

「え……」

 一晩寝たら令和に帰れる。そう思ったら安心したが、それよりもこんな未来に来たのに何も見学しないで帰るのももったいないと思った。

「あの……。せっかく来たからこの時代を見学したいんですけど」

 すると、イサミ局長は首を激しく振った。

「それはダメだ。君は予定外の来訪者で、本当はすぐにでも返さないといけないんだからな」

 そうだよな、残念……と思っていたところに、部屋に柔らかいベルが鳴り響いた。イサミ局長がドアの方向を向いただけで部屋のドアが自動的に開いた。

「アオイ、どっから聞きつけた」

 イサミ局長が深いため息を付いて、ドアから部屋に入ってきたスーツ姿の女性を睨んだ。

「あら、イサミ局長、ご挨拶ね。『私が来た理由』は当然分かっているでしょうに……」

 彼女はまだ幼い雰囲気を残すオトメちゃんとは違ってオトナの女の雰囲気を纏っていた。そして、服装も僕が見慣れた感じ。長い黒髪を後ろで束ねていて、いかにもバリキャリという紺色のビジネススーツを着ていた。それもそのはずと彼女の自己紹介で分かった。

「サカモトリョウマ……いえ、リョウマ君。私は歴史検証課令和担当のアオイよ。貴方の身柄はこの私が責任を持って引き受けるわ」

「……仕方ない、アオイ、あとせいぜい2日が限度だからな」

 イサミ局長が釘を刺すように付け加えていた。

 あと2日でも僕はどうやらまだ帰らずに済むようだ。不安もあるが、少しだけ心が躍った。

Episode2へ続く


各話へのリンク

Episode2

Episode3

Episode4

Episode5

Episode6

Epilogue


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