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ババ・ヤガの耳の中の宝物

 ババ・ヤガはスラブ圏にいる魔女の代名詞のようなものですね。ババ・ヤガの詳しい図解説明?は次回にするとして、今回の話は『2人のドロータ』に類似した話です。

 1967年にポーランドとウクライナ国境に近い村Świerże (国境から1㎞と離れてません)で採収された話で10年前にはこの村の住人は800人ぐらいいたそうです。

 それでは はじまり はじまり~


 あるところに男やもめが住んでいて、後家さんと結婚したんだよ。後家さんには娘がいたし、やもめにも娘がいた。

 つまり、こういう事よ『この男の奥さんは、男の娘が邪魔だった』。だから男に、娘を森に連れて行き、置き去りするように言ったんだ。男は娘を森に連れ出しこう言ったのさ。

 「漿果ブルーベリーを詰んでおいておくれ。自分は木を切り出してくるから」

 そして一見、男は木を伐り、娘は漿果ブルーベリーを摘んでいた。だが、男は板を木にしばりつけ、風が吹いたらトン、トンとなるようにしていた。娘はその音を耳にして男が木を切っているのだと思い声を上げた。

「おとうさん!」

板のなる音は響き、鳴りやむ。こだまは続いていたんだ。そして娘は待っていたのさ。そしてとうとう、音の鳴るほうに向かって行ったんだよ。夜になっていたからね。そして音がきこえてくる木の所に行けばそれは板っ切れで、父親はいない。娘は大泣きして、とにかくこの夜をやり過ごす場所を探すために更に歩いて行った。

 森のわきに小屋が立っている。娘は近づいていき中を覗き込むと老婆が座っていた。つまりババ・ヤガ、魔女だよ。

 娘は尋ねたんだ

「すいません、今晩一晩だけ、泊めてもらうことはできますか」

「ああ、いいとも。家で寝泊まりしていきなさい」

 更に老婆は言った。

「若い娘さんよ、お茶の準備をしてもらえるかい」

 娘はお茶を入れたのさ。

「部屋の掃除もお願いできるかい」

 娘は全て、きちんと片付けた。

「あたしの髪の毛を梳いてもらえるかい」

娘は老婆の髪の毛を梳いた。そして最後に老婆が言った。

「あたしの右の耳の中を見てごらん」

娘は老婆の右の耳をのぞき込んだ。そこには金銀財宝、ありとあらゆる高価な宝が見えた。

翌朝、娘が床から起きると老婆が言った。

「全て持っていくがよい」と、馬まで与え、とにかくすべてをこの娘に授け、娘はそれをもって家に戻っていった。娘を見ると、犬は(喜んで)吠え、馬はいななき、子牛たちは鳴いた。

 それを見た継母は男にこういった。

「私の娘を森に連れて行っておくれよ。あんな風にお宝をたくさんもらえるようにさ」

そして男は今度は妻の娘を森に連れて行き、漿果ブルーベリーを摘むように言いつけた。この娘はこれからどうなるかわかっていた。漿果ブルーベリーを摘んで、遠くでは板の音が聞こえていた。周りを見渡して、ようやく宵のとばりが落ちるのを確認すると継父を探すふりをして、家に戻りたいようなふりをして歩いた。そして、森のわきに立っているあの小屋を見つけた。

 「おばあさん、私を今晩泊めてもらうことできないでしょうか」

 「ああいいさ。泊まっていくがいい。

 そしてここに泊まることなった娘に老婆は言った。

「お茶でも淹れてくれんかな」

 娘はお茶なんていれたくなかった。老婆は部屋を片付けるよう言ったが、それもしたくなかった。何かを調べてくれるよう、食器を洗うよう頼んでみたが、娘はとにかく何もしなかった。そしてとうとう、老婆は言ったのさ。

「あたしの左の耳の中を覗いてごらん」

これには、娘はすぐに飛び起きると老婆の耳の中を覗き込んだ。この娘は耳の中に見えたものをもらえるのを知っていたからね。

 娘が老婆の耳の中に見たものは、蛇とか、カエルとか、そんなものがうじゃうじゃとしていたんだ。

「さぁ、この財産を抱えて家に戻るんだよ」

 娘はつづらを馬の荷台に乗せた。その馬も、牛も、まぁ、貧弱だったんだが、家に戻っていった。娘の姿が見えると、母親は家を飛び出した。

「私のかわいい娘が戻ってきたよ!財産もちゃんと手にしてるじゃないか!」

荷台から荷物を下ろすやいなや、母親は中を見ようとつづらを開けた。つづらの中からは蛇やカエルがうじゃうじゃと出てきて、この母親と娘を食い尽くしてしまった。


おしまい


 日本の昔話は、この手の話は男性の独壇場なのですがこの話が採収された地域一帯は女の子の冒険譚が結構多いですね。政治地理学上、歴史の中で絶え間なく敵の襲来があったはずです。だからでしょうか、女の子も知恵と勤勉さで逞しく生き延びなさい、とそんなことをいっている気がします。

 



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