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大統領選は小が大を制するか

 政治資金規正法が問題となっている日本にあって米国の選挙資金集めは堂々としている印象さえ受けます。11月の大統領選に向けた選挙資金で一般の人々から募る小口献金が目立っています。資金調達のデジタル化が進みバイデン大統領の陣営は小口献金が集金額の半分近くを占めます。トランプ前大統領の陣営もグッズ販売を含めて草の根レベルの集金を強化しています。
 「政治はカネ次第」は現実なのでしょう。米国大統領選につぎ込まれる資金規模は今世紀に入って以来、民主・協和両党候補ともに顕著に拡大してきました。両陣営が費やした資金規模は2000年が14億3000万ドル、2004年が19億1000万ドル、2008年が27億9900万ドルとうなぎのぼりとなり前回2020年選挙では一挙に57億ドルと史上最高額を記録しました。今年はそれをはるかに上回る額に達しそうです。
 米国では通常、個人が特定候補相手に選挙ごとに献金可能な額は連邦選挙運動法によりひとり3300ドルに制限されていますが、候補者はこれ以外に「特別政治活動委員会(スーパーPAC)」と呼ばれる政治資金管理組織を通じた資金であれば無制限に集められ、TV広告などに存分に注入できるようになっています。
 2020年の大統領選では「スーパーPAC」からバイデン陣営に16億ドル、トランプ陣営に11億ドルに上る資金が選挙費用としてつぎ込まれました。今回も両陣営は莫大な費用を賄うためにもこの「スーパーPAC」をいかに多く組織し、いかに多額の資金を集められるかが今後の選挙戦の重要なポイントになるとみて各方面への働きかけに躍起になっています。
 バイデン陣営では大口献金者を含めた集金活動が勢いを増しつつあります。この中には小口現金もあわせ全米各州にまたがる160万人のバイデン支持者からの出資が含まれているといいます。世論調査より実際に自分の懐からお金を出して応援してくれる人がいかに多いかが勝負の分かれ目になると考えられています。
 劣勢挽回へトランプ陣営も大規模献金獲得を目指して富豪者たちを招いた個人的なイベント開催などに乗り出しています。ただ、こうした大口献金で豊富な資金が集まったからといって、それが本選での集票に直結するわけではありません。むしろ1口200ドル以下の小口献金者の多寡が決め手になると言われています。
 この点でもバイデン・トランプ両陣営を比較した場合、バイデン氏側は集金総額のうちの55%が大口献金者、45%が小口献金者で占められているのに対し、トランプ氏の場合は大口献金者が64%、小口献金者が36%の割合となっています。これまでのところ、小口献金者数でトランプ氏をはるかに上回るバイデン氏のほうが大小合わせた献金総額でもリードしていることは今後トランプ陣営にとって課題を残していることを示しています。
 トランプ氏にとって懸念材料は待ち受ける相次ぐ裁判弁護費用問題です。トランプ氏は(1)不倫口止め料不正処理事件(2)2021年米議会乱入・占拠事件への関与(3)政府機密文書持ち出し事件(4)ジョージア州の大統領選挙結果転覆工作、の4件の刑事事件で起訴されており、それぞれの裁判に向けた莫大な弁護士費用の出費を迫られています。このほか不動産不正売買をめぐる民事裁判では一時判事から命じられた4億5400万ドルにのぼる保証金支払いが現金不足でできなくなり弁護士を通じて1億7500万ドルへの減額を直訴し認められたいきさつがあります。
 今後も一連の刑事事件関連の弁護士費用が一段とかさむため大統領選挙用の資金転用は避けられない見通しです。したがって、トランプ陣営にとって11月の大統領選投票日に向けて財政面での不利を克服すると同時にバイデン陣営を資金集めで逆に大きく引き離せるかどうかが重要なカギとなるとみられています。
 米国にとっての大統領選は4年に一度のお祭りのようなものであり、国民一丸となって盛り上がるのですが、小口献金者が増えているのは民主主義としては良い傾向だと思います。日本も大口献金より小口献金が半数近く占めるくらいの盛り上がりを見せるのであれば民主主義が機能すると思います。しかし、政治は金次第という現実を前にどんなことをしても金を集める政治家に対する国民の不信と軽蔑がある限り、日本に民主主義は機能しないということになるのでしょう。

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