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敢えて考察しない(できない)、感想の羅列

話題のジブリ最新作「君たちはどう生きるか」、公開後すぐに観たのだけれど、感想がまとまらないなと思っているうちにそこそこ時間が経ってしまった。

既にさまざまな感想、批評、考察が世に溢れている。
なるほどそう解釈すると辻褄が合うんだなと思わされるものもあれば、それはどちらかというとあなたの思考の投影では……(あるいは作品の解釈とは多かれ少なかれそういうものか)と思ってしまうものもあり。

なんにせよ人の感想を読むばかりで自分の感想を忘れそうなので何かしら書こうと思うわけです。

《というわけで早速ここからネタバレ有り感想》

感想というか、正直未だによくわかっていないし考えもまとまっていないので、観ている間に思ったこととか受けた印象、記憶に残っている場面をつらつら挙げていく。
だから、いわゆる考察や批評はしないつもりで書き始めています(この作品のことは下手にわかりたくない気もする)。

一番に覚えているのは映像の凄まじさ、色彩や質感の明晰さと密度の高さ。
冒頭の火事のシーン、町の混乱と喧騒、真人の母親を連れていってしまう炎の、この世ならぬものを思わせるような赤さとか。

生き物の描写。序盤の青鷺の動きがリアルなだけに得体が知れなくて薄気味悪いのも、お前らどこから出てきたんだという数の鯉とか蛙、何を考えているかわからない目をしたペリカンの群れの悪夢的な怖さ。

塔の床を抜けていった先の世界の海。個人的にはあの海の光景で思い出すジブリ映画は千と千尋の神隠し。あとはジョルジュ・デ・キリコとかダリの絵を連想する。あるいはマグリットとか。シュルレアリスム的なコラージュの世界。美しいが現実感の薄い、世の果て、別の世界とのあわいのイメージ。同じ時間がずっとループしてそう。時間という概念もないのかしら。いや、日が暮れたり夜になったりまた朝になったりするようだし、ペリカンがずっとそこから出られない話をしてるからそんなことはないのか。どっちでもいい。

全然関係ない作品だけれども森見登美彦さんの『熱帯』を読んだ時の感覚と、今回の映画を観ている時の感覚は自分の中では近かったかもしれない。

夏子さんの部屋(産屋ではなくて元の世界のほう)の、アンティーク調だとか異国風の家具や小物が並んでいるのを見た時は千と千尋とかハウルの動く城を連想した。ああいう細々した物の描き方が好きだ。

対照的に、大伯父のところに向かう時の、あのがらんとした空間の、本当にがらん、とした寒々しさ。
そういえば塔の中(床の向こうの世界全体ではなくて、建物としてのあの塔の中)も物で溢れているけれど手触りがなかった。

真人が鍵を開けてしまった墓のシーンも絵画的だと思った。
迂闊に手を出してはいけない圧倒的な何か。それが眠るところ。

ワラワラがかわいい。かわいいんだけど、何かこう、癖のないかわいさすぎて物足りない。真人の来た「上の世界」で生まれるために飛ぶらしいが、本当に?

ペリカンに喰われるワラワラ。全匹(匹?)は助けられない。生物が生きていくとはそういうこと。

高く高く飛んでも結局同じ島に戻ってきてしまうペリカン。どこの世界もそうか。

青鷺みたいな人っているよね、と書こうとしてみたが、具体的に自分の周りにそういう人がいるかしらと考えてみたらそんなにぴったり来る人は思いつかなかった。

一見マスコット的な見た目の人食いインコが棲む家、文章にするとB級ホラーに聞こえる。というか刃物を隠し持ってるインコの絵面にもそういう滑稽味と怖さが併存している感がある。あとインコのハト胸(という言い方は適切か?)がすごいので笑ってしまう。

一方であの物語の中で一番わかりやすく寓話的だったのもインコ達だったような気もする。

ヒミと真人の出会い。以前どこかで読んだ「海のような時間概念」というような話を思いだしたのだけれどあれは何だったか。後で探してみよう。
と、書きながら思いだした。『謎解きサリンジャー』の中にその話題が出ていた(のを自分でもnoteに書いていた)。
どっちにしてもうろ覚えなので後で読み返そう。これは自分のための備忘。

そういえばPeople In The Boxの曲を聴いている時の感覚もこの映画を観ている時のそれと近かった。

バターとジャムをこれでもかと塗りたくったトースト。ジブリ飯は健在。

産屋のシーン、本来命や意思を持たぬはずの物(石とか紙とか)がはっきりと真人を拒絶して攻撃するのが怖い。このあたりセルフオマージュもあるだろうか(全編通してセルフオマージュ的なシーンが多いのはいわずもがなとして)。

大伯父と真人の問答。ぎりぎりで踏みとどまっている世界。それも結局は崩れてしまう。
崩れて、そのあとは?
塔は崩れたけれどこちらの世界に変わりはない。人食いインコはただのセキセイインコになる。
どこまでが本当でどこからが虚構か。

塔を出たら忘れてしまう。真人は覚えている。それもいずれ忘れる。何もかも? そういうわけではない気がする。

この映画を私は個人的にかなり楽しんだし好きな種類の作品だと思ったけれども、筋書きや台詞はたぶんそのうち思い出せなくなる。夢から覚めた直後の印象だけ残る感じ。でもその時の印象は既に私の中に堆積していて消えることはなさそう。

本当に、自分でも思った以上にまとまりのない羅列になったけれども、これを書き留めておくことも何かの折に自分の助けになるのでは、と思う。考えすぎだろうか。

君たちはどう生きるか、もう一度観たいと思う一方で、混沌としたままの印象をそのままにしておきたい気もしている。 
そんな映画はなかなかない、というのは少なくとも言える。

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