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刻一刻物語

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時間と場所と記憶と夢と。 とりとめがないけれど、 いつか思い出すための物語格納庫。
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#稲垣足穂

星の取引

星の取引

 今夜Kobe、M埠頭のS倉庫の前で、星取引をしようという話が出たらしい。私はそれを昼間買いに行った市場の中の豆腐屋の親爺から聞いたのだが、疑わしいので笑って済まそうとすると、商工会議所が絡んでいるから本当だ、などと言って妙に引き下がらない。
 まあ、ここKobeにおいては、そんな事があってもおかしくはない土地柄ではある。

 星は常に作られてはいるものの、それほど需要が無いため、供給過剰となって

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記憶を売る店

記憶を売る店

 古い市場の中を歩いていた。シャッターが閉まったままの店舗が増えて、寂しい感じがするが、再来年には創設100周年を迎えるという長い年月を経てきた市場だ。
 乾物屋やお惣菜屋、魚屋、漬物店などが元気に営業中だ。

 ふと、見慣れない店があるのに気がついた。古いガラスケースや木製の古い棚にごちゃごちゃと色んな物が置かれている。
 最近できたのかな?アンティーク、というよりはガラクタに近い商品の数々。

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取り返しのつかなくなった話

取り返しのつかなくなった話

 それはたまたまほんの少しの時間、わたしがその部屋に一人きりになったことから起こった出来事である。
 その時ある装置のことをふと思い出したのだ。それは上司の机の引き出しの上から2番目、奥の仕切りをはずした下にあることを、なぜかわたしは知っていた。
 上司と飲みに行った酒の席で、酔った彼がふいに漏らしたのだったか、それとも一緒に得意先に向かう車の中でなんとなく話題が欲しくて彼が冗談めかして話したのだ

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