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平凡な日の平凡な女のエコバッグ。(短篇)

ああ…今日も一日擦り減らしてしまった。遠回しで何かいいたげに言葉を浴びせてくる上司に「あぁ、こういう人にはなりたくない」と思いつつ、言い訳がましく自分の口から出てくる言葉に自分が一番興ざめしている。…もう半額シールのついたのり弁当と金麦でも買って帰ろう。甘いものも食べたい。

目に入ったのはクリームたっぷりまるごとバナナ。手を出すか出さないか…203円を前に格闘する。こいつ、めちゃくちゃクリーム入ってるな。しかも自分へのご褒美にちょうどいい絶妙なサイズ感。お祭りのクレープはチョコバナナ生クリームを食べ続けてきた人生、バナナと生クリームの相性には6歳でお墨付き。くそ、なんかバナナがうらやましい。バナナのくせに、クリームで包まれてるし。バナナのくせに「人々に小さな幸せを」って就活の時に自分で語っていた理想も疲れた心を癒す包容力も持ち合わせるのね。ってかバナナだから、無条件に心を許してしまうのか。こいつ…モテるな。

なんて考えていたら、ほたるの光が流れてきた。

「言われなくても帰りますようっだ」

多少ふれくされながらも、まるごとばななをしっかり手にとったままレジに向かった。
水曜日の閉店間際に必ずいるレジの店員は、少し機嫌を悪そうに値段をつぶやく。ごてごての装飾をつけた長い爪なのに、どの店員よりも早く器用にレジを打つ女だ。

「レジ袋はご利用ですか」

「あ、大丈夫です」

あぁ、そうだった。先週から始まったレジ袋有料化。3円だってお金をとられるのは惜しい。
しかもインスタで流れてくるのは、エコバッグをもってこちらに微笑みかけてくる女の子たちばっかり。ふんわりレースのふわふわ系の子だけでなく、デニムにボーダーTを着ている子も、迷彩柄のパンツを履いているストリート系の子もいる。そんな数々を目にしていたら、嫌でも#エコバッグを押してしまった。気づけば小1時間ほどURLを渡り歩き、なんとなく選んだのはナイロンでクラッシクカーキーに色づいたシンプルなやつ。くしゃっとしている質感が気に入り、即購入。それが昨日届いたのだった。

カバンの奥からそれを取り出し、半額弁当と発泡酒とまるごとばななを入れて肩に下げる。
隣のレジのおっさんは、苛立ちを隠しきれず嫌味をぶつくさつぶやきながらも商品を両手で抱え込んで帰っていった。

なんだか、ナイロンクラッシクカーキーが少しだけ愛おしく思えた。

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