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ポーランド民話『二人のドロータ』③

 孤児みなしごドロータは精一杯働いて(というか、彼女にとっては普通の働きのようですね)元の世界に戻ってきました。もう一人のドロータの心の中は、それはもう、皆様のご想像の通りです。
 
 では、このお話最終回 はじまり はじまり~


娘は夜遅くまで、今までどこにいたのか、何を見たのか、どんな奉公に出ていたのか、そして奉公の報酬で何をもらったのかを話した。

 緑のつづらを開けると、中には金銀財宝から金の刺繍が施されたリボンまでたくさん詰まっていた。
 床に就いても、誰も寝付けなかった。

 父親は、こんなにも美しくなって富を持った娘に、どんな相手を見つければいいのかと考えていた。
 継母は、こんな幸運をどうやったら自分の娘にも授けることができるか、と考えていた。
 娘っ子は、どうしてあの宝が自分のモノではないのか、と嫉妬に駆られてベッドの上で何度も寝返りをうっていた。

 孤児みなしごはこの富で、父親に暖かい洋服と靴を買わなくては、と考えていた。そして残りの財で、どうやったら力仕事をしなくてはならない老婆を助けれるか、道端にほっとかれている子供をなんとかできないものか、でもどうやって、と考えあぐねていた。
 皆が眠りについたのは朝方になってからだった。

 数日すると、継母が自分の娘に言った。
「お前も井戸に飛び込んで、歯の大きな老婆のところに奉公に行くんだよ」「そんな、怖いわ、お母さん」
「何が怖いもんか、おバカさんだね。もっと金銀財宝が詰まったつづらを持って帰ってくるんだよ」

 2人で井戸の所へ行くと、母親は娘を井戸に突き落とした。ドロータは水の中に落ち、底までつくと目の前に扉が現れた。
 取っ手を引っ張り、敷居を超えた。

 そしてそこには、話に聞いていた通りの場所があらわれた。ドロータが道を進むと周りは春一面。太陽は輝き、草原は花が咲き乱れ小鳥がさえずっている。

 分かれ道に行き当ると梨の木があった。空に星がちりばめられているかのように、木にも実が沢山なっていた。実をたわわに実らせ、枝という枝が重みで地面まで垂れ下がっていた。そして梨の木が訴えていた。


つらい、つらい私の運命
枝の手は痛むだけ
強い風が吹くこともなく
梨の実が落ちることもなく
枝の手が痛むの
つらい、つらい私の運命


でも、娘っ子は全く気にとめなかった。
「しかたないわよね」と肩をすくめると、梨を数個だけもぎ取りさらに道を進んだ。


 次の分かれ道に差しかかった。ここではパン窯が人の声で文句を言っていた。


川にながれる水滴が無数であるように
パンも長い時を無限に焼かれている
誰が情けをかけてくれるのか
パンを窯からだしてくれるのか


でも娘っ子は全く気にとめなかった。
「しかたないわよね」と肩をすくめた。そして窯を開け、一番きれいに焼けているパンを取り出すと、他の残りは窯の中に残し先へと進んだ。

 前へ前へ進んでいたのだが、あのパンがとても重く感じた。
「ちょっと座って休憩しましょう。少しおなかもすいたし」
木陰に腰を下ろし、前掛けの中を見るとパンは大きな石に、梨は焼き物の粘土ように変わり果てていた。

 結局、全部捨てなければならなかった。仕方ないので起き上がり先へ進もうとしたのだが、とにかくお腹がすいていて機嫌が悪かった。ようやく、目当ての小屋にたどり着くと小屋の前には歯の大きな老婆が立っていて、娘に聞いてきた。

「娘さんよ、どこに行くんだい」
「奉公先を探して歩いてるの」
「じゃぁ、私の所はどうだい」
「いいわよ」と、娘は言った。あの金銀財宝の詰まったつづらのことが頭にあったのだ。

「仕事の量はたいしたことはない。部屋を片付けて、ベッドを整え、犬と猫に食べさせるぐらいだ。1年奉公したら、働き具合によっておまえさんに褒美を取らせよう。そして家に戻してやろう」

 小屋の中に入ると、娘は猫を手で押しのけ、犬を足で押しやった。
『高みの見物といきましょうか。だれがよその家の動物に餌をやるっていうのよ』と考えていたのだ。
 そして、あのつづらが小屋のどこにあるのかだけを見て回った。

 歯の大きな老婆は用事で出かけたのだが、娘っ子はそば粉を料理すると自分だけ食べ、猫にも犬にもあげなかった。そして腹を空かせている動物を小屋から追い出すと、横になり寝始めた。

 夕方になり、歯の大きな老婆が小屋に戻ってきても、部屋は全く片付いていない。ベッドは起きた時のまま、床は洗われてない、使った食器はそのまま部屋の真ん中に転がっている。猫も犬も家にいないが、娘っ子は庭の大きなリンゴの木の下で眠りこけていた。

 「なるほどね、お前の奉公はこういう事かい、娘さんよ、、、」

 このように、1日、1週間、1か月と時間が過ぎていった。娘っ子は自分のことだけを考えていた。小屋の中は全く掃除されず、床にはゴミが転がっている次第だった。蒲団や枕はぺっちゃんこ、犬と猫はがりがりにやせ細ってしまい尻尾は垂れ下がり目やにもすごかった。食べ物がもらえないので、自分達で畑や森で狩りをして調達しなければならなかった。

 こうして1年が過ぎた。

 歯の大きな老婆は犬と猫を呼んで尋ねた。
「お前たち、この娘の奉公にはどんなつづらを授けようかね。緑かい、それとも黒かい」
「ワンワン、黒!」犬が吠えた。
「ニャーオ、黒!」と猫が鳴いた。

 歯の大きな老婆は黒いつづらを持ってくると、娘っ子と別の挨拶をした。娘っ子は犬にも猫にも見向きもせず、黒いつづらを受け取ると道へ出た。
 老婆が娘っ子の背中をなでると、突然娘の頭のてっぺんから足の先まで、タールのようなドロドロとしたものがまとわりついた。

 娘は10歩も前に進まないうちに、つむじ風に巻き込まれて3回転ぐるぐると体ごと回され、気が付くと庭の井戸の前にいた。家の前には父親と、母親、そして孤児みなしごがいた。

 母親は両手を前で叩き、大きな声で叫んだ。
「どこに行っていたんだい、お前のきれいな衣装はどこにあるんだい」
 母と娘はつづらを急いでつかんだ。
 どんなお宝がはいっているのだろう。開けてみると、、、中からは虫やアマガエル、蛇、イモリなどがぞろぞろと出てきて周り一帯に溢れだし、草陰に隠れた。

「一体全体、どんな婚資をもってきたんだい!」


  高い山の向こうに、広い川の向こうに小さな村があった。その村に小さな白い小屋があって小屋の中では音楽隊が音楽を奏で、花嫁の介添え人たちは歌い、村長は手を打っている。

 何が起きているかって?
 孤児みなしごと鍛冶屋の息子との結婚式だよ。

 継母と娘っ子は、継子の結婚式など見たくないと、家を出ていきそれっききりだった。


おしまい

こちらはこのお話の①、②部です。



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