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鼬も狸も獺も…「思い出す」

              (約1090文字) 
       
 今月はウチの班が自治会のゴミ当番なので、毎週月曜日は朝7時前からお片付け。
 いつからか、新顔が来ている。最近引っ越してきた人だろうか?
 歳は40代くらいのほっそりとした女性、地味なブラウン色のサマードレスを着た物静かな人だ。話をすることはなく、それでも手際よくゴミを分別して袋に選り分けてくれる。終わると、目を伏せるように会釈して、どこへとも無く帰っていく。

「おとなしい人ですね~最近越してきた方?」
私は班長をしているお隣のEさんに聞いてみた。Eさんは、なぜかふふっ、と笑ったあとで、こう言った。
「あの人は人間じゃないと思うわ」

ええっ!人間じゃないってどういう事?
「なんだか初めから様子がおかしかったのよね」
どんな風にですか?
「話しかけても要領を得ないというか、返事はしても言葉尻がはっきりしなくて何言ってるのかわからないのよね」
それだけですか?
「それと、なんていうか…楽しそう」
楽しそう??
「昔、祖母から聞いた話で、人間のすることを真似してみたい動物がいると、見て覚えてチャレンジしてくるらしいのよ」
狐とか狸とか?
「かしらねぇ…」

 私は、夕方になると屋根の上を走っていく小動物がいる事を思い出した。猫ではないと思う。イタチ、かもしれない。うちの屋根裏で昼寝しているのだろうか。Eさんはさらに言う。
「歌手の○○っているでしょ」
 ○○は、日本人ならまあ誰でも知ってる中堅の演歌歌手である。
「あの人、タヌキらしいわよ」
 真顔で言うEさんに、思わず「はああ~?」とツッコミたくなる。○○は、ナントカ賞とかも過去にもらっているし、今もテレビに出ている。それがタヌキって…?
「人間のやってる事をよーく観察して真似してるから、要領がいいのよ。成功のカギはそこね」
 え、でも事務所とか会社は?
「もちろん知っててやらせてるのよね。だって、お金稼いでくれるなら、別に人間じゃなくてタヌキだって全然かまわないわけだし」
 まあ、確かに…
「本人もやってみたくて、真似してうまくいったから、楽しい人生みたいだし」
 人生…
「あ、タヌ生か!」

 うーむ。単純に楽しく生きていくことの意味。いいじゃないの、幸せならば。
 Eさんは、ゴミ当番に来るイタチ?も、人手が足りないし手際がよくて助かるから、別にとがめもせず一緒にやっていければいいと言った。
 私も、それでいいかと思った。
 ふと、最近、水辺に妙にひかれる自分のことが気になった。しかも道端に小枝をみつけると、口にくわえて持ち帰りたくなる。
 私はもしかしてカワウソ🦦?ヌートリア?
えっ?そうだったっけ?😳

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