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346.雑記 / 最後の息


noteを開くとき、とても注意ぶかく操作をする。そうじゃないと見えてしまうから。なにがって、前日に書いた記事の”スキ”の、数が。

数が多かったら(あくまで当社比)変に調子に乗ってしまったり、無意識に「この路線がウケるんだな......だったらもっとやろう / もうやめよう(そう、やめたくなってしまうのだ!ばかばか!)」という路線バイアスが発動してしまうし。

数が少なかったらふつうにしょんぼりしてしまって「ちぇ。もう書かないやい」みたいな気持ちになる。

どちらの気持ちもわたしにとっては持て余してしまうものなので、結果「見ない」という選択肢が残る。そうっとそうっと、スクロールしたりしている小心者の自分を、なんだかなあ〜という気持ちで今日もながめている。

永遠の陰キャのわたしにとって、人気者は永遠の憧れだ。


朝イチのZOOMミーティングで次の研修案件のアウトプットイメージの確認をしたら、一気に気が抜けてとてつもなくだらだらとした一日だった。あ、前職で研修関連のお仕事をしていたので、今もたまに案件によっては依頼をもらっているのです.....。

ずっと本を読んで(頭からっぽでも読めるやつ。まちがってもプルーストとかマルケスとかトルストイとかではない)、疲れたらちょっと眠って、お腹が空いたらてきとうになにかかじって.....みたいな過ごし方。

うーん、この非生産的に一日を過ごす感じ、久しぶりだ。とても安らいだ。意義のあることはなにひとつしなかった(筋トレはした)。ゆるめて、スペースをつくるための大事な日だった気がする。
ほんとうはWEBメディア原稿のための取材が入っていたのだけど、同行する方の都合でリスケになったので、ぽっかり空いた午後だった。

リスケ。ドタキャン。遅刻。
どれも望ましくないことではあるし、わたしもよっぽどのことがない限りそれらを選ぶことはないんだけれど、ここ最近は先方都合でのそういうことが重なった。そして、そのどれもが「このタイミングで、それはありがたい」というものばかりだった。

あまりドラマも大きな葛藤もなく過ごす日々が、きれいなパズルをぴしぱしと並べていっているみたいに見える。ひとつひとつの形も大きさもばらばらなピースが、枠にぴしりとはまっていく。
いま自分が流れていっている方向でまちがっていないんだな、と思える。
なので、だらだらして、なにも生み出さないように見える日でも、なんていうかちゃんと決まったピースが決まった場所にはまっているので、なんの心配もないんだろうな。


料理をしていたら、ハルヤマさんのことを思い出した。
わたしが大学生のとき、ちょっとだけ付き合っていた年上のひとだった。どこかの芸術系の学校を卒業していて、おそろしいほどピアノがうまかった。

両親がいなくて、金髪でイケメンでやんちゃそうなお兄さんと、金髪で美人でやんちゃそうなお兄さんの彼女と暮らしていて、わたしもなんとなくそこに転がり込んで過ごしていた。

部屋がとにかく狭いのに、部屋いっぱいにグランドピアノがあるものだから、わたしたちはなんとグランドピアノの下に布団を並べて寝ていたのだ。今考えるとどういうシチュエーションだったのだろう。それでも、若かったから、なにもかもがキラキラしていた。

彼がその古いグランドピアノで奏でるグールドも、グランドピアノの下でくっついて眠る日々も、くっついて寝ていたら、お兄さんとお兄さんの彼女が老夫婦のように穏やかな会話をしているのが隣のお風呂場からつつ抜けで、そのふたりがくすくす笑う声を聴きながらやっぱりわたしたちもくすくす笑ってしまう夜も、流れ星みたいにきれいだった。

そんな風景しか思い出せない。けど、今日料理していて思い出したのは、その風景ではなくって、彼がふとわたしに言った言葉だった。


「みおちゃん、ひとが死ぬところって見たことある? ひとが、死ぬ瞬間。」

「俺は見たよ。母さんが死んだとき。病院にいたんだ。あのね、知ってる?ひとって、最後に息を吸うの。」

「ほんとうの最後の最期にね、ひゅうって息を吸い込むんだ。俺、知らなかった。ほら最期ってさ、息を吐いて死ぬのかなって思ってたっていうか。身体から力が抜けるってそんな感じじゃん、だから。」

「でも、逆なんだよね。俺、すごい覚えてる。母さんが、最期に息を、吸ったことを。」


どうしてそんな会話ですらない、つぶやきのようなことを思い出したのかはわからない。でもなんとなく、それは彼の中で何度もいろんなひとに語られるものではなく、たまたま、ほんとうにたまたまそのとき隣にいたのがわたしだったから、出たものだったように思う。


吸い込まれた息は、どこにいったのかな。


たぶん、それを聞いていたときわたしが思っていたであろうことを、今日思い出したときにやっぱり考えてみた。吸い込まれた息はもう、吐き出されることはない。呼吸になることのなかった、最後の息。


ハルヤマさんがわたしのことを忘れても、きっとその「ひゅうっ」という息の音を、彼が忘れることはないのだろうな、と思った。


ユンギさん、お誕生日おめでとう。
ユンギさんと、ユンギさんの大切なひとたちが、つらい思いをしませんように。いいことがいっぱいありますように。



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